If I Had $1,000,000 by Barenaked Ladies(1992)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「If I Had $1,000,000(もし100万ドルあったなら)」は、カナダのポップ・ロックバンド、Barenaked Ladies が1992年にリリースしたデビュー・アルバム『Gordon』に収録された名曲であり、彼らの代表曲として今なお多くの人々に愛されている。

この曲は、もし自分が100万ドルの大金を手に入れたら何をするか?という架空の“夢想”をユーモラスに、そしてどこか切なく描き出すフォーク・ポップ調の対話型ソングである。歌詞はとてもシンプルな反復形式で進行しながら、「何を買うか」よりも、「誰と過ごすか」「その時間がどれほど愛おしいか」に重点が置かれている。

歌詞の中で語られる「トリの家」「エキゾチックな家具」「モンキー」「本物の毛皮ではない毛皮のコート」など、突飛でウィットに富んだイメージが次々に繰り出され、聴き手は思わず笑いながらも、現実にはない理想の暮らしに心を馳せてしまう。まるで童話のようでありながら、大人のユーモアと余白に満ちた、優しい空想の世界が広がっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「If I Had $1,000,000」は、Barenaked Ladies の初期の核となるふたり――Ed RobertsonSteven Page によって共作され、彼らのライブセットでは欠かせない定番曲となっている。

この楽曲が書かれたのは1988年、まだ彼らが無名だった頃のことで、ロバートソンがギターを片手に“繰り返しの中で物語を膨らませる”という即興的な形式に挑戦したのが始まりだった。以来、ライヴでは毎回異なるアドリブの掛け合いが挟まれ、ファンとのインタラクションが深まる重要なナンバーとなっている。

カナダ国内ではリリース当初から人気があり、特にラジオ局MuchMusicで放送されたビデオクリップの影響で広く知られるようになった。アメリカでは「One Week」ほどのチャート上昇はなかったが、バンドの“笑いと誠実さのバランス”を象徴する楽曲として、根強い人気を保ち続けている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics

If I had a million dollars
「もし僕に100万ドルあったなら」
(If I had a million dollars)
「(もし僕に100万ドルあったなら)」
I’d buy you a house
「君に家を買ってあげるよ」

If I had a million dollars
「もし100万ドルあったなら」
I’d buy you furniture for your house
「君の家に家具を買ってあげる」
(Maybe a nice Chesterfield or an ottoman)
「(チェスターフィールドかオットマンがいいかも)」

このように、曲は「もし100万ドルあったら~してあげる」という形式で繰り返される。

物を買うという行為が繰り返されるが、そこに込められているのは贅沢の誇示ではなく、「あなたに何かしてあげたい」という純粋な気持ちの表現である。しかも、その贈り物のチョイスがいちいちちょっとズレていて、そこがまた愛らしい。

If I had a million dollars
I’d buy your love
「100万ドルあったら、君の愛を買えるかな?」

このフレーズだけは他と異なり、現実的な疑問が含まれている。つまり、「お金で愛は買えるのか?」という問いが、ふざけたやり取りの中にポロリと顔を出すのだ。この不意打ちのような感情の深まりが、曲に優しいメランコリーを添えている。

4. 歌詞の考察

「If I Had $1,000,000」は、ユーモラスな装いの奥に、静かな願望と愛情が流れている楽曲である。

表面的には“夢のお買い物リスト”のように見えるが、実際には「相手と過ごす未来を想像すること」「その想像の中で笑い合えること」こそが、この曲の本質なのだ。つまり、100万ドルという金額の大小は本質ではなく、想像力によって愛がどう形になるかを問いかけている。

また、曲中に登場する「君が欲しがるモンキーを飼ってあげるよ」といったナンセンスなアイディアは、子どものような無邪気さを持ちつつ、どこか大人のユーモアとアイロニーも感じさせる。それは現代社会における“豊かさ”や“贈り物”という概念に対する、優しい皮肉でもある。

そして、サビのリズムとメロディはあくまで穏やかで、喧騒から離れた田舎の風景、柔らかな日常、笑い合うふたりの時間が連想される。この心象風景こそが、Barenaked Ladiesらしさの真髄だろう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Paul Simon – Kodachrome
    日常とユーモア、郷愁が織りなすポップな名曲。音楽と言葉の遊び心が共鳴する。

  • They Might Be Giants – Birdhouse in Your Soul
    ポップで軽妙ながら、心に残るメッセージを持った一曲。現代的な寓話性がある。
  • Ben Folds – The Luckiest
    こちらはよりロマンチック寄りだが、日常を大切にする愛情のかたちが共通する。

  • Jonathan Richman – That Summer Feeling
    青春と哀愁を包み込むようなトーンで語る、素朴で味わい深いトラック。

6. 笑いの中にある愛、その静かなかたち

「If I Had $1,000,000」は、ただのコミック・ソングではない。

笑いの中に、“愛を伝えるとは何か?”という誠実な問いかけが込められている。贅沢なものを買ってあげるという発想も、そこに宿るのは「あなたと一緒にいたい」「喜ばせたい」「一緒に未来を想像したい」という純粋な想いにほかならない。

Barenaked Ladiesは、この曲を通して“愛の贈り方”をユニークな角度から表現してみせた。

「もし100万ドルあったら」――そう想像することで、私たちは本当に大切なものに気づく。

それは、お金じゃ買えない「一緒に笑う時間」なのだ。
そして、この曲はその時間を音楽として包み込み、今も世界中のリスナーに静かに微笑みかけている。

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