発売日: 1994年5月3日
ジャンル: ポスト・グランジ、オルタナティヴ・ロック、ハードロック
概要
『Halo』は、オクラホマ出身のロックバンドThe Nixonsが1994年にインディーズからリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、後のメジャー進出への足がかりとなった“原石”のような作品である。
このアルバムが登場した1994年は、まさにグランジとオルタナティヴ・ロックがアメリカの主流に躍り出た時代。
The Nixonsはその流れに乗りつつも、よりエモーショナルでメロディアスなアプローチを武器に、重さよりも“感情の流動性”を軸としたサウンドを展開していた。
『Halo』は、そんな彼らの初期衝動と叙情性がストレートに刻まれた一枚である。
なお、本作の人気を受けて、翌年のメジャーデビューアルバム『Foma』(1995)には、「Sister」「Wire」など本作からの再録曲が複数収録されており、結果的に『Halo』はThe Nixonsにとって“プロト・Foma”とも言える作品となった。
全曲レビュー
1. Crutch
鋭利なギターとタイトなリズムから幕を開ける、感情剥き出しのロックナンバー。
「支えが欲しい」という依存と弱さをテーマにしたリリックが印象的。
2. Trampoline
跳ねるようなリズムと、不安定な心の動きをリンクさせた、アップテンポな一曲。
不安と開放感がせめぎ合う。
3. Wire
後に『Foma』でも再録される、アルバムの核となる楽曲。
硬質なギターリフと、張り詰めた感情が爆発するサビが秀逸。
“ワイヤーの上を歩くような緊張感”が比喩として響く。
4. Drink the Fear
内面の不安をあえて“飲み干す”という倒錯的な表現。
ヴァースとコーラスのダイナミクスが鮮やかで、バンドの構成力の高さを示す。
5. Passions
哀愁を帯びたメロディが特徴的なミディアムテンポのバラード調ナンバー。
情熱(パッション)と喪失感が絡み合うラブソングでもある。
6. JLM
ストレートなガレージロック風の一曲。
ジャンクな質感のギターとラフなボーカルが、初期のバンドらしい無骨さを残す。
7. Sister
The Nixons最大のヒット曲のオリジナル・バージョン。
チェロを導入したメロディアスな構成が新鮮で、家族愛と祈りのような感情が交差する名曲。
後の再録版に比べて荒々しさが残るのも魅力。
8. Halo
アルバムタイトル曲。
“後光(ハロー)”という宗教的なイメージを、痛みや救済と結びつけた深い一曲。
重く沈むようなリズムと、祈りのようなボーカルが静かに迫る。
9. Nothing
空虚感を真正面から捉えたダウナー系トラック。
“何もない”という表現が、叫びにも近い形で繰り返される。
10. Heroin
攻撃的かつ内省的なロックナンバー。
依存や逃避をテーマにしながら、サウンドはタイトで制御されている。
タイトルに反して過剰な演出はなく、淡々とした狂気が印象に残る。

総評
『Halo』は、The Nixonsが後の成功に向かう直前の、最も生々しい“出発点”として重要な位置を占めるアルバムである。
グランジ全盛の1994年にあって、本作はその影響を色濃く受けつつも、メロディと感情表現を強調した“中庸的ポスト・グランジ”としての魅力を放っている。
とりわけ「Sister」や「Wire」といった楽曲は、荒削りながら完成度が高く、The Nixonsの持つ叙情性とロックバンドとしての爆発力の両方を象徴している。
メジャーではなくインディーズからの発信という点も含めて、本作はより“純粋な衝動”が刻まれており、ファンにとっては後年のアルバム以上に刺さる部分も多いだろう。
90年代の空気感を体現しつつ、音楽的には今なおフレッシュな響きを保ち続ける『Halo』は、ポスト・グランジの知られざる名作のひとつとして、もっと注目されてしかるべき作品である。
おすすめアルバム(5枚)
- Bush / Sixteen Stone
ポスト・グランジの名盤。荒さとポップ性のバランスが『Halo』と近い。 - Our Lady Peace / Naveed
同じく90年代中盤に登場した叙情的オルタナバンド。メロディ重視のスタイルが共通。 - Live / Throwing Copper
スピリチュアルなリリックとエモーショナルなボーカルが、The Nixonsの世界観と重なる。 - Collective Soul / Hints Allegations and Things Left Unsaid
ラジオ・フレンドリーなグランジ系ロックとして共通の空気感。 -
Tonic / Lemon Parade
メロディアスで感情的なギターロックを志向するバンドの代表作。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Halo』は、The Nixonsがまだインディペンデントに活動していた時期に、自主制作に近い形でレコーディングされたアルバムである。
オクラホマというアメリカ中南部の地から発信されたそのサウンドは、グランジ発祥地のシアトルとは異なる文脈で育まれた“地方都市の倦怠感”と“焦燥感”を感じさせる。
特に「Sister」におけるチェロの導入は、当時のオルタナ・シーンにおいても新鮮であり、The Nixonsの音楽的な柔軟さを象徴していた。
また、本作の手応えがメジャーレーベルMCA Recordsとの契約に繋がり、翌年には彼らの代表作『Foma』として再構成されることになる。
その意味で『Halo』は、The Nixonsの“前史”でありながら、すでに“完成されていた”ことを証明する記録でもある。
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