
発売日: 2007年10月9日
ジャンル: ピアノポップ、ポップロック、シンガーソングライター
成熟したピアノポップの美しさ——Vanessa Carltonの3rdアルバム
Vanessa Carlton の3rdアルバム Heroes & Thieves は、彼女の音楽的な成長を証明する作品であり、より洗練されたサウンドと、物語性のあるソングライティングが際立つアルバム となっている。
デビュー作 Be Not Nobody(2002年)ではクラシカルなピアノポップを打ち出し、2ndアルバム Harmonium(2004年)ではよりオルタナティブでパーソナルな方向へと進化した Carlton。本作では、それらの要素をバランスよく融合させ、ポップでありながらも奥深いサウンドを確立 している。
プロデューサーには、Stevie Nicks(Fleetwood Mac)の協力も受けた Linda Perry(P!nk、Christina Aguilera などを手がけたプロデューサー) を迎え、より壮大でシネマティックなアレンジが施されている。Carlton のピアノは引き続き楽曲の中心にありながら、ストリングスやギターを加えたダイナミックなサウンド が印象的だ。
全曲レビュー
1. Nolita Fairytale
アルバムのオープニングを飾るアップテンポな楽曲で、Carlton が自身の過去のキャリアを振り返り、新たな道を進む決意を描いた ナンバー。タイトルは、ニューヨークのノリータ地区(Nolita)を指し、彼女の生活と成長が込められている。
2. Hands on Me
甘くロマンティックなメロディが特徴的な楽曲。恋愛の初期のときめきを描いており、柔らかいストリングスと温かみのあるピアノアレンジ が心地よい。
3. Spring Street
アコースティックギターとピアノが絶妙に絡み合う、ノスタルジックな楽曲。ニューヨークの「Spring Street」を舞台にしたストーリー性のある歌詞 が印象的。
4. My Best
静かでメロディアスなバラード。恋愛における犠牲と自己成長をテーマにし、繊細なボーカルとエモーショナルなアレンジ が際立つ。
5. Come Undone
クラシックなピアノとストリングスのアレンジが美しい楽曲。心の混乱や自己疑問をテーマにした歌詞 が、繊細なメロディと調和している。
6. The One
軽やかなリズムと、温かみのあるメロディが特徴的なナンバー。理想の恋愛と現実のギャップを描いた、心に残る楽曲。
7. Heroes & Thieves
アルバムタイトル曲であり、人間関係の中で誰が味方で誰が敵なのかを見極めることの難しさを描いた 曲。ピアノとストリングスが絶妙に絡み合い、感情的な展開が印象的。
8. This Time
切なくも希望に満ちたバラードで、過去の失敗を乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとするテーマ が込められている。Carlton の優しいボーカルが特に映える一曲。
9. Fools Like Me
アップテンポでダンサブルなリズムが特徴的な楽曲。恋愛の愚かさと、その中での自分の在り方を考える歌詞 が、キャッチーなメロディと対照的に響く。
10. Home
アルバムのクライマックスとなる壮大なバラード。タイトル通り、「本当の居場所とは何か?」をテーマにした楽曲で、心に響くメロディと深みのある歌詞が感動的。
11. More Than This
アルバムを締めくくるシンプルなピアノバラード。人生の意味や愛の大切さを静かに語るような歌詞 で、Carlton のボーカルが最後まで心に残る。
総評
Heroes & Thieves は、Vanessa Carlton が音楽的にも精神的にも成熟したことを示す作品 であり、デビュー作のポップな魅力と、2ndアルバムの内省的な深みをバランスよく融合させたアルバムだ。
彼女のピアノは引き続き楽曲の中心にありながらも、より豊かなアレンジとダイナミックな展開が加わり、リスナーを惹きつける。特に、「Nolita Fairytale」「Heroes & Thieves」「Home」などの楽曲は、彼女の最高傑作といえるほど完成度が高い。
おすすめのリスナー:
- Be Not Nobody のキャッチーなピアノポップと、Harmonium の内省的な作風の両方の良さを楽しみたい人
- Sara Bareilles や Michelle Branch のような、ソングライティングにこだわったポップロックが好きな人
- 人生や恋愛の深いテーマを描いたストーリーテリングのある歌詞を求める人
おすすめアルバム
1. Sara Bareilles – Little Voice (2007)
ピアノを中心にしたポップソングが特徴で、本作の雰囲気とよく似ている。
2. Stevie Nicks – Trouble in Shangri-La (2001)
Vanessa Carlton に影響を与えたアーティストで、歌詞の深さとメロディの美しさが共通する。
3. Fiona Apple – Extraordinary Machine (2005)
よりアート志向のピアノポップだが、歌詞の視点や音楽の構成に共通点がある。
4. Michelle Branch – Hotel Paper (2003)
ポップロックとシンガーソングライターのバランスが取れた作品で、Carlton の楽曲と相性が良い。
5. Regina Spektor – Begin to Hope (2006)
ピアノを軸にしたユニークな作風で、Carlton の音楽の進化と似た要素が多い。
Heroes & Thieves は、Vanessa Carlton のアーティストとしての確立と進化を示した作品であり、ピアノポップの枠を超えた完成度の高いアルバム である。彼女の音楽の旅路を体験する上で、欠かせない一枚だ。
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