
発売日: 1984年10月
ジャンル: ハードロック、ガレージロック、パンクロック
概要
『Glorious Results of a Misspent Youth』は、Joan Jett & The Blackheartsが1984年に発表した通算4作目のスタジオ・アルバムであり、彼女のパーソナルな原点と、ロックンロールへの揺るぎない愛情が詰め込まれたセルフ・トリビュート的作品である。
アルバム・タイトルの直訳は「無駄に過ごした青春の栄光ある結果」。
このアイロニカルな表現は、Runaways時代を経て、社会的偏見や業界の壁に屈することなく独自の道を貫いてきたJoan Jettの“武勇伝”とも言える。
前作『Album』(1983)はシリアスで内省的な側面が強かったが、本作では原点回帰とも言えるガレージ・ロック的衝動と、10代の頃に抱いたロックのときめきを再び解き放つ内容となっている。
一方で、商業的には前作以上に厳しく、チャート成績は振るわなかった。
だがそれゆえに、Joan Jettというアーティストの**“売れなくてもやる”精神性と誠実さがより明確に刻まれたアルバム**として、今日では熱烈なファンから高く評価されている。
全曲レビュー
1. Cherry Bomb
Runaways時代の代表曲を再演するという、明確な原点回帰の意思表明で幕を開ける。
「チェリー・ボム!」という掛け声が炸裂し、10代の怒り、セクシュアリティ、反抗心が鮮やかに蘇る。
アレンジはよりタイトでヘヴィに、Joanのボーカルも当時より深く荒くなっており、過去の自分にリスペクトを捧げつつも“今の声”で歌い直すという意味深さを持つ。
2. I Love You Love Me Love
Gary Glitterのカバー。
グラム・ロックの典型的な様式美を、Joanらしいガレージな音像で再解釈した一曲。
重たいリズムとキャッチーなフックが同居しており、曲全体にはエロティックなねばっこさと無邪気さが混在する。
カバーを自己流に染め上げるセンスが光る。
3. Frustrated
オリジナル曲の中でも特にJoan Jettらしい、ストレートなパンクロック・チューン。
「フラストレーションが溜まってるんだ!」と叫ぶその姿勢に、若さへのノスタルジーではなく、今も続く葛藤と戦う大人のリアリズムがある。
スピーディーで生々しく、まるでライブ音源のような空気感。
4. Hold Me
ガレージ・ロック的なバラードで、ハードなJoanとは対照的な繊細な表現力を見せるトラック。
“抱きしめて”という直球のタイトルに、恋愛への憧れと不安、あるいは心の隙間がにじむ。
ギターの響きは控えめで、ボーカルの表情に重点を置いたアレンジ。
5. Be My Lover
Alice Cooper Bandの名曲をカバー。
原曲が持つセクシュアルな挑発とマッチョなイメージを、女性ロッカーが引き受けることでジェンダーの転倒が起きる。
Joanはこの曲をまるで自作曲のように歌い上げ、ロックの既存の“男らしさ”を見事に塗り替えている。
6. Long Time
アルバム中盤の隠れた名曲。
失われた関係性を振り返りつつ、どこかで再会を夢見るような、憂いと強さの同居したJoanらしい歌詞が印象的。
80年代らしいメロディラインに、The Blackheartsの確かな演奏力が安定感を与えている。
7. Talkin’ ’Bout My Baby
軽快なリズムとシンプルな構成で、アルバムに一息つくような陽気さをもたらすナンバー。
タイトル通り恋人への言及がテーマだが、甘すぎないドライな情感がJoanらしさを保っている。
ライブでも盛り上がるタイプのナンバー。
8. I Need Someone
痛みと依存をテーマにした、ゆったりとしたミディアム・バラード。
「誰かが必要なの」と繰り返すフレーズに、孤独を隠さない誠実さと、どこか抗いがたい弱さが滲む。
Joanの歌声が最も“人間らしく”響く瞬間のひとつ。
9. Love Like Mine
自身の価値と愛の強さを高らかに宣言する、自己肯定ロックンロールの王道。
演奏はルーズに、だがJoanのヴォーカルは一直線に“私を見て”と訴えてくる。
フェミニスト・ロックとしての側面も強く、静かな力強さが全編を支配する。
10. New Orleans
Gary “U.S.” BondsのR&Bクラシックを、ラフでグルーヴィーなガレージ風にアレンジしたカバー。
サックスが入り、ロックンロールのルーツを辿るような祝祭感が漂う。
アルバムの中で最も“踊れる”一曲。
11. You Got Me Floatin’
ジミ・ヘンドリックスのサイケデリック・クラシックを、Joan流にパンキッシュにリメイク。
原曲の浮遊感をあえて削ぎ落とし、地に足のついた“肉体的なロック”として再構築している。
Joanのボーカルがエッジを際立たせ、驚きと説得力を同時に感じさせるエンディング。
総評
『Glorious Results of a Misspent Youth』は、Joan Jettが10代の頃に恋をしたロックンロールへの感謝と再誓約を形にした作品である。
前作のシリアスな空気とは異なり、ここではもっとパーソナルで、もっと楽しげで、もっと“音楽が好きだ!”という感情が前面に出ている。
だがそれは決して単純なノスタルジーではなく、“あの頃の火は、まだ燃えている”という証明でもある。
カバー曲とオリジナルの混在はJoanの定番だが、本作ではその境界がより曖昧であり、全ての曲において“Joan Jettの歌”として成立していること自体が、彼女の表現者としての成熟を物語っている。
セールスでは不遇な結果に終わったが、だからこそこのアルバムには売れることよりも自分の信念を優先するという、ロックの美学が宿っている。
おすすめアルバム(5枚)
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The Runaways – Live in Japan (1977)
Joanの出発点にして、少女たちのロック革命の現場を封じ込めた記録。 -
Alice Cooper – Billion Dollar Babies (1973)
グラム的演出とロックの毒性を融合させた、原曲「Be My Lover」の源流。 -
Lita Ford – Dancin’ on the Edge (1984)
元Runawaysの盟友による同時期作。よりメタリックで攻撃的なロック。 -
Girlschool – Hit and Run (1981)
UKの女性ハードロックバンド。Joanの持つ“男前さ”と共鳴する部分が多い。 -
Babes in Toyland – Spanking Machine (1990)
Joanの“ミスペント・ユース”が次世代に引き継がれたと感じさせるグランジ期の女性パンクの名盤。
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