
発売日: 2016年11月18日
ジャンル: ヘヴィメタル、スラッシュメタル
破壊衝動と自己対峙——熟練と野性の再統合
8年ぶりのスタジオ・アルバムとして登場したHardwired… to Self-Destructは、Metallicaの通算10作目にあたる作品である。
ここには初期スラッシュメタルの衝動と、90年代以降のヘヴィグルーヴの重厚さ、その両方が詰め込まれている。
2枚組に及ぶボリュームの中で、バンドは自身の歴史と音楽性に正面から向き合い、自己破壊的な衝動と、なお創造を続ける意志を併置してみせた。
プロデュースはジェイムズ・ヘットフィールドとラーズ・ウルリッヒに加え、グレッグ・フィデルマンが担当。
レコーディングは時間をかけて行われ、クラシックなリフと現代的な音圧のバランスが丁寧に仕上げられている。
全体として、これは老練なメタルバンドが「なぜ自分たちがここにいるのか」を改めて宣言するための音の声明文なのだ。
全曲レビュー
1. Hardwired
冒頭から2分台のタイトなスラッシュナンバー。
「We’re so fucked / Shit outta luck」という直球なフレーズが、現代社会と人間性への絶望をぶちまける。
2. Atlas, Rise!
クラシカルなツインギターのフレーズと、ヘヴィなリフの応酬が光る。
重責を背負い続ける者の苦悩が、ギリシャ神話的なイメージで語られる。
3. Now That We’re Dead
中速のグルーヴが主導する、ライヴ映えする楽曲。
「今死んだことで、やっと共に生きられる」という逆説的なラブソングとも読める。
4. Moth into Flame
メディアと名声に取り憑かれた人間の崩壊を描く、切れ味鋭いナンバー。
エイミー・ワインハウスの悲劇にインスパイアされたとも言われる。
5. Dream No More
スローでドゥーム的なヘヴィネスが支配する一曲。
クトゥルフ神話的なイメージと、現実逃避への警鐘が交錯する。
6. Halo on Fire
前半の穏やかな旋律と後半の怒涛の展開という対比が際立つ。
救いと絶望の境界線をテーマにした、アルバム随一のドラマティックな構成。
7. Confusion
戦争後遺症とトラウマを描いた、ミリタリズム批評的なトラック。
ミドルテンポと反復的な構成が、精神の混濁状態を映し出す。
8. ManUNkind
人間の業と倫理への疑問を投げかける。
オープニングのベースラインから、ブラック・サバス的なムードが漂う。
9. Here Comes Revenge
復讐の欲望に取り憑かれた内面を描写。
不穏なサウンドと重々しいリフが、不安定な精神世界を構築する。
10. Am I Savage?
「自分の中の獣性は隠せるのか?」という問いをめぐる内省的な一曲。
リフワークはヘヴィだが、テーマはむしろ哲学的である。
11. Murder One
レミー・キルミスター(Motörhead)への追悼ソング。
彼の生き様と自由の精神をストレートに称える内容で、タイトルはレミーの愛用アンプから。
12. Spit Out the Bone
アルバムの掉尾を飾る、猛烈なスラッシュ・チューン。
人類とテクノロジーの対立を描いたリリックと、初期Metallicaを想起させる爆発的な演奏が融合する。
総評
Hardwired… to Self-Destructは、Metallicaが自身のアイデンティティと向き合い、過去の衝動と現在の成熟を再統合した作品である。
荒々しさと整然さ、激情と構成力が同居することで、このアルバムは単なるノスタルジアには留まらない。
80年代のスラッシュ的アプローチを部分的に復活させつつ、90年代以降のグルーヴ志向も巧みに活かされており、Metallicaというバンドの「現在地」を誠実に提示している。
また、リリックの多くが社会や個人の崩壊と再生をテーマにしており、タイトルの通り、自己破壊の先に何があるのかを問いかける内容になっている。
これは老いたバンドの回顧ではなく、なおも燃え続ける創造者たちの宣言書である。
Metallicaという存在が、なぜいまだ世界最大級のメタルバンドなのか。その答えがここにある。
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God Hates Us All by Slayer
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