発売日: 2001年10月23日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポストグランジ、ハードロック
原点への回帰、それでも滲む傷跡——“黄金の州”に託した希望と喪失の残響
2001年にリリースされたBushの4作目『Golden State』は、
前作『The Science of Things』でのエレクトロニックな実験路線から一転し、
ギター主体のオーガニックで力強いロック・サウンドへと回帰した一枚である。
アルバムタイトルの「Golden State」はカリフォルニア州の別名であり、
バンドが成功を収めたアメリカ市場、そして“アメリカン・ドリームの儚さ”と“再生への祈り”を象徴する言葉として機能している。
本作は、ギタリストのNigel Pulsfordが脱退直前の最後のスタジオ参加作であり、
バンドとしてのクラシックな編成で制作された最後の“純粋なBush”作品とも言える。
リリース直後に起こった9.11同時多発テロの影響により、当初予定されていたシングル「Speed Kills」はリネームを余儀なくされるなど、
アルバムを取り巻く時代の空気もまた、その重みを深めている。
全曲レビュー
1. Solutions
アルバム冒頭を飾る、Bushらしい轟音ギターとダークな熱量に満ちたロックナンバー。
“解決策”を問いながらも、その不確かさを突きつけるような、皮肉と祈りが同居する一曲。
2. Headful of Ghosts
ポストグランジ的リフとエモーショナルなヴォーカルが交錯するミディアムテンポの楽曲。
“幽霊で満たされた頭”という比喩に、記憶と後悔の重みが宿る。
3. Speed Kills
本来のタイトル曲にして、抑制と解放が交互に押し寄せるドラマティックな構成が特徴。
疾走と崩壊、愛と破滅のメタファーとして響く。
4. Superman
ハードなビートとキャッチーなメロディが光る。
ヒーロー像に仮託された、不完全さと依存の物語。
5. Fugitive
エッジの効いたギターとブレイクの妙が映える曲。
逃走者の視点で、過去から逃れようとする意識と追憶の葛藤が描かれる。
6. Hurricane
タイトルの通り、感情の嵐が襲いかかるような激しさを持つ。
ギターとヴォーカルの緊張感がスリリングな一曲。
7. Inflatable
本作のバラード的位置づけ。
アコースティックギターとストリングスによるアレンジが浮遊感と儚さを生み出し、
“私はあなたの空気でできている”という歌詞に、愛と依存の危うさが滲む。
8. Reasons
ポップなフックを持ちつつ、内面の動揺や動機の不透明さを丁寧に描写した楽曲。
9. Land of the Living
サビの開放感が印象的。
“生者の国”というタイトルが示すように、死と再生、過去と現在の境界がテーマとなっている。
10. My Engine Is With You
タイトルが示す通り、“推進力”=愛の源泉をテーマにした熱量あるトラック。
メロディアスでありながらも荒々しい。
11. Out of This World
切なさを孕んだ美しいバラード。
現実逃避と願望、そして届かない想いを、淡々と綴る。
12. Float
ラストを飾るスローな曲。
“浮かぶ”という行為が、孤独と希望のあいだにある感覚として描かれ、
アルバム全体の余韻を静かに締めくくる。
総評
『Golden State』は、Bushというバンドが一度“原点”に立ち返り、
音の本能と感情の真芯に向き合った作品である。
そこには、かつてのグランジ的爆発も、エレクトロ実験もない。
あるのは、ストレートなロックと、成熟したリリシズム、そして傷を抱えた男たちの誠実な叫びだ。
90年代から2000年代への橋渡しのような一枚。
そして、“黄金の州”という名のもとに、再び夢を見ようとする者たちの小さな希望の記録でもある。
おすすめアルバム
- Foo Fighters – There Is Nothing Left to Lose
シンプルかつメロディアスなロックへの回帰作。Bushとの共鳴多数。 - Our Lady Peace – Gravity
エモーショナルで骨太なオルタナ・サウンド。Bushと同時代のカナダ発ロック。 - Live – V
神秘性と直情的なロックが融合した00年代初頭の隠れた傑作。 - Pearl Jam – Binaural
ポスト・グランジ以降の内省と実験性が共存するアルバム。 - Silverchair – Diorama
グランジからの脱却後、豊かなメロディと詩的世界を築いた進化系ロック作品。
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