発売日: 1972年12月
ジャンル: カントリーロック、ウェストコーストロック、アメリカーナ
概要
『Gypsy Cowboy』は、New Riders of the Purple Sage（NRPS）が1972年末にリリースしたサード・アルバムであり、前作『Powerglide』で確立した音楽的幅広さをさらに発展させ、バンドとしての成熟を決定づけた作品である。
本作は、バンドのライヴ・パフォーマンスの魅力を一部収録しながら、カントリーロックのスタジオアルバムとしての完成度を高めた“旅と精神のアルバム”とも呼べる一枚となっている。
“ジプシー・カウボーイ”とは、まさにNRPS自身を象徴する言葉であり、カントリーのルーツに根ざしながらも、自由に旅を続ける放浪者たちの姿そのもの。
陽気で哀愁漂うアメリカーナ的サウンドと、浮遊するようなリリック、そして人懐っこいコーラスワークがこのアルバムを通底し、NRPSが単なるグレイトフル・デッドの派生ではなく、“西海岸カントリーロックの本流”となったことを印象付ける。
全曲レビュー
1. Gypsy Cowboy
表題曲にして本作の主軸。
旅する放浪者＝“ジプシー・カウボーイ”という自画像を軽快なリズムに乗せて描く。
ケイジのペダル・スティールが彩る広大な風景が、聴く者を西部の空へと連れていく。
バンドのアイデンティティを凝縮した名曲。
2. Whiskey
酔いと孤独を描いたブルース・カントリー。
“ウイスキーは友達、でも時に裏切る”というような語り口が、NRPSのユーモアと陰影を同時に感じさせる。
リズムはタイトで、ライブ映えもする一曲。
3. Groupie
ロックスターとファンの関係を、軽妙なカントリーロックで綴った佳曲。
タイトルの通り“グルーピー”との関係性を題材にしているが、NRPSらしく嫌味がなく、どこか哀しみすら漂う。
現実と幻想の狭間を漂うような印象。
4. Sutter’s Mill
ゴールドラッシュ時代の史実を背景にした、叙事詩的なナンバー。
メロディラインはゆったりと流れ、歌詞は西部開拓史への皮肉とロマンを織り交ぜて展開される。
フォークソングの伝統とNRPSの語り口が融合した秀作。
5. Death and Destruction
ヘヴィなテーマに反して、軽快なビートと陽気な演奏が逆説的に響く。
“死と破壊”を茶化しながらも、社会の不条理をユーモラスに描くバンドの風刺精神がにじむ。
6. Linda
短くて可憐なラブソング。
“リンダ”という名前の響きがメロディにぴったりと寄り添い、ロマンチックで牧歌的なムードを醸す。
バディ・ケイジのペダル・スティールが優しく包み込む。
7. On My Way Back Home
“帰路”をテーマにしたトラディショナルな構成の一曲。
テンポは穏やかで、歌詞には旅と再会、そして時間の流れに対する感傷が込められている。
アルバム後半の静かなハイライト。
8. Superman
カントリーロックのフォーマットに、ロックンロールの勢いを注入した異色作。
“スーパーマン”のように何者かになりたいという願望と、現実のギャップを描いた皮肉混じりの歌詞が面白い。
ドライヴ感のあるアンサンブルが心地よい。
9. She’s No Angel
往年のカントリー名曲を、NRPS流にアレンジしたカバー。
“天使なんかじゃない”というタイトル通り、恋愛の裏側に潜む人間味を柔らかく表現。
コーラスが美しく、オールドタイム感も強い。
10. Long Black Veil
ジャン＆レヴィンの名曲をカヴァーしたバラッド。
冤罪で処刑された男の悲哀を描いた重いテーマだが、NRPSの演奏は誠実かつしみじみとしたトーンで、原曲への敬意を感じさせる。
11. Sailin’
アルバムの締めくくりを飾る美しいフォーク・ロック。
“航海”というモチーフが、放浪、希望、喪失をすべて包み込んでいる。
まるでアルバム全体が一つの長い旅だったかのような感覚をもたらし、最後に静かに波が引いていく。
総評
『Gypsy Cowboy』は、New Riders of the Purple Sageというバンドの“精神的中核”がもっとも明確に示されたアルバムである。
旅人の視点、ユーモアと哀しみの共存、カントリーロックのルーツへのリスペクト、そしてそこに込められた反骨とロマン。
すべてが、軽やかでありながら奥深い楽曲群によって語られている。
また、バディ・ケイジ加入後のバンドが完全に機能し始めたアルバムでもあり、演奏のまとまりと緩やかなグルーヴ感が非常に高い次元で維持されている。
“カントリーだけど、アウトロー。優しいけれど、醒めている。”
そんな二面性こそが、NRPSをただの“カントリーバンド”以上の存在にしているのだ。
おすすめアルバム（5枚）
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The Byrds – Ballad of Easy Rider (1969)
旅と自由をテーマにしたウェストコースト・ロック。『Sailin’』と共鳴。 -
Michael Nesmith – And the Hits Just Keep on Comin’ (1972)
カントリーと都会の距離感を詩的に描く。NRPSの内省的側面と共通する空気。 -
Grateful Dead – Europe ’72 (1972)
ライヴ感を重視したアメリカーナの極致。『Gypsy Cowboy』のライブパートとの接点も多い。 -
Townes Van Zandt – High, Low and In Between (1971)
フォークとカントリーの間にある詩人の視点。『On My Way Back Home』などと響き合う。 -
The Flying Burrito Brothers – Burrito Deluxe (1970)
ウェストコースト・カントリーロックの兄貴分的存在。NRPSの影響源として再確認必須。
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