In My Head by NewDad（2022）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.04.29

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 思考という牢獄に閉じ込められたとき、音楽がそばにある
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1. 歌詞の概要

「In My Head（イン・マイ・ヘッド）」は、アイルランドのドリームポップ・バンド NewDad（ニューダッド） による2022年のEP『Banshee』に収録された楽曲であり、過去の傷や忘れられない記憶に囚われ続ける心理状態を、幻惑的で内省的なサウンドスケープと共に描いた、バンド屈指の感情的ナンバーである。

タイトルの「In My Head」とは、頭の中にこびりついて離れない“何か”を意味する。それは過去の出来事であり、誰かの言葉であり、そして最も厄介なのは、自分自身の声が生み出す自己攻撃的な思考のループである。

この楽曲は、「現実は動いているのに、心だけが立ち止まっている」ような感覚を繊細に、しかし突き刺さるように表現しており、淡々とした歌唱と浮遊感のあるギターの反復が、まるで終わらない悪夢のように聴き手の意識に浸透してくる。

2. 歌詞のバックグラウンド

NewDadのボーカルである Julie Dawson は、過去のインタビューでこの楽曲について、「自分の中にある声が、自分を責めたり、立ち直れないようにしてしまうような感覚を描きたかった」と語っている。

「In My Head」は、EP『Banshee』全体の中でも特に自己との対話がテーマとなっており、他人との関係というよりも、**“自分が自分に対してどう向き合っているか”**を問う内容となっている。
その語り口は優しくも残酷で、リスナーに「自分にも覚えがある」と思わせるような、普遍的で苦い感情の記録である。

また、楽曲全体が繰り返しの構造になっており、それが「抜け出せない思考の渦」を音楽的に再現している点でも、非常にコンセプチュアルなトラックだといえる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“It’s in my head / I can’t forget”
「頭の中にある／どうしても忘れられない」

“It’s not your fault / But I’m still upset”
「あなたのせいじゃない／でも私はまだ傷ついてる」

“I thought I was getting better / But I’m just good at pretending”
「もう大丈夫になってきたと思ってた／でも私は、平気なふりが上手なだけだった」

“I play it over / Again and again”
「その場面を何度も／何度も再生してしまう」

これらのリリックは、心の奥に残った傷跡が繰り返し蘇り、自分自身を責めてしまう精神状態を率直に言語化しており、リスナーの胸を締め付ける。
とりわけ、「I’m just good at pretending」というラインは、“回復したふり”をするしかない日常の中で、自分の本音をどこにも出せない辛さを象徴している。

4. 歌詞の考察

「In My Head」は、現代におけるメンタルヘルスのリアルな側面を、抑制されたサウンドとリリックで表現した楽曲である。

この曲の主人公は、誰かに怒っているわけではない。
むしろ、自分自身に対して苛立ち、混乱し、過去の出来事をいつまでも反芻してしまうループから抜け出せずにいる。
それは現代の多くの若者に共通する心理状態であり、SNSや情報過多な社会の中で生きる私たちが抱える“心の静かなノイズ”に極めて近い。

“それはあなたのせいじゃない”と相手に告げながらも、“それでも私の中では終わっていない”という二重の思いが、関係性ではなく自己の矛盾として重くのしかかってくる。
この自己対話の空虚さは、ドリームポップの霧のようなサウンドと絶妙にマッチしており、音楽としての構成とリリックの主題が完全に一致しているのも特筆すべき点である。