Hello Again by The Cars(1984)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Hello Again(ハロー・アゲイン)」は、The Carsが1984年にリリースしたアルバム『Heartbeat City』に収録された楽曲であり、アルバム冒頭を飾るにふさわしい、緊張感とエレクトロニックな煌めきに満ちたナンバーである。

タイトルの「Hello Again」は、文字通り“また会ったね”という再会のあいさつだが、この曲ではその言葉が何度も繰り返され、次第に奇妙な、あるいは不穏な響きを帯びていく。
歌詞全体は、愛、メディア、名声、欲望といったテーマが複層的に折り重なっており、“挨拶”という日常的な言葉が、“世界における自己の再登場”というアイロニカルな意味を帯びていく構造となっている。

全体としては極めて断片的な語りだが、そこに散りばめられた言葉は、ポップソングの“顔”を借りた社会的寓話のようでもあり、The Carsの持つニューウェイヴ的知性と皮肉が存分に発揮された歌詞世界といえる。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Hello Again」は、The Carsにとって音楽的にも映像的にも“革新”の象徴となった楽曲である。
この曲のミュージック・ビデオは、当時まだ映画監督としては無名だったアンディ・ウォーホルが監督したことでも有名であり、ウォーホルはビデオの中にも出演している。
アート、メディア、セックス、暴力といった要素をミックスし、MTV文化そのものを批評的に取り込んだ作品として話題を集めた。

音楽的には、プロデューサーのロバート・ジョン “マット” ランジによる緻密な音作りが光っており、電子音、サンプリング、リズムマシンなどを駆使しながらも、バンドの持つロックンロール的スピリットを決して損なっていない。
特にこの曲では、リック・オケイセックの冷徹なボーカルと、ベンジャミン・オールの柔らかなハーモニーが絶妙に絡み合い、都市的で人工的な世界観を作り出している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – The Cars “Hello Again”

Hello, hello again
やあ また会ったね

You might have forgot / The journey ends / You tied your knots / You made your friends
君は忘れてしまったかもしれない
旅は終わる 結び目をほどいて
友達をつくったんだよな

Hello, hello again
やあ また会ったね

Speak the word / The word is “no”
言葉を口にしてごらん
その言葉は“ノー”なんだ

It’s not alright / It’s not even close to being right
大丈夫なんかじゃない
正しいなんて 程遠いことだよ

4. 歌詞の考察

「Hello Again」は、そのタイトルとは裏腹に、“再会の喜び”を語る曲ではない。
むしろここでは、“再会”という行為そのものが奇妙に捻じれた状態で提示されており、それは恋人との関係だけでなく、社会や大衆、あるいは自己との再接続すらも含んでいるように思える。

「You might have forgot, the journey ends(君は旅が終わったことを忘れてるかもしれない)」というラインには、“かつての時代が終わったこと”への醒めた視線が感じられ、そこから続く「Speak the word / The word is ‘no’」という否定の言葉は、表層的なつながりや、メディア上の“親密さ”を拒絶する強い態度を示している。

つまりこの曲は、“ポップソングというフォーマット”を用いながらも、その内実では、ポップの欺瞞性、再生産される虚構のコミュニケーション、そしてそれを受け入れることで感覚が麻痺していく現代人の感性を、鋭くあぶり出しているのだ。

さらに、何度も繰り返される「Hello again」というフレーズは、やがて“意図しない再会の恐怖”や、“自分のコピーとの遭遇”のような不気味さを帯びてくる。
そこには、テクノロジーと人間、情報と感情が錯綜する現代都市の肖像が、鮮烈に浮かび上がっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Ashes to Ashes by David Bowie
    自らの過去と再会し、アイコンを解体していくメタ的ポップソング。Hello Againの“再訪”というテーマと共振する。

  • Cars by Gary Numan
    テクノロジーと感情の隔絶を冷たく描いた名曲。人工的なサウンドと疎外感が共通する。

  • Pop Muzik by M
    ポップカルチャーの構造をアイロニカルに再構成したダンスナンバー。Hello Againの皮肉に通じる精神。

  • Video Killed the Radio Star by The Buggles
    メディアとアイデンティティの変容を描いた象徴的ポップソング。映像時代の幕開けとともにある作品。

6. ポップの仮面を剥がす“都市の挨拶”

「Hello Again」は、The Carsが80年代中盤において“自らのポップ性”を最大限に利用しながらも、その内側を解体してみせた知的な実験作である。
この曲は、愛や再会を語っているようでいて、実際には“再会の空虚さ”や、“繰り返されるコミュニケーションの機械性”を露わにしている。

だからこそ、この曲に漂うのは温かさではなく、冷たさと人工感なのだ。
それはMTV時代における“見られる側”と“見る側”の関係性を示唆してもいるし、また、どれだけ繰り返しても本当のつながりには至れない、という切実な隔たりの表現でもある。

「やあ、また会ったね」——
その言葉が繰り返されるたび、むしろ“本当に会ったことがあるのか”という疑念が深まっていく。
それがこの曲の持つ、美しく、ぞっとするような逆説的魅力なのである。

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