発売日: 2011年6月6日
ジャンル: マスロック、エクスペリメンタルロック、エレクトロニカ
アルバム全体の印象
「Gloss Drop」は、ニューヨークのエクスペリメンタルロックバンドBattlesのセカンドアルバムであり、前作「Mirrored」の成功を受けてさらなる進化を遂げた作品である。本作は、タイヨンダイ・ブラクストンがバンドを脱退した後に制作されており、メンバーはその空白を埋めるべく、ゲストボーカリストを迎えるという新たな試みに挑戦している。ゲストには、ゲイリー・ニューマン、マティアス・アグアヨ、山塚アイ（ボアダムス）、Kazu Makino（Blonde Redhead）といった個性的なアーティストが名を連ねている。
音楽的には、「Gloss Drop」は「Mirrored」の構築美を引き継ぎながらも、よりカラフルで遊び心に満ちたサウンドが展開されている。トロピカルなリズムやシンセサウンドが加わり、全体的に明るくユーモラスなトーンを持ちながらも、複雑で緻密な構成が維持されている。バンド特有の緊張感や技術的なパフォーマンスはそのままに、より解放感のある楽曲が揃っており、Battlesの柔軟なアプローチが際立つアルバムだ。
結果として、「Gloss Drop」は「Mirrored」との対比を楽しめるだけでなく、独立した作品としても非常に充実しており、Battlesの音楽的多様性と進化を示す重要な一枚となっている。
各曲解説
1. Africastle
アルバムのオープニングを飾る楽曲で、重厚なリズムとリフが徐々に構築されていく。アフリカ的なリズムを取り入れた複雑なビートが楽曲全体を支えており、冒頭からリスナーを緊張感のある世界へ引き込む。
2. Ice Cream (feat. Matias Aguayo)
アルバムを代表するポップでキャッチーなトラック。マティアス・アグアヨのユーモラスなボーカルと、遊び心あふれるリズムが絡み合い、トロピカルな雰囲気が漂う。ダンサブルでありながらも、緻密な構成が印象的な一曲だ。
3. Futura
緊張感のあるギターループと複雑なドラムパターンが特徴の楽曲。メロディの浮遊感とリズムの鋭さが絶妙にバランスを取り、バンドの技術的な魅力が詰まっている。
4. Inchworm
軽快で浮遊感のあるシンセサウンドが際立つインストゥルメンタル。リズムの多層性とメロディの遊び心が特徴で、バンドのクリエイティビティを感じる一曲だ。
5. Wall Street
攻撃的でエネルギッシュな楽曲。タイトルが示すように、都会の喧騒や緊張感が音楽で表現されており、力強いドラムとギターリフが楽曲を牽引する。
6. My Machines (feat. Gary Numan)
ゲイリー・ニューマンをゲストに迎えたトラックで、彼の力強いボーカルとバンドの硬質なサウンドが融合している。緊迫感のあるビートと鋭いメロディが聴く者を圧倒する。
7. Dominican Fade
短いながらも印象的なトラックで、トロピカルなリズムと軽やかなメロディが心地よい。インタールード的な役割を果たしつつ、アルバム全体の雰囲気を和らげる。
8. Sweetie & Shag (feat. Kazu Makino)
Kazu Makino（Blonde Redhead）の儚げなボーカルが楽曲に繊細なニュアンスを加えている。浮遊感のあるメロディとドリーミーなサウンドが、アルバムの中でも特に美しい瞬間を生み出している。
9. Toddler
ミニマルなリフとシンプルなビートが楽曲を構成しており、細部に宿る緻密さが際立つ。アルバムの中盤にリズムの緩急を与える一曲。
10. Rolls Bayce
リズムの変化が目まぐるしく展開する実験的な楽曲。ポリリズムと反復が効果的に使われ、バンドの技術力と創造性が発揮されている。
11. White Electric
ノイジーでエネルギッシュな楽曲。曲全体を貫くギターリフと強烈なドラムが、聴く者を圧倒する。バンドの生々しいエネルギーを感じる一曲だ。
12. Sundome (feat. Yamantaka Eye)
アルバムのフィナーレを飾る壮大なトラックで、ボアダムスの山塚アイを迎えた実験的な一曲。アヴァンギャルドなサウンドとパーカッシブなリズムが融合し、アルバムを締めくくるにふさわしい迫力を持っている。
アルバム総評
「Gloss Drop」は、「Mirrored」で築いたBattlesのアイデンティティを保ちながらも、新たな方向性と柔軟性を追求した作品である。タイヨンダイ・ブラクストンの脱退という困難を乗り越え、バンドはゲストアーティストを効果的に取り入れることで、新たなサウンドの可能性を模索している。カラフルで遊び心に満ちた楽曲が揃い、聴きやすさと実験性が絶妙なバランスで融合している。前作とは異なるアプローチを楽しみつつ、Battlesの進化を感じることができる一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「Mirrored」 by Battles
Battlesのデビュー作で、彼らのサウンドの原点となるアルバム。より硬派で構築美に満ちた作品が楽しめる。
「Bright Green Field」 by Squid
ポストパンクとエクスペリメンタルロックを融合したアルバム。リズムと緊張感のあるサウンドが「Gloss Drop」に共通する。
「Silent Alarm」 by Bloc Party
キャッチーなリズムとエネルギッシュなサウンドが、Battlesのポップでダンサブルな側面にリンクする。
「Schlagenheim」 by Black Midi
複雑な構成と大胆な実験性が際立つアルバム。「Gloss Drop」の予測不能な展開を楽しめた人におすすめ。
「TNT」 by Tortoise
ポストロックの名盤で、ミニマルな構成とリズムの多様性が、「Gloss Drop」と通じる部分が多い。
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