発売日: 1993年4月27日
ジャンル: パワーポップ、オルタナティヴ・ロック、グランジ
アルバム全体の印象
The Posiesの3rdアルバム『Frosting on the Beater』は、1993年にリリースされ、バンドの音楽的ピークとも言える重要な作品だ。前作『Dear 23』で示した美しいハーモニーとメロディはそのままに、サウンドはより重厚でダイナミックなものへと進化した。これは、当時のシアトルの音楽シーン、いわゆるグランジ・ムーブメントの影響が色濃く反映されている結果だ。
プロデュースを手がけたのは、ドン・フレミング(Sonic YouthやDinosaur Jr.を手掛けた名プロデューサー)であり、彼の手によって、The Posiesのサウンドはより攻撃的でノイジーなものへと変貌を遂げた。ギターは歪みを増し、ドラムはパワフルに、そしてボーカルは感情的な熱を帯びている。一方で、ジョン・オーエルとケン・ストリングフェローの美しいハーモニーは健在であり、サウンドの重さとポップなメロディが絶妙なバランスで共存している。
アルバムタイトルの『Frosting on the Beater』は、甘さ(frosting)と攻撃性(beater)のコントラストを象徴しており、この一枚に詰め込まれたサウンドの多面性を見事に表している。パワーポップの甘美さと、グランジの荒々しさを融合させた名盤として、今なお愛され続ける作品だ。
各曲解説
1. Dream All Day
アルバムのオープニングを飾る代表曲。強烈なギターリフとキャッチーなメロディが一気にリスナーを引き込む。「I dream all day, I dream all night」というサビが印象的で、日常の閉塞感と理想への憧れが見事に描かれている。パワーポップとオルタナティヴ・ロックの融合が絶妙な一曲。
2. Solar Sister
このアルバムの中でも特に人気の高い楽曲。煌びやかなギターと美しいハーモニーが際立ち、どこか切ない雰囲気が漂う。歌詞は抽象的だが、心の葛藤や喪失感を感じさせる。「She’s in my head, she’s in my head again」というリフレインが耳に残る。
3. Flavor of the Month
シアトルのグランジブームを皮肉ったような歌詞が特徴の一曲。攻撃的なギターとアップテンポなリズムが楽曲に勢いを与え、バンドの新たな一面を見せている。シーンへの冷めた視線と自虐的なユーモアが光る。
4. Love Letter Boxes
重厚なギターサウンドと、どこかメランコリックなメロディが融合した楽曲。ヴァースからサビにかけてのダイナミクスが美しく、The Posiesの真骨頂とも言える一曲だ。歌詞には愛と混乱が描かれ、感情的な深みを感じる。
5. Definite Door
疾走感のあるギターリフが特徴の楽曲。オルタナティヴ・ロック的なエッジを効かせつつも、メロディアスなサビが心地よい。シンプルながらも強烈なインパクトを残す一曲だ。
6. Burn & Shine
アルバムの中でも特に攻撃的な楽曲の一つ。歪んだギターとパワフルなドラムが、曲全体に圧倒的なエネルギーを与えている。サウンドの荒々しさとは裏腹に、コーラス部分のハーモニーは美しく、The Posiesらしさが光る。
7. Earlier Than Expected
アルバムの中で最も静かで内省的なトラック。アコースティックギターと柔らかなボーカルが際立ち、聴き手の心に寄り添うような楽曲だ。バンドの繊細な一面が感じられる。
8. 20 Questions
ミドルテンポで進行するメロディックな楽曲。コーラス部分のハーモニーが美しく、オーエルとストリングフェローのヴォーカルが絶妙に絡み合っている。リスナーの心をじんわりと温める一曲だ。
9. When Mute Tongues Can Speak
テンポの速いギターポップナンバー。パワフルな演奏とシンプルな歌詞が相まって、聴いていて心地よい爽快感がある。ライヴで盛り上がること間違いなしの楽曲。
10. Lights Out
グランジの影響を強く感じさせる一曲。重たいギターサウンドと、荒々しいボーカルが特徴的で、アルバム全体のダークなトーンを象徴している。
11. How She Lied by Living
アルバム終盤を飾る、ミディアムテンポの楽曲。美しいハーモニーと控えめなギターが、静かな情熱を感じさせる。歌詞には愛や喪失のテーマが込められており、深い余韻を残す。
12. Coming Right Along
アルバムのラストを飾る、ダークで幻想的な一曲。スローテンポの楽曲に、陰鬱で緊張感のあるサウンドが重なり、まるでエンディングロールのような雰囲気を作り出している。アルバムの締めくくりにふさわしい一曲だ。
アルバム総評
『Frosting on the Beater』は、The Posiesが音楽的に大きな進化を遂げた作品だ。彼らの持つポップセンスはそのままに、グランジの影響を受けた重厚なサウンドが加わり、パワーポップとオルタナティヴ・ロックの中間点に位置する傑作となった。
「Dream All Day」や「Solar Sister」といった代表曲は、彼らの美しいメロディとハーモニーを最大限に引き出しつつ、荒々しいギターサウンドが楽曲に深みを与えている。一方で「Coming Right Along」のような静かでダークな楽曲も収録されており、アルバム全体が感情の振れ幅に富んでいる。
The Posiesのキャリアの中でも最も影響力があり、90年代パワーポップの金字塔とも言える作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
1. Bandwagonesque by Teenage Fanclub
ノイジーなギターと美しいメロディが融合した、90年代ギターポップの名盤。The Posiesのファンなら必聴。
2. #1 Record by Big Star
パワーポップの原点とも言える名盤。美しいハーモニーとシンプルなサウンドが、The Posiesのルーツに通じる。
3. Copper Blue by Sugar
攻撃的なギターサウンドとキャッチーなメロディが特徴の一枚。オルタナティヴ・ロック好きにおすすめ。
4. Doolittle by Pixies
オルタナティヴ・ロックの象徴的アルバム。ダイナミックなサウンドとポップなセンスがThe Posiesの作品にも通じる。
5. Siamese Dream by The Smashing Pumpkins
美しいメロディとノイジーなギターが共存する傑作。グランジとパワーポップの融合が好きな人にぴったり。
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