アルバムレビュー：Frampton by Peter Frampton

発売日: 1975年3月3日
ジャンル: ロック、メロディック・ロック、ソフトロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Frampton』は、ピーター・フランプトンが1975年に発表したソロ4作目のスタジオ・アルバムであり、翌年にリリースされる大ヒット・ライヴ・アルバム『Frampton Comes Alive!』の“静かな前夜”を彩る、洗練と成熟を感じさせる傑作である。
それまでの作品がバンド色や実験的要素を含んでいたのに対し、本作はフランプトンのソングライティング力とギタリスト／シンガーとしての表現力が有機的に結びつき、“音の美しさ”に焦点を当てた構成がなされている。

アコースティックとエレクトリックの使い分け、楽曲構成の巧みさ、そして極めて自然体な演奏と歌。
それらが穏やかに共鳴し合い、結果的に“ライヴ前提ではなく、録音物として完成されたピーター・フランプトンの世界”が提示された重要作となった。
本作の多くの楽曲が『Frampton Comes Alive!』で再演されたことからも、彼にとって本作がいかに核となるレパートリーであったかがうかがえる。

全曲レビュー

1. Day’s Dawning

穏やかなアコースティックギターとスライドが交差する、朝の始まりを描いたようなオープニング・ナンバー。
“新しい一日が始まる”という予感に満ちたこの曲は、アルバム全体の空気をやさしく整える。
フォークとロックの中間に位置するミニマルな構成。

2. Show Me the Way

のちにライヴ版で大ヒットする代表曲のスタジオ初出。
「どうか私に道を示してほしい」という内面の迷いや祈りを、キャッチーなメロディとトーキング・ボックスを使ったギターで彩る。
希望と不安が同居する、フランプトンらしい感情のバランス感覚が光る名曲。

3. One More Time

軽やかなアコースティック・ロック。
恋愛の“もう一度”を求めるナイーヴな感情を、シンプルな構成で歌い上げており、ヴォーカルの柔らかさが際立つ。
親密で飾らない音作りが心地よい。

4. The Crying Clown

ピアノを中心に据えたバラードで、泣いている道化師という寓話的な存在をテーマに、孤独と芸術家の業を描く。
ストリングスとハーモニーが情感を深めており、隠れた名曲とも言える一曲。
フランプトンの“物語を紡ぐ力”が感じられる。

5. (I’ll Give You) Money

本作随一のハード・ロッキンなナンバー。
タイトル通り、金銭や物質的価値に対する皮肉を込めたリフ主導型の楽曲で、ギターの切れ味とベースラインが強力。
ライヴではさらに激しさを増す楽曲の原型として要注目。

6. Shine On

フランプトンがかつて在籍していたハンブル・パイのスティーヴ・マリオットによる楽曲を再演。
静かなアレンジとエモーショナルなボーカルで、原曲とは異なる角度から“輝き”を再解釈。
自己のルーツを抱擁しつつも新たな解釈を示す。

7. Jumpin’ Jack Flash（未収録、誤記に注意）

※この曲は前作『Wind of Change』収録曲であり、本作には含まれていない。

8. It’s a Plain Shame

ファズギターとブルース調のシャウトが印象的な、ロック色の強い楽曲。
「ただの恥だ」と繰り返すフレーズが、虚無感と苛立ちを端的に伝える。
『Frampton Comes Alive!』でも特に人気の高いライヴ・チューンの原型。

9. Penny for Your Thoughts

わずか1分ほどのアコースティック・ギター・インストゥルメンタル。
バラードの余韻を受け継ぎつつ、短いながらも詩情豊かで、クラシカルな技巧も感じさせる。

10. Nowhere’s Too Far (For My Baby)

愛する人のためならどこまでも――という優しい決意を綴ったポップ・チューン。
軽やかなメロディと柔らかなコーラスに、ハートウォーミングな温度感が宿る。

11. Nassau / Baby, I Love Your Way

後に単独で大ヒットするバラードのスタジオ版。
“ただ君を愛してる”という繰り返しが、真っ直ぐすぎて逆に胸に響く。
イントロのインスト“ナッソー”からの流れが美しく、夢のような時間を演出する。

総評

『Frampton』は、ピーター・フランプトンが自身の表現者としての核を明確に打ち出したアルバムであり、ロックの枠を超えて“メロディと感情”を大切にする姿勢が一貫している。
『Wind of Change』や『Frampton’s Camel』で見せたバンド的アプローチを一旦削ぎ落とし、内面と向き合い、音と向き合うことで、のちのライヴ成功への足場を固めた作品でもある。

特に本作における“親密さ”や“包容力”は、後年の派手なパフォーマンスとは異なる、もう一つのピーター・フランプトン像を私たちに提示する。
静かに熟成されたこのアルバムこそ、“ライヴの熱狂”とは別種の永続的な価値を持つ、隠れたマスターピースと言えるだろう。