アルバムレビュー:Hermit of Mink Hollow by Todd Rundgren

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1978年5月

ジャンル:ポップ・ロック、パワーポップ、ソフトロック、アートポップ、シンガーソングライター

概要

Todd Rundgrenの『Hermit of Mink Hollow』は、1978年に発表されたソロ名義のスタジオ・アルバムであり、彼の長いキャリアの中でも特に「個人的なポップ・ソング集」として評価される作品である。1970年代のRundgrenは、ソロ・アーティスト、プロデューサー、マルチ・インストゥルメンタリスト、スタジオ実験家として多面的に活動していた。The Nazzでのパワーポップ的な出発点を経て、ソロでは『Something/Anything?』で高度なポップ職人性を示し、その後は『A Wizard, a True Star』や『Todd』でサイケデリック、プログレッシヴ・ロック、ソウル、電子音楽、コラージュ的編集を取り込んだ実験的作品へ進んでいった。

『Hermit of Mink Hollow』は、そうした実験性を経た後に、Rundgrenが再びコンパクトでメロディアスなポップ・ソングへ戻った作品である。ただし、それは単なる原点回帰ではない。過去のスタジオ実験やプロデューサーとしての経験を通じて得た音響感覚、コード進行の洗練、独特の多重録音技術が、より親密な形で凝縮されている。タイトルにある「Mink Hollow」は、当時Rundgrenが拠点としていたニューヨーク州ウッドストック近郊の場所に由来し、「Hermit」は隠者を意味する。つまり本作は、スタジオにこもったRundgrenが、自身の内面を多重録音によって形にした、きわめて私的な作品である。

本作の大きな特徴は、Rundgrenが多くの楽器とヴォーカルを自ら担当し、ワンマン・レコーディングに近い形で制作している点にある。彼はもともと、ポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソンに通じる「一人でポップの小宇宙を作り上げる」タイプのアーティストであり、『Hermit of Mink Hollow』ではその能力が非常に明快に表れている。大掛かりなコンセプトや長大な組曲ではなく、短い楽曲の中に、恋愛、喪失、苛立ち、自己分析、諦念、ユーモアを緻密に封じ込めている。

1978年という時代背景も重要である。アメリカではパンクやニューウェイヴが勢いを増し、1970年代前半のスタジオ志向のロックやシンガーソングライター文化は、ある種の転換期を迎えていた。Rundgrenはその中で、時代の流行に全面的に乗るのではなく、むしろ自分の得意とするポップ・ソングライティングを研ぎ澄ませた。だが本作には、パワーポップ的な短さと切れ味もあり、結果として1970年代のクラシックなポップ感覚と、ニューウェイヴ前夜の簡潔さが自然に交差している。

アルバムは大きく分けて、明るく皮肉なポップ・ソング、繊細なバラード、ロック色の強い楽曲、ソウルやゴスペルの影響を感じさせる楽曲で構成されている。代表曲「Can We Still Be Friends」は、別れた後の関係をめぐる複雑な感情を、非常に美しいメロディと洗練されたコード進行で描いた名曲である。この曲はRundgrenのソングライターとしての核心を示している。感情は単純に悲しみだけではなく、未練、理性、諦め、優しさ、自己防衛が重なり合っている。

日本のリスナーにとって『Hermit of Mink Hollow』は、Todd Rundgrenの入門盤としても非常に聴きやすい作品である。『A Wizard, a True Star』のような実験的な作品に比べると構成は明快で、楽曲単位の魅力が強い。一方で、単なるメロディアスなポップ・アルバムではなく、コードの複雑さ、多重録音の精度、ヴォーカル・アレンジの豊かさ、歌詞の心理描写に深みがある。1970年代アメリカン・ポップの職人性と、個人宅録的な内省が結びついた、Rundgrenならではの傑作である。

全曲レビュー

1. All the Children Sing

オープニング曲「All the Children Sing」は、アルバムの始まりにふさわしい、明るく弾むようなポップ・ソングである。タイトルは「すべての子どもたちが歌う」という意味を持ち、祝祭的で無邪気な響きを持っている。しかしRundgrenの楽曲らしく、その明るさは単純な楽天性だけでできているわけではない。華やかなコーラス、軽快なリズム、親しみやすいメロディの中に、どこか人工的で、スタジオで精密に組み立てられたポップの感触がある。

音楽的には、パワーポップ的な簡潔さと、Rundgrenが得意とする多重コーラスの厚みが合わさっている。The Nazz時代から続くビートルズ的なメロディ感覚も感じられるが、単なる60年代ポップの再現ではない。コーラスの積み重ね方、リズムの軽さ、キーボードやギターの配置には、1970年代後半らしい洗練がある。

歌詞の面では、歌うこと、共有される喜び、集団的な声の力が中心にある。ただし、Rundgrenが「子どもたち」という言葉を使う場合、それは単純な純真さだけでなく、失われた無垢や、社会の中で変質していく感情への意識も含む。明るい楽曲でありながら、聴き手はその背後にある成熟した視点を感じ取ることができる。

アルバム冒頭にこの曲が置かれていることは重要である。『Hermit of Mink Hollow』は内省的な作品でありながら、閉じこもった暗いアルバムではない。むしろ、孤独な制作環境から、鮮やかなポップ・ソングが立ち上がる。その構図を最初に示すのが「All the Children Sing」である。

2. Can We Still Be Friends

「Can We Still Be Friends」は、本作を代表する楽曲であり、Todd Rundgrenのキャリア全体の中でも特に重要な名曲である。別れた後に「まだ友達でいられるだろうか」と問いかけるこの曲は、ポップ・ソングにおける失恋表現の中でも、非常に成熟した心理描写を持っている。単純な未練や怒りではなく、関係が終わった後にも残る情、理性、寂しさ、相手への敬意が複雑に交差している。

音楽的には、柔らかなピアノと流れるようなコード進行が中心で、Rundgrenらしい高度なハーモニーが楽曲を支えている。メロディは非常に親しみやすいが、コードの動きは繊細で、感情の揺れを巧みに反映している。サビの開放感は美しいが、完全な救済にはならない。むしろ、関係を終えることの寂しさを受け入れながら、それでも互いを憎まずにいたいという願いが響く。

歌詞の核心は、恋愛関係の終わりを「勝ち負け」や「裏切り」としてではなく、人間関係の変化として捉えている点にある。多くの失恋ソングは相手を責めるか、自分の悲しみに沈む。しかしこの曲は、終わってしまった関係にも意味があったことを認める。そこには大人の諦念と優しさがある。

この曲の普遍性は、恋愛に限らず、かつて親密だった人との距離が変わるすべての経験に通じるところにある。友人、家族、共同作業者など、人間関係は時間とともに変わる。Rundgrenはその変化を、過剰なドラマにせず、あくまで美しいポップ・ソングとしてまとめている。『Hermit of Mink Hollow』が現在も高く評価される大きな理由のひとつである。

3. Hurting for You

「Hurting for You」は、タイトル通り、誰かのために傷つく、あるいは誰かを想うことで苦しむ感情を描いた楽曲である。前曲「Can We Still Be Friends」が別れを静かに受け止める曲だとすれば、この曲はより直接的に痛みを表現している。ただし、その痛みは荒々しい叫びではなく、Rundgrenらしいメロディアスな構成の中で表現される。

サウンドは比較的コンパクトで、ポップ・ロックとしての輪郭が明快である。ギター、キーボード、リズムがバランスよく配置され、ヴォーカルの感情を支えている。Rundgrenの歌唱は、ソウル的なニュアンスを持ちながらも、過度に粘ることはない。感情を押し出しつつ、曲全体のポップな整合性を保っている。

歌詞では、相手への思いが自分自身を苦しめるという恋愛の矛盾が描かれる。誰かを愛することは幸福だけではなく、相手に左右される不安定さを伴う。特にRundgrenの歌詞では、感情を理性的に整理しようとしても、身体的な痛みとして戻ってくるような感覚がある。「Hurting for You」は、そのような愛の不可避な痛みを、短いポップ・ソングの中に凝縮している。

本作においてこの曲は、アルバム前半の感情的な流れを深める役割を果たす。「Can We Still Be Friends」で示された成熟した別れの姿勢の裏には、当然ながら傷がある。その傷をより率直に見せることで、アルバムは単なる洒落たポップ作品ではなく、個人的な感情の記録としての厚みを持つ。

4. Too Far Gone

「Too Far Gone」は、アルバム前半の中でも特にバラード色の強い楽曲であり、Rundgrenの繊細なソングライティングが際立つ一曲である。タイトルの「Too Far Gone」は、「もう遠くへ行きすぎてしまった」「手遅れになってしまった」という意味を持ち、後戻りできない状態を示している。恋愛関係の破綻、自己破壊的な感情、あるいは人生の選択の不可逆性がテーマとして浮かび上がる。

音楽的には、抑制されたアレンジが中心で、メロディとコード進行の美しさが前面に出ている。Rundgrenは派手なプロダクションを使わずとも、和音の動きと声の重ね方だけで豊かな感情を作ることができるアーティストである。この曲では、その能力が非常に静かな形で発揮されている。

歌詞の内容は、相手との距離が取り返しのつかないところまで広がってしまったことへの認識として読める。重要なのは、そこに大げさな怒りがないことだ。むしろ、自分でもどうにもできないところまで事態が進んでしまったという諦めがある。これは「Can We Still Be Friends」の理性的な問いかけとは異なり、もっと深い喪失感を持っている。

Rundgrenのバラードには、甘さと苦さが常に共存している。「Too Far Gone」も美しい旋律を持ちながら、歌詞の底には取り返しのつかなさがある。こうした感情の二重性が、『Hermit of Mink Hollow』を単なるメロディアスなポップ・アルバム以上のものにしている。

5. Onomatopoeia

「Onomatopoeia」は、本作の中でも最もユーモラスで風変わりな楽曲のひとつである。タイトルは「擬音語」を意味し、歌詞にも音の響きそのものを楽しむような要素が含まれている。Rundgrenはシリアスなバラードだけでなく、言葉遊びやスタジオ的な遊戯性にも長けたアーティストであり、この曲はその側面を明確に示している。

音楽的には、軽快でコミカルな質感があり、リズムも弾むように進む。『Hermit of Mink Hollow』は個人的で内省的な作品として語られることが多いが、この曲のような遊び心があることで、アルバムは過度に重くならない。Rundgrenにとってポップ・ミュージックは、感情を伝える手段であると同時に、音そのものを楽しむ実験の場でもある。

歌詞のテーマは、言葉が意味を伝える以前に、音として身体に作用することにある。擬音語は、意味と音の境界にある表現であり、子どもにも直感的に伝わる。ここでRundgrenは、ポップ・ソングの本質が必ずしも深刻な意味だけにあるのではなく、発音の楽しさ、リズム、音の形にもあることを示している。

この曲は、アルバムの流れの中で重要な緩衝材となっている。失恋や後悔をめぐる感情的な曲が続いた後に、「Onomatopoeia」は軽妙な視点を導入する。だが、それは単なる息抜きではない。音楽を知的に解体しながらも、聴き手に楽しさを与えるRundgrenのポップ職人性がよく表れた一曲である。

6. Determination

「Determination」は、タイトル通り、決意や意志の力をテーマにした楽曲である。本作の中では比較的力強いロック色を持ち、前曲「Onomatopoeia」の軽さから一転して、前向きな推進力が感じられる。Rundgrenは感情の揺れを描く一方で、自分を立て直そうとする意志も楽曲に込めることがある。この曲はその代表的な例である。

サウンドはタイトで、ギターとリズムがしっかりと曲を牽引している。パワーポップ的な切れ味があり、短い尺の中でエネルギーを効果的に放出している。1978年という時代を考えると、この簡潔で勢いのある構成は、パンクやニューウェイヴ以降のロック感覚とも接続している。ただし、Rundgrenの場合、粗さよりもアレンジの精度が前面に出る。

歌詞では、困難や失敗に対して、なお進むための意志が語られる。ここでの決意は、単純な自己啓発的ポジティブさではない。アルバム前半で描かれてきた傷や後悔を踏まえたうえで、それでも前に進む必要があるという感覚である。だからこそ、この曲の明るさには説得力がある。

「Determination」は、『Hermit of Mink Hollow』の中で感情のバランスを取る曲でもある。Rundgrenは本作で、失恋や孤独だけを描いているわけではない。傷ついた後にどう再び立ち上がるか、その心理的なプロセスも描いている。この曲は、その意味でアルバムの中核的なメッセージのひとつを担っている。

7. Bread

「Bread」は、タイトルの素朴さとは対照的に、社会的・経済的な現実をにおわせる楽曲である。「bread」は英語でパンを意味すると同時に、俗語として金銭を指すこともある。この二重性により、曲は日常の生活感、欲望、物質的な問題を扱うものとして聴くことができる。

サウンドは比較的ユーモラスで、軽快なポップ・ロックとして構成されている。しかし、Rundgrenらしく、その軽さの裏には皮肉がある。彼は恋愛や内面だけでなく、社会や人間の欲望を斜めから見る視点も持っている。「Bread」はその観察眼が表れた楽曲である。

歌詞では、生活のために必要なもの、金銭への執着、あるいは人間関係に入り込む物質的な条件が示唆される。愛や芸術を語る一方で、人は結局「パン」を必要とする。理想と現実の落差は、1970年代のシンガーソングライター作品にも頻繁に現れるテーマだが、Rundgrenはそれを深刻に語りすぎず、ポップな皮肉として表現している。

音楽的には、短く機能的なアレンジが印象的である。Rundgrenはここで、過剰な装飾を避け、曲のアイデアをコンパクトにまとめている。『Hermit of Mink Hollow』全体に言えることだが、本作では長大な実験よりも、短い楽曲の中に明確なキャラクターを与えることが重視されている。「Bread」はその好例である。

8. Bag Lady

「Bag Lady」は、社会の周縁にいる人物へ視線を向けた楽曲である。タイトルの「Bag Lady」は、荷物を持って街を歩くホームレス女性や、社会的に孤立した女性を指す表現として使われる。Rundgrenはここで、個人的な恋愛感情から少し視点を広げ、都市や社会の中で見過ごされがちな存在を描いている。

サウンドは、過度に重くならず、どこか淡々としたポップ・ロックの形を取っている。この距離感が重要である。もし大げさな悲劇として描けば、曲は感傷的になりすぎる。しかしRundgrenは、一定の客観性を保ちながら、その人物の孤独や不可視性を浮かび上がらせる。

歌詞のテーマは、社会からこぼれ落ちた人間へのまなざしである。Bag Ladyは、街の風景の一部として見過ごされる存在でありながら、当然ながら人生を持つ一人の人間でもある。Rundgrenはそのギャップに注目している。ポップ・ソングの中でこうした人物を描くことは、彼の観察力と人間への関心を示している。

また、この曲はアルバムの「隠者」というテーマともつながる。Mink HollowにこもるRundgren自身は、創作のために孤独を選んだ存在である。一方、Bag Ladyは社会的に孤立させられた存在である。両者は同じ孤独ではないが、社会との距離という点で響き合う。この曲によって、アルバムの内省はより広い人間観察へと広がっている。

9. You Cried Wolf

「You Cried Wolf」は、タイトルが示すように、「狼が来た」と嘘をつく寓話を連想させる楽曲である。英語表現としての「cry wolf」は、実際には危険がないのに騒ぎ立てること、何度も嘘をつくことで信用を失うことを意味する。Rundgrenはこの表現を、人間関係における不信や感情の駆け引きに結びつけている。

サウンドは軽快で、やや辛辣なポップ・ロックの雰囲気を持つ。メロディは親しみやすいが、歌詞には相手への批判や皮肉が含まれている。Rundgrenは怒りを直接的な攻撃としてではなく、知的で少し意地悪なポップ・ソングとして表現することができる。この曲はその典型である。

歌詞では、相手の言葉や態度を信じられなくなった状況が描かれる。人間関係において、何度も誇張された感情や虚偽の訴えを聞かされると、やがて本当の痛みさえ信じられなくなる。これは恋愛だけでなく、友人関係や社会的なコミュニケーションにも通じるテーマである。

音楽的には、曲の軽快さが歌詞の皮肉を強めている。重苦しいアレンジで不信を表現するのではなく、むしろポップなテンポでさらりと歌うことで、相手への冷めた視線が際立つ。『Hermit of Mink Hollow』の中では、Rundgrenの辛辣なユーモアがよく出た楽曲である。

10. Lucky Guy

「Lucky Guy」は、本作の中でも特に美しいバラードのひとつであり、「Can We Still Be Friends」と並んでRundgrenの繊細な感情表現を象徴する楽曲である。タイトルは「幸運な男」という意味だが、曲全体の雰囲気は単純な幸福感ではなく、失ったものを思い返すような哀愁に満ちている。

音楽的には、ソフトロック的な柔らかさと、Rundgrenらしい高度なハーモニーが特徴である。ヴォーカルは非常に親密で、多重録音によるコーラスも温かい。コード進行は繊細で、感情が一方向に流れず、希望と諦めの間を揺れるように動く。Rundgrenのバラードが持つ独特の魅力は、この曖昧な感情の扱いにある。

歌詞では、自分を「幸運」と呼びながらも、その言葉の裏にある孤独や喪失がにじむ。人は、かつて誰かに愛されたこと、何かを経験できたことを幸運だと思う一方で、それが過去のものになってしまった事実に苦しむ。この曲は、その両方を同時に抱えている。

「Lucky Guy」は、Rundgrenのソングライターとしての成熟をよく示している。彼は幸福を単純な喜びとしてではなく、時間の経過によって変化する感情として描く。幸運だったという認識は、現在の寂しさと切り離せない。美しいメロディの中に、そうした複雑な感情が静かに封じ込められている。

11. Out of Control

「Out of Control」は、アルバム終盤に置かれた、勢いのあるロック・ナンバーである。タイトルは「制御不能」を意味し、感情、欲望、状況が自分の手を離れていく感覚を表している。『Hermit of Mink Hollow』には内省的なバラードが多いが、この曲ではより外向きのエネルギーが前面に出る。

サウンドはタイトで、ギターとリズムが疾走感を作っている。Rundgrenは単なるバラード職人ではなく、ロック・ソングでも鋭いセンスを持つアーティストである。この曲では、短い時間の中で衝動を的確に表現している。パンクやニューウェイヴの時代に接近するような簡潔さも感じられる。

歌詞では、自分で自分を抑えられなくなる状態が描かれる。恋愛、怒り、欲望、社会的な圧力など、何が原因であれ、人は時に理性では制御できない感情に突き動かされる。Rundgrenはその状態を過度に美化せず、むしろ少し冷静に観察している。そのため、曲には熱さと距離感が同時にある。

「Out of Control」は、アルバム全体の中で感情の別の側面を示している。ここまでの曲で描かれてきた傷や諦めは、時に暴発する衝動へ変わる。その意味で、この曲は本作の心理的な幅を広げている。

12. Fade Away

ラスト曲「Fade Away」は、アルバムの締めくくりとして非常に象徴的な楽曲である。タイトルは「消えていく」「薄れていく」という意味を持ち、関係、記憶、感情、あるいは自分自身の存在感が時間とともに遠ざかる感覚を表している。『Hermit of Mink Hollow』が扱ってきた別れ、孤独、回復、皮肉、自己分析は、この曲で静かな余韻へと収束する。

音楽的には、穏やかでメロディアスな構成が中心であり、Rundgrenのヴォーカルは柔らかく、どこか達観した響きを持つ。大きな劇的クライマックスを作るのではなく、タイトル通り、少しずつ遠ざかっていくような終わり方が印象的である。アルバムの最後にふさわしく、余白を残す楽曲である。

歌詞のテーマは、何かが終わり、消えていくことを受け入れる姿勢である。ここには悲しみがあるが、絶望ではない。むしろ、すべての感情や関係は永遠ではなく、時間の中で薄れていくものだという認識がある。その認識は寂しいが、同時に救いでもある。苦しみもまた、いつか薄れていくからである。

「Fade Away」は、『Hermit of Mink Hollow』を単なる失恋アルバムとしてではなく、時間と感情の変化を描いた作品として締めくくる。アルバム冒頭の「All the Children Sing」が明るい声の広がりを示していたのに対し、最後は静かに消えていく感覚で終わる。この対比が、作品全体に深い余韻を与えている。

総評

『Hermit of Mink Hollow』は、Todd Rundgrenのキャリアの中でも、ポップ・ソングライターとしての魅力が最も凝縮された作品のひとつである。『Something/Anything?』のような豊富なアイデア集、『A Wizard, a True Star』のようなサイケデリックな実験作とは異なり、本作は短く整理された楽曲を中心に構成されている。しかし、その簡潔さの中には、Rundgrenがそれまでに培ってきたすべての技術と感性が詰め込まれている。

本作の中心にあるのは、孤独な制作環境と、ポップ・ソングとしての開かれた魅力の対比である。タイトルにある「隠者」は、社会から離れて内面に向かう人物を示している。しかしRundgrenは、その孤独を閉鎖的な音楽にはしない。むしろ、自分自身と向き合うことで、誰にでも届くメロディや感情を作り出している。これは、優れたシンガーソングライター作品が持つ普遍性である。

音楽的には、パワーポップ、ソフトロック、ソウル、アートポップ、ロックンロールが自然に混ざり合っている。Rundgrenはジャンルを横断するアーティストだが、本作ではその多面性が過剰な実験ではなく、曲ごとの色彩として整理されている。「All the Children Sing」や「Determination」には明るいポップの推進力があり、「Can We Still Be Friends」「Too Far Gone」「Lucky Guy」「Fade Away」には繊細なバラードの美しさがある。「Onomatopoeia」や「Bread」にはユーモアと知的な遊びがあり、「Bag Lady」には社会的な観察眼がある。

歌詞の面では、恋愛の終わりとその後の感情が重要なテーマになっている。特に「Can We Still Be Friends」は、失恋ソングでありながら、相手を責めるのではなく、関係の変化を受け入れようとする点で非常に成熟している。Rundgrenの歌詞は、感情をそのまま吐き出すだけではなく、少し距離を置いて観察する知性を持っている。そのため、曲は甘くなりすぎず、苦味とユーモアを保っている。

また、本作は宅録的なポップ制作の先駆的作品としても重要である。Rundgrenは早くからスタジオを一つの楽器として扱い、自分自身の声や演奏を重ねることで、個人的な音楽世界を作り上げてきた。『Hermit of Mink Hollow』では、その手法が大作主義ではなく、親密なポップ・アルバムとして結実している。後のインディー・ポップやベッドルーム・ポップに通じる「一人で音楽の世界を構築する」感覚を、1970年代の時点で高い完成度で示していたと言える。

日本のリスナーにとって本作は、洋楽ポップの歴史を理解するうえでも非常に有効な一枚である。The BeatlesやPaul McCartney、Brian Wilson、Carole King、Big Star、XTC、Squeezeなどに関心があるリスナーには、Rundgrenのポップ職人としての側面が強く響くはずである。一方で、単なる懐古的なポップではなく、コード進行や音作りには独自のひねりがあり、何度聴いても細部を発見できる。

総じて『Hermit of Mink Hollow』は、Todd Rundgrenが実験家としての野心をいったんコンパクトなポップ・フォームに落とし込み、感情と技術を高い次元で結びつけた作品である。派手な大作ではないが、曲の完成度、メロディの強さ、歌詞の心理的な奥行き、多重録音の美しさにおいて、彼の代表作のひとつに数えられる。孤独の中で作られた音楽が、聴き手に対してこれほど開かれた形で届くことこそ、本作の最大の価値である。

おすすめアルバム

1. Todd Rundgren『Something/Anything?』

Todd Rundgrenのポップ職人性を知るうえで欠かせない代表作。多くの楽器やヴォーカルを自ら担当した楽曲も含まれ、彼のワンマン・レコーディング能力が早くから発揮されている。『Hermit of Mink Hollow』よりも曲数が多く、ソウル、ロック、バラード、ユーモラスなポップが幅広く収められている。

2. Todd Rundgren『A Wizard, a True Star』

『Hermit of Mink Hollow』の簡潔なポップ性とは対照的に、Rundgrenの実験性が極端な形で表れた作品。サイケデリックな編集、短い断片の連続、ジャンル横断的な構成が特徴で、彼が単なるポップ・ソングライターではなく、スタジオを使った音楽実験家でもあったことを理解できる。

3. Big Star『Radio City』

パワーポップの重要作であり、メロディの美しさとロックの切れ味、繊細な感情表現が共存している。Rundgrenのポップ感覚と同じく、1960年代的なメロディへの愛情を持ちながら、1970年代らしい傷つきやすさを帯びている。『Hermit of Mink Hollow』のポップ・ロック面を好むリスナーに関連性が高い。

4. Paul McCartney『McCartney』

一人多重録音による親密なポップ作品として、『Hermit of Mink Hollow』と比較しやすいアルバム。大規模なバンド・サウンドではなく、個人のスタジオ作業から生まれる温かさや未完成感が魅力である。Rundgrenの宅録的アプローチを理解するうえで、重要な参照点となる。

5. XTC『Skylarking』

Todd Rundgrenがプロデュースを手がけた、英国ポップの名作。XTCのひねくれたメロディ感覚と、Rundgrenの構成力が結びつき、アルバム全体に統一感のある流れを生み出している。『Hermit of Mink Hollow』の洗練されたポップ感覚を、1980年代のアートポップとして発展させた関連作として聴くことができる。

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