Funkadelic Cosmic Slop(1973)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Cosmic Slop」は、1973年にリリースされたFunkadelicの同名アルバム『Cosmic Slop』の表題曲であり、**混沌と希望、絶望と祈りが入り混じる“宇宙的ファンク・ドキュメンタリー”**とも言える、彼らの代表的かつ最も深淵なメッセージソングのひとつである。

この曲は、一見するとファンクのリズムに乗せたダンスチューンに思えるが、実際には貧困、母性愛、道徳の葛藤、そして社会的な見捨てられた者たちの現実を描いた、極めてシリアスな物語を内包している。語り手は、自身の母が子供たちを生かすために売春に身を落としていたことを告白し、彼女の選択を「非道徳」と断ずるのではなく、愛の行為として受け止める視点を提示する。

“Cosmic Slop(宇宙的な混沌/ごった煮)”というタイトル自体が、社会の矛盾、価値観の衝突、人間の感情のカオスを象徴しており、Funkadelicならではの“音楽による魂の再構築”の一形態となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

1973年のアメリカは、公民権運動が一段落し、しかし根本的な貧困や人種差別、都市スラムの問題はまったく解決されていなかった。Funkadelicはこの現実を、怒りや悲しみだけでなく、スピリチュアルな視点とユーモア、そしてコズミックな広がりによって描き出そうとした。

「Cosmic Slop」はその試みの集大成ともいえる楽曲で、地上の社会問題を“宇宙的視点”から見つめ直すという、Funkadelic独自のアフロフューチャリズム的アプローチが強く反映されている。

この曲で歌われる“母”は、実在する誰かではなく、すべてのブラックコミュニティに生きる“無名の母親たち”の象徴であり、その苦悩と選択を通して、ジョージ・クリントンは“倫理”や“救済”の意味を問いかけている。音楽的にもサイケデリック・ファンクとディストーションを効かせたギターが交差し、まさに“音の混沌=Cosmic Slop”を体現している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Funkadelic “Cosmic Slop”

I can hear my mother call
I can hear my mother call

母の呼ぶ声が聞こえる
母の声が、ずっと聞こえる

Late at night, I hear her call
Oh Lord, Lord, I hear her call

深夜に、彼女の祈るような声が聞こえる
ああ神よ、彼女は何度も呼び続けていた

この印象的なフレーズは、語り手の記憶にこびりついた母の“祈り”のような声を繰り返し描写することで、母子の結びつきとその苦しみを、リスナーの心に深く刻み込む。

She was givin’ us bread and wine some of the time
And the rest of the time, she was a mother

彼女は時に、俺たちにパンとワインを与えてくれた
それ以外のときは、彼女は“ただの母”だった

ここでは、売春婦としての母がわが子にパンとワイン(命と祝福)を与える存在であることを、キリスト教的メタファーで語っている。ここに、“堕落”と“聖性”が矛盾なく同居するのだ。

I’ll pay you back one day, mama
I’ll pay you back one day

いつか、きっと恩返しをするよ、ママ
いつか必ず、報いるよ

ここには罪悪感ではなく、愛と感謝による再生の誓いがある。母の選択を“犠牲”ではなく“慈愛”と捉える視点は、非常にラディカルかつ温かい。

4. 歌詞の考察

「Cosmic Slop」は、道徳的ジレンマをファンクの形式で語るという異例の試みであり、Funkadelicの中でも特に異彩を放つ傑作である。一般的なファンクソングが快楽や解放をテーマにする一方で、この曲は痛みと現実の不可避性をそのまま提示している。

ここで語られる“母の選択”は、通常の道徳観では“堕落”と見なされる。しかしFunkadelicはそれを愛の行為として昇華させることで、聖俗の境界を曖昧にし、現実社会のルールそのものを再考させる。それは宗教や国家によって規定された“正義”に対する、魂からの静かな反抗でもある。

また、「Cosmic Slop」という語感そのものが放つ混沌さも重要である。社会はスラップスティックなまでに矛盾に満ちており、倫理、宗教、正義、愛、貧困が“ごった煮”となって煮えたぎっている。Funkadelicはその“宇宙的煮込み”を、サイケデリックなサウンドと祈りのようなボーカルで、リスナーの中に注ぎ込んでくる

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Living for the City” by Stevie Wonder
    黒人都市労働者の現実をリアルに描いた、ファンク×社会批評の代表作。

  • “Ball of Confusion” by The Temptations
    70年代のアメリカの混沌をストレートに言語化したソウルファンクの名曲。

  • “The Revolution Will Not Be Televised” by Gil Scott-Heron
    メディアでは報道されない“市民の革命”をポエトリーとファンクで表現。

  • “Maggot Brain” by Funkadelic
    本作のスピリチュアル的対となるギターインスト。悲しみと祈りの極致。

6. 混沌のなかの聖性──“正義”とは誰の視点か?

「Cosmic Slop」は、道徳が機能しない世界で、人はどう生きるべきか?という問いに対し、“祈りとグルーヴによって応答する”という、音楽的・精神的解答を提示している。その視点は、悲しみの中に希望を、汚れの中に光を見出すという、まさにゴスペル的な再構築の力を持っている。

Funkadelicは、社会から取り残された“母”の声を宇宙に響かせることで、彼女をただの“犠牲者”ではなく、人類の愛と矛盾を象徴する存在にまで昇華させた。

「Cosmic Slop」は、道徳が崩れた後の世界で“魂の声”をどう受け止めるかを問う、ファンクの名を借りた“聖なる混沌”である。

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