
発売日: 1970年(オランダ)、1971年(国際リリース)
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ジャズロック、サイケデリック・ロック
焦点はぼやけながらも、未来への光を確かに射すデビュー作
『Focus Plays Focus』は、オランダ出身のプログレッシブ・ロック・バンド、Focusが1970年に発表した記念すべきデビュー・アルバムである。
国外盤では『In and Out of Focus』として知られ、タイトルが示す通り、明確な方向性と実験的な揺らぎの狭間で揺れる音楽性が印象的だ。
バンドの中心人物は、クラシックとジャズに精通したキーボーディスト/フルート奏者のThijs van Leer(タイス・ファン・レール)と、ギターの鬼才Jan Akkerman(ヤン・アッカーマン)。
この後のアルバムで見られる壮大なインストゥルメンタル中心のスタイルはまだ萌芽的であり、本作ではヴォーカル曲が多く、歌と演奏のバランスを模索する過程が色濃く記録されている。
全曲レビュー
1. Focus (Instrumental)
記念すべきバンド初のインストナンバーで、後の「Focus」シリーズの源流。
クラシカルなピアノと浮遊感のあるギターが絡み合い、ゆったりとした序章を形成する。
2. Black Beauty
サイケデリックなフィーリングとポップなメロディが交差する曲。
軽やかなリズムとコーラスワークが60年代後半の空気を色濃く残している。
3. Sugar Island
ボサノヴァやラテン音楽からの影響が感じられる異色の楽曲。
社会風刺的な歌詞と柔らかいメロディとのギャップが興味深い。
4. Anonymous
ファズの効いたギターとジャズ風のフルートが炸裂する、インストゥルメンタルのハイライト。
即興性が高く、すでにAkkermanの異能ぶりが露呈している。
5. House of the King
後に代表曲として知られるようになる名インスト曲。
フルートの旋律がリードを取り、どこかバロック風の優雅さとロックの推進力が共存している。
6. Happy Nightmare (Mescaline)
アシッドなトーンを持つサイケデリック・ロック。
“メスカリン”というタイトルが示す通り、幻覚的な感覚が楽曲全体を支配している。
7. Why Dream
アコースティックとエレクトリックが融合した小品。
抒情性と抽象性が交錯し、夢と現実のあいだを漂うような印象を残す。
8. Focus (Vocal)
オープニング曲の再解釈版で、歌詞とヴォーカルが加わっている。
より叙情的なアプローチがなされており、アルバムの締めくくりとして機能する。
総評
『Focus Plays Focus』は、後にヨーロッパを代表するインストゥルメンタル・プログレ・バンドとなるFocusが、まだ“歌のバンド”であった頃の過渡的な姿を映し出すアルバムである。
その分、スタイルは定まっていないが、それゆえに多様な音楽的要素が無邪気に混在しており、自由な実験精神と若さゆえのエネルギーが魅力となっている。
インストゥルメンタルに比重を置いた楽曲「Anonymous」「House of the King」などに、後の大作主義への萌芽を見出せる点も興味深い。
“焦点がぼやけた”作品だからこそ見えてくる、音楽の可能性への開かれた扉。
この作品は、まさにその一歩目としてふさわしい。
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Jethro Tull – This Was
初期のフォーク・ブルースとジャズ・ロックが融合したスタイル。フルートを多用する点も共通。 -
Caravan – If I Could Do It All Over Again, I’d Do It All Over You
ヴォーカルとインストのバランスが近く、カンタベリー・シーンの香りがする。 -
Soft Machine – Volume Two
ジャズロックとアヴァンギャルドの融合。即興性と実験性を重視する点でFocusと響き合う。 -
The Nice – The Thoughts of Emerlist Davjack
クラシックの導入とロックの接合を試みた初期プログレの重要作。 -
Focus – Moving Waves (Focus II)
本作の進化形。「Hocus Pocus」など代表曲を含み、バンドの完成された姿が聴ける。
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