1. 歌詞の概要
「How Long（ハウ・ロング）」は、チャーリー・プースが2017年にリリースしたセカンド・アルバム『Voicenotes』からのセカンド・シングルであり、浮気をした側の語り手が相手との関係修復を試みるという、ポップでありながら内省的な楽曲である。
この曲で描かれているのは、“信頼を失ったあとに残された者”ではなく、“信頼を裏切った者”の視点だ。つまり、語り手は過ちを犯した張本人でありながらも、関係を立て直したいと葛藤する姿を描いている。この視点はポップスでは比較的珍しく、リスナーに複雑な感情を抱かせる構成となっている。
タイトルの「How Long」は、“どれくらい長く続けていたの？”といった問いを逆に投げかけられることから始まり、歌詞の中では「確かに過ちはあったけど、でもまだ君のことを愛している」という、自己弁護と後悔が入り混じった不安定な心理が繰り返し語られる。甘さと毒を同時に含んだ一曲なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「How Long」は、チャーリー・プースがプロデュースとソングライティングを自ら手がけた一曲で、前作「Attention」と同じく、人間関係における“曖昧さ”や“感情のねじれ”を鋭く描いた内容となっている。
この楽曲は、軽快でファンキーなベースラインとクールなビートが印象的で、ジャスティン・ティンバーレイクやブルーノ・マーズ的な“モダン・ソウル＋ポップ”の文脈に連なるスタイルが際立っている。チャーリー自身も、セカンド・アルバムでの音楽的な成長と自己表現の深化を目指したと語っており、「How Long」はまさにその転換期の代表作のひとつといえる。
この曲のMVでは、チャーリーが街中を重力を無視して歩くシーンが象徴的に描かれ、感情がバランスを失っているさまや、彼自身の不安定な立場を視覚的にも表現している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
How long has this been going on?
You’ve been creepin’ ‘round on me
While you’re callin’ me “baby”
これ、いつからだったの？
僕に“ベイビー”って言ってる間にも
ずっとこそこそ誰かと会ってたの？
I said, “Girl, why you tryna be my wife?
When you know that you’re just my size?”
ねえ君、なんで僕と結婚したがるの？
君だってわかってるはずだろ――
僕たちの関係がどういうものかって
I was drunk, I was gone
That don’t make it right
But I promise there were no feelings involved
酔ってたし、記憶も曖昧だった
もちろん、だからって許されることじゃないけど
でも感情なんて一切なかったんだ、本当だよ
引用元：Genius Lyrics – Charlie Puth “How Long”
語り手は、自分の過ちを認めながらも、「気持ちはなかった」と繰り返し強調する。この防衛的な姿勢が、逆に聴き手の胸に“言い訳の痛み”として響いてくる構造になっている。
4. 歌詞の考察
「How Long」は、一見すると“浮気をした男の開き直り”のようにも受け取れる。しかし実際には、その背後にあるのは“失ったことの重み”への動揺であり、語り手は本気で後悔しているのに、それをうまく表現できない――という葛藤が描かれている。
この曲の最も巧妙な点は、語り手が一度も“正しく”謝っていないことである。
「確かに間違いはあった」「でも本気じゃなかった」「君が必要なんだ」――こうした言葉の選び方には、自己中心性がにじむが、それこそが“本物の人間”らしさでもある。
つまりこれは、愛を失った後に生まれる“都合のいい悔恨”の記録であり、リスナーは語り手に完全に共感することはできなくとも、どこかで自分の“弱さ”を見てしまう。
それがこの曲の最大の魅力であり、単なる謝罪ソングでは終わらない奥行きを生み出している。
また、音楽的な側面においても、ベースラインやサビのグルーヴがこの不安定な心理に“リズムの浮遊感”として対応しており、感情とサウンドが見事にリンクしている。
チャーリー・プースのヴォーカルも、あえて張り上げず、少し揺れるように歌うことで、心の迷いや未練を際立たせている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Blame by Calvin Harris feat. John Newman
過ちの責任をなすりつけ合う恋人たちの視点を描いた、躍動感あるエレクトロポップ。 - Locked Out of Heaven by Bruno Mars
情熱的な愛の中にある依存と混乱を、ソウルフルに表現したラブソング。 - Sorry by Justin Bieber
やり直しを懇願する切実さがにじむ、洗練された謝罪のポップ・ナンバー。 - Let Me Love You by Mario
失われた愛を取り戻そうとする“強さと弱さ”を歌った2000年代の名バラード。
6. “言い訳じゃなく、言葉にならない後悔”
「How Long」は、言葉にできない後悔を、“言葉にならないまま”差し出してくる楽曲である。
語り手は悪いとわかっている。でも、それでも戻りたい。
愛を壊したのは自分なのに、それでも“まだ終わらせたくない”と願ってしまう。
その矛盾と不器用さが、聴く者の胸に引っかかり続ける。
チャーリー・プースは、この曲で“間違える人間のリアリティ”を描いた。
誠実ではないけれど、本音ではある。
だからこそ、「How Long」は、誰もが一度は経験したことのある“感情の言い訳”を、音楽というかたちで記録しているのだ。
完璧じゃないからこそ、忘れられない――そんな“愛の後日譚”として、この曲は今も多くの心に残っている。
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