アルバムレビュー：I Dream of Christmas by Norah Jones

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 2021年10月15日
ジャンル: クリスマス・ジャズ、アコースティック・ポップ、ソウル、ホリデー・スタンダード

暖炉のそばの小さな祈り——Norah Jones、心をほどく“冬のやすらぎ”のクリスマス・アルバム
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総評
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暖炉のそばの小さな祈り——Norah Jones、心をほどく“冬のやすらぎ”のクリスマス・アルバム

『I Dream of Christmas』は、Norah Jonesが2021年に発表した自身初のホリデー・アルバムであり、スタンダードの温もりとオリジナル曲の誠実さが共鳴する“静かな祝祭”の音楽集である。

2020年のパンデミック下に書かれたオリジナル曲を中心に、古典的なクリスマス・ソングのカバーを織り交ぜながら、季節の喧騒とは対照的な、“ひとりきりでも、誰かを想って過ごす”ような内省的なクリスマスの在り方が描かれている。
サウンド面ではピアノ、オルガン、アコースティック・ギターを主体としたシンプルな編成を軸に、ジャズ、ソウル、ゴスペルのエッセンスをほんのりとまぶしたNorahらしい優しいアプローチが施されている。

全曲レビュー

1. Christmas Calling (Jolly Jones)
アルバム冒頭を飾るオリジナル曲。“クリスマスが呼んでいる”という希望に満ちたフレーズが印象的な、ピアノ主体の軽やかなミッドバラード。

2. Christmas Don’t Be Late
Alvin and the Chipmunksの陽気なナンバーをしっとりと再構築。子ども心のまま、大人の静けさを湛えた不思議な温かさ。

3. Christmas Glow
柔らかなエレクトリック・ピアノが導くオリジナル曲。冬の街の光と愛の気配を描く、夜のクリスマスソング。

4. White Christmas
ビング・クロスビーの名唱で知られる定番曲を、限りなくシンプルに、ほとんど呟くように歌い上げる珠玉のカバー。

5. Christmastime
オリジナルながらも、どこか懐かしい響きを持つメロディ。友情や家族への感謝をストレートに綴った温かい1曲。

6. Blue Christmas
エルヴィス・プレスリーで有名な失恋のクリスマスソング。ノラの歌声は、涙を乾かすような包容力を持っている。

7. It’s Only Christmas Once a Year
メロディアスでありながら少し寂しげな空気感が印象的なナンバー。「一年に一度だけ」という時間性が、逆に“永遠のような瞬間”を浮かび上がらせる。

8. You’re Not Alone
最もストレートなメッセージ・ソング。「あなたはひとりじゃない」というシンプルな言葉が、かつてないほど深く沁みる。

9. Winter Wonderland
おなじみの陽気なスタンダードを、ジャジーでスイング感あるアレンジに仕立て直し、軽やかに楽しませてくれる。

10. A Holiday With You
大切な人と過ごす“休日”を思い描いたロマンティックな一曲。ソウルフルなバックビートと甘いメロディが調和する。

11. Run Rudolph Run
チャック・ベリーのロックンロール・クリスマスを取り上げた、アルバム中もっとも軽快で遊び心のあるカバー。

12. Christmas Time Is Here
『チャーリー・ブラウンのクリスマス』でも知られるジャズの名曲。しっとりとしたピアノと深い響きのボーカルが、まるで雪が舞い降りるような気配を運んでくる。

13. What Are You Doing New Year’s Eve?
切なさを帯びた年末の恋の歌。“来年のあなたは、誰といるの？”という問いが、さりげない余韻を残して終わる。

総評

『I Dream of Christmas』は、Norah Jonesが「静けさ」や「願い」という目に見えないものを音楽というかたちで丁寧に編み上げた、“深呼吸するようなクリスマス・アルバム”である。
華やかさよりも、孤独や余白を慈しむような眼差しが全体に流れており、冬の夜、ひとりきりでも誰かとでも聴ける不思議な包容力を持っている。

どこかで鈴が鳴っていても、自分の中の静寂に耳を澄ませたくなる。
そんな時間のために、Norahはこのアルバムを“そっと置いてくれた”のかもしれない。
心が慌ただしくなりがちな季節に、本当に大切なものを見つめ直すための、音によるささやかな灯火——それがこの作品の本質である。