アルバムレビュー：Gold Against the Soul by Manic Street Preachers

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1993年6月21日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、グラムロック

痛みを華麗に装うギターの咆哮——Manic Street Preachers、自己矛盾の美学を刻んだ第2幕
全曲レビュー
総評
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痛みを華麗に装うギターの咆哮——Manic Street Preachers、自己矛盾の美学を刻んだ第2幕

『Gold Against the Soul』は、Manic Street Preachersが1993年にリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの持つ過激な知性とポップ志向、怒りと耽美のあいだを揺れ動く“バンドとしての自我の揺らぎ”を記録した、複雑で濃密なロック・アルバムである。

前作『Generation Terrorists』で見せた政治的メッセージや文学的引用を多用したラディカルな美学はそのままに、今作ではよりヘヴィでメロディックなギター・ロックへと接近。
グラムロック的な艶やかさと、90年代的な鬱屈した精神性を共存させるという難題に挑んだ作品であり、Manicsの中でも特に“感情の揺らぎ”が鮮明に表れたアルバムでもある。

リリース当時は賛否両論にさらされながらも、後年には「最も過小評価された作品」として再評価された“美しくも不穏な過渡期の記録”となった。

全曲レビュー

1. Sleepflower
ヘヴィなギターリフと疾走感が印象的なオープナー。「睡眠の中の花」＝無意識の暴走がテーマのような、鬱屈と覚醒の交差点。

2. From Despair to Where
メロディとギターが完璧に噛み合った名曲。「絶望からどこへ行く？」というタイトルの通り、出口のない感情がこだまする。

3. La Tristesse Durera (Scream to a Sigh)
アルバムのハイライトとも言える1曲。戦争帰還兵をモチーフに、“永遠に続く悲しみ”というテーマが骨太なリフに乗って炸裂する。
タイトルはヴァン・ゴッホの遺言からの引用。

4. Yourself
爆発的なギター・アンサンブルの中で、「お前自身になれ」という鋭いメッセージが突き刺さる。自由と個の危うさが交錯する1曲。

5. Life Becoming a Landslide
このアルバム屈指のエモーショナルなナンバー。「人生が地滑りになる」とは、自己喪失と運命への無力感を意味している。 サビの昂ぶりが胸を打つ。

6. Drug Drug Druggy
グラム的なテイストの濃い、享楽と破滅が表裏一体となったトラック。 “自己破壊のカーニヴァル”のような空気感。

7. Roses in the Hospital
当時のシングルであり、キャッチーでありながら悲痛な歌詞を持つ1曲。「すべての病室に薔薇を」と歌うその皮肉と優しさが胸を打つ。

8. Nostalgic Pushead
歪んだギターとポストパンク的なビート。“ノスタルジー”と“膿”という対極的なイメージが重ねられる挑発的なナンバー。

9. Symphony of Tourette
トゥレット症候群をモチーフにした過激なトラック。秩序を破壊するリズムとシャウトに、社会の不寛容への怒りが込められている。

10. Gold Against the Soul
タイトル曲にしてアルバムを締めくくる一曲。“魂に抗う黄金”というタイトル通り、商業主義と精神の対立を鋭く描いた、荒涼としたアンセム。

総評

『Gold Against the Soul』は、Manic Street Preachersが“怒れる知性派”から“傷つきやすい存在”へと、自己を解体しながらも再構築していく過程が刻まれた、極めて人間的な作品である。
その豪奢なギター・サウンドと内向的な歌詞のギャップ、そして終始漂う“破滅願望と救済の混濁”が、本作を特別なものにしている。

商業的には中庸に映ったこのアルバムが、いまなおカルト的な支持を得ているのは、その“未完成さ”と“矛盾の美”が、リスナーの心の隙間に深く刺さるからだろう。

華やかで痛々しく、希望に似た絶望が鳴っている——それが『Gold Against the Soul』という名の音の彫刻なのだ。