発売日: 2010年8月31日
ジャンル: グランジ、オルタナティヴ・ロック、ベスト・アルバム
“象徴”の名を冠した入門書——Nirvana、その核をシンプルに提示する10の音像
『Icon』は、ユニバーサル・ミュージックが手がけた“Iconシリーズ”の一環として2010年にリリースされた、Nirvanaの代表曲をコンパクトにまとめたベスト・アルバムである。
収録曲は10曲のみと最小限ながら、“Nirvanaとは何か”を提示するには過不足ないラインナップが揃っており、まさに“象徴（Icon）”というタイトルにふさわしい構成となっている。
このアルバムは既存ファンにとって新しい情報はないが、Nirvanaという名前だけは知っているがどこから聴けばいいか分からない——そんなリスナーに向けて最適化された“入口”としての役割を果たす。
特に、90年代ロックの文脈を知らない若い世代にとっては、約35分でNirvanaの核心に触れられる“圧縮された伝記”のような作品である。
収録楽曲レビュー
1. You Know You’re Right
2002年のベスト盤で初登場した遺作。Cobainの最後の咆哮が冒頭に置かれていること自体、このアルバムが単なる年代順ではなく“象徴的瞬間”を優先していることを示している。
2. Smells Like Teen Spirit
世界的なグランジブームを決定づけた代表曲。破壊的なギターリフと反抗のシャウトは、今なお色褪せない。
3. Come As You Are
メロディアスかつダークな世界観を象徴する1曲。「ありのままで来てくれ」という矛盾に満ちた誘いが、Cobainの世界観を凝縮している。
4. Heart-Shaped Box
『In Utero』期の代表曲。愛、病、欲望、死が絡まり合うラヴソングのような祈り。
5. Pennyroyal Tea
自己破壊と静けさの境界線。カートの苦悩がにじみ出た歌詞とメロディが胸に刺さる。
6. About a Girl
『Bleach』からの選出。後年のポップなメロディ感をすでに備えた初期の名曲。
7. Dumb
静かで乾いた調べが印象的。“バカでいるのは楽だ”という逆説的な安堵と諦めが漂う。
8. All Apologies
Cobainの声がもっとも静謐に響くトラック。“何も求めない、何もいらない”というフレーズが、死後の今、より深い意味を持つ。
9. The Man Who Sold the World（MTV Unplugged Ver.）
デヴィッド・ボウイのカバーでありながら、完全にCobainの歌になってしまった不思議な1曲。 Unpluggedバージョンの選出も秀逸。
10. Where Did You Sleep Last Night（MTV Unplugged Ver.）
Lead Bellyのトラディショナル・ナンバーを、魂を削るようなボーカルで歌い上げる圧巻のラスト。 Cobainの脆さと力強さが共存する“終わりの歌”。
総評
『Icon』は、Nirvanaの核心をわずか10曲に凝縮した“象徴的ベスト盤”であり、リスナーをその世界へ誘う“扉”としての役割を静かに果たす。
この短さの中に、怒り、諦め、ユーモア、静けさ、破壊、そして祈りが共存しており、Nirvanaという存在がなぜ“アイコン”として語り継がれるのかを体感できる構成となっている。
過不足ないというより、“この10曲で十分に震えることができる”という驚き。
それはNirvanaの曲の強度が時代や音質を超えて、今なお聴く者の内面に響き続けている証でもある。
たとえこの1枚しか持っていなかったとしても、**それでも“Nirvanaを知っている”と言って差し支えない——そんな強度を持った静かな名盤である。
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