Forget Me by Lewis Capaldi（2022）楽曲解説

1. 歌詞の概要

“Forget Me“は、スコットランド出身のシンガーソングライター、**Lewis Capaldi（ルイス・キャパルディ）**が2022年にリリースした楽曲であり、2作目のアルバム『Broken by Desire to Be Heavenly Sent』（2023年）の先行シングルとして発表された一曲です。デビュー作『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』で一世を風靡した彼にとっては、約3年ぶりとなる完全新曲であり、よりポップなサウンドへと進化しながらも、感情の核は相変わらず痛切で正直というキャパルディらしさが凝縮された作品です。

本作のテーマは、自分との関係を終えた相手が、予想以上にすぐに立ち直ってしまったことへの苦悩と嫉妬、未練です。語り手は、自分がまだ苦しんでいるのに、相手はもう楽しそうにしているという現実に直面し、「忘れられたくない」という心の叫びをストレートに吐き出します。

印象的なのは、その内容の重さに反して、アップテンポで80年代ポップスを思わせるサウンドが組み合わされていること。これにより、悲しみや怒りの感情が過剰に沈まないまま、むしろ聴き手に“わかるよ、その気持ち”と寄り添う軽やかさをもって届けられているのが本曲の特徴です。

2. 歌詞のバックグラウンド

Lewis Capaldiはこの曲について、「最悪な感情を、最もキャッチーな形で表現してみたかった」と語っています。これまでの彼の代表曲——「Someone You Loved」「Before You Go」「Bruises」など——が、バラードとして喪失や別れの感情をじっくり描いてきたのに対し、「Forget Me」はより毒のある失恋の姿を、あえて明るく、キャッチーな形で提示する試みとなっています。

彼はまた、**“この曲は失恋による怒りとプライドの傷を抱えた者の自己中心的な嘆き”**とも表現しており、感情的には未熟でも、その未熟さこそがリアルであり、音楽としての誠実さだと語っています。

ミュージックビデオは、Wham!の1983年の名曲「Club Tropicana」の映像をパロディにした、明るくシニカルな映像美学で彩られ、歌詞の痛みとのギャップをより強調しています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Lyrics:
I’m not ready to find out you know how to forget me
和訳：
「君が僕のことをうまく忘れられるなんて、まだ受け入れられない」

Lyrics:
I’d rather hear how much you regret me
和訳：
「それならいっそ、君が僕のことを後悔してるって聞かされる方がマシだ」

Lyrics:
And pray to God that you never met me
和訳：
「神様に、僕なんかと出会わなければよかったと願ってくれる方がいい」

Lyrics:
Than forget me
和訳：
「忘れられるよりは、ね」

（※歌詞引用元：Genius Lyrics）

このように、「嫌われるよりも忘れられる方がつらい」という感情が、ひねくれた愛情と喪失の感覚として描かれているのがこの曲のユニークな点です。

4. 歌詞の考察

“Forget Me”の核心にあるのは、自己中心的であることを自覚したうえで、それでも誰かに“忘れられたくない”という極めて人間的なエゴです。

✔️ 忘れられる＝存在の否定

「君が僕を忘れる」という行為は、単に恋が終わったという事実ではなく、“自分が存在した証”そのものを消されてしまうような痛みとして捉えられています。だからこそ、語り手は「憎まれること」や「後悔されること」を望み、たとえネガティブな形でも、自分が相手の記憶に残っていてほしいと願うのです。

✔️ “みじめさ”を笑いに変える構造

Lewis Capaldiはこの曲で、誰しもが経験する“自分だけ取り残された感覚”や“片方だけ立ち直れない苛立ち”を、あえて開き直って歌うというスタンスをとっています。そのことで、聴き手は「これ、自分のことだ」と素直に共感できる構造になっています。

✔️ 音楽的ギャップが生む“感情の客観視”

歌詞の内容はかなり痛々しいにもかかわらず、サウンドは80年代風のシンセポップで軽快に展開されます。このギャップが、感情の重さを相対化し、ある種の“客観性”を聴き手に与えてくれる。結果的にこの曲は、感情の深さを維持しながらも、日常的なリスニング体験として成立する絶妙なバランスを実現しています。