Hate My Way by Throwing Muses（1986）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.10

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. それでもここにいる：Throwing Musesが鳴らす「生の断面」
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1. 歌詞の概要

「Hate My Way（ヘイト・マイ・ウェイ）」は、Throwing Musesが1986年に発表したセルフタイトルのデビュー・アルバム『Throwing Muses』に収録された代表曲であり、Kristin Hershという存在の核心をいきなり突きつけてくるような衝撃的な作品である。

この曲は、極度にパーソナルで内省的な視点から語られており、語り手の精神的崩壊とアイデンティティの断片化、そしてそれに伴う罪悪感や社会的不適応が、極めてむき出しのまま歌われている。冒頭のラインで「I could be a smack freak and hate society（私はヘロイン中毒になって、社会を憎んでやろうか）」と語る彼女の声は、単なる挑発ではなく、本気で追い詰められた魂の咆哮である。

「Hate My Way」は、自己破壊的な衝動と、それでもなお誰かに愛されたいという切実な願望のあいだで揺れ動く人間の心を描いており、その語り口はときに怒りに満ち、ときにひどく無力で、そして決して救済を求めない。あくまで“見せる”ことによって、“ここにいる”と叫んでいる。

2. 歌詞のバックグラウンド

Kristin Hershがこの曲を書いたのは、彼女が10代で精神的に最も不安定だった時期であり、デビューアルバム全体が彼女の内面に渦巻く幻覚、暴力、依存、孤独といった感情に基づいている。Hershはのちに自身が双極性障害を患っていたことを公表し、「Hate My Way」に描かれた錯乱と緊張感は、実際の精神状態の反映であるとも語っている。

デビューアルバム『Throwing Muses』は、4ADという英国のインディ・レーベルが初めて契約したアメリカのバンドとしても注目を集めたが、その理由は音楽的実験性だけでなく、この曲のように“精神の深淵をそのまま音にした”リアルさにあった。

この曲はライブでも常に重みを持って演奏され、Kristin Hershのキャリアを象徴するナンバーとなっている。彼女が「この曲は“理解されなくてもいい”という恐怖から解き放たれるために書いた」と語るように、「Hate My Way」は、感情の自傷ともいえる作品であり、音楽を通じた告白である。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I could be a smack freak and hate society
I could hate my home and follow you
私はヘロイン中毒になって、社会を憎める
家を憎んで、あなたについて行くことだってできる

I could put myself in exile
And you could be my jailer
自分で自分を追放して
あなたに私を閉じ込めさせることもできる

And I hate my way
I hate my way
そして私は自分の生き方が嫌い
私は自分の生き方を、心底嫌ってる

※ 歌詞引用元：Genius – Throwing Muses “Hate My Way”

冒頭から語り手は、極端な仮定を次々と突きつけてくる。しかしそれは空虚な想像ではなく、実際に“そうなるかもしれない自分”のリアルな予感であり、世界との断絶を感じた者だけが知っている孤独の言語だ。
「I hate my way（自分のやり方が嫌い）」という繰り返しは、自己否定であると同時に、“それでも私はここにいる”という唯一の主張でもある。

4. 歌詞の考察

「Hate My Way」は、Throwing Musesというバンドがいかに他と異なっていたかを象徴する曲である。当時のインディー・シーンでは、ポリティカルな歌や恋愛の歌が主流だったが、Kristin Hershはそのどれとも異なり、“個人の内面に巣食う狂気”を真正面から描いた。

この曲で印象的なのは、“他者に理解されようとしない”姿勢である。語り手は、傷ついた自分を語りながら、どこかで“このままでいたい”という矛盾を抱えているように見える。「社会が間違ってる」と叫ぶのではなく、「私は壊れてる」と呟く。この視点の転換こそが、Hershの独自性であり、後のグランジやオルタナ・ロックの先駆けとなった。

また、伴奏はシンプルでありながら異様に不穏で、変則的なリズムとギターの断片的なフレーズが、語り手の心の動揺とリンクしている。音楽と詞が完全にシンクロしているという意味でも、これは稀有な作品だ。