発売日: 2019年2月1日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、シンセポップ、ポストパンク・リバイバル
概要
『Five』は、White Liesの5枚目のスタジオ・アルバムにして、
バンド結成から10年以上を経てなお、進化し続ける彼らの“中期最高傑作”とも称される意欲作である。
タイトルの通り通算5作目にあたるこの作品では、
過去作の美学を踏襲しつつも、よりシアトリカルに、よりエモーショナルに、そしてよりパーソナルに踏み込んだ表現が目立つ。
音楽的には、初期のポストパンク・リバイバルの重厚さ、
『Big TV』以降のシンセ主体の洗練されたサウンド、
さらには『Friends』で見せたポップ性を有機的に融合し、
大仰でありながら親密、劇的でありながら誠実という二面性が際立っている。
また、リリース元をPIASへと移し、完全なる独立環境下で制作された初のアルバムでもあり、
自由度の高いコンセプト構成と大胆な音作りは、**“成熟したバンドが自らのルーツと未来を同時に描いた一枚”**といえる。
全曲レビュー
1. Time to Give
7分を超える大曲で幕を開ける、異例のオープニング。
“与える時だ”という決断の瞬間を、緩やかなビルドアップと劇的な展開で描く壮大な一曲。
White Liesらしいシンセとギターの絡みが、感情のうねりを繊細に表現する。
2. Never Alone
“君は一人じゃない”と繰り返しながらも、どこか孤独の気配が残る不思議なポップソング。
エレガントなコーラスと80年代風ビートが、切なさと安堵を同時に誘う。
シンプルながらも強い感情の磁場を持つ一曲。
3. Finish Line
タイトル通り、終わりが見えている恋愛／人生のメタファーを描いたバラード。
“誰かを愛したあとに残るもの”を、淡いメロディとともにじっくりと描写。
ハリー・マックヴェイのヴォーカルが、いつになくナイーヴに響く。
4. Kick Me
“蹴ってくれ、目を覚ましたいから”という自己否定と救済欲求が交差するセンシティブなロックナンバー。
力強いビートと感情的なリリックの対比が、切迫感を生む。
ライブでは人気の高い一曲。
5. Tokyo
本作で最もストレートなシンセポップ・トラック。
異国への憧れと孤独、逃避願望を軽やかなメロディに乗せて描く。
“東京”という地名が持つ幻想と、現実とのズレをロマンティックに切り取る、現代的シティポップの名作。
6. Jo?
不可思議なタイトルを持つ、アグレッシブなリズムのエレクトロ・ロック。
混乱した心理と自己投影の繰り返しが、ポストパンクの荒々しさとシンセの美学で表現される。
意味を限定しない“Jo?”という問いが、逆に普遍性を帯びてくる。
7. Denial
タイトル通り、“否認”という防衛反応をテーマにした内省的なバラード。
心の奥にある傷をなぞるようなメロディが切ない。
演奏は控えめながら、情感は豊かで、アルバム後半の静かな核心を成す。
8. Believe It
前向きなメッセージを持つ軽快なシンセロック。
“信じてくれれば、それでいい”という直球の表現に、長年の活動による表現の開き直りと温かみが感じられる。
アルバム中もっともポップで親しみやすいトラック。
9. Fire and Wings
エンディングを飾る荘厳なシンフォニック・バラード。
タイトルの“炎と翼”は、破壊と再生、終焉と旅立ちの象徴であり、
本作全体に通底するテーマを詩的に回収している。
リズムをほぼ排した構成が、映画のエンドロールのような余韻を残す。
総評
『Five』は、White Liesが**“何者かになろうとする葛藤”から、“そのままで在ることの美しさ”へと到達した記念碑的作品**である。
音楽的には、初期のポストパンク的な冷たさから大きく広がりを見せ、
シンセポップ、バラード、エレクトロロックなどの多彩な要素を統合しながら、あくまで“White Liesらしさ”を保っている。
歌詞はより個人的で曖昧な情緒を孕み、人生の中で何度も訪れる“手放し”や“変化”を受け入れていく感情のグラデーションが浮かび上がる。
“決定的な何か”ではなく、“未完成のまま生きること”を受け入れた、
**40分の穏やかで静かなイニシエーション（通過儀礼）**と呼ぶべき一枚である。
おすすめアルバム
- Editors『The Weight of Your Love』
ポストパンクの影を残しつつ、バラードと大衆性を融合した中期作。 - The National『Trouble Will Find Me』
感情の陰影と誠実な語り口が共鳴。 - Future Islands『As Long As You Are』
80s風サウンドで心の機微を丁寧に描くスタイルが共通。 - Balthazar『Fever』
リズムに内省を乗せた、モダンで耽美なサウンド感。 - Interpol『El Pintor』
キャリアを重ねた後の研ぎ澄まされたポストパンクの美学。
ファンや評論家の反応
『Five』は、批評家から**“バンドとしての真価がもっとも明確に表れた作品”**として好評を博し、
ファンからも「最も心に寄り添うアルバム」として受け入れられた。
特に「Time to Give」や「Tokyo」、「Kick Me」などはライブでも好評を博し、
**“過去作の焼き直しではなく、静かな革新”**として評価されている。
『Five』は、10年を越えて歩き続けたWhite Liesが辿り着いた、
最も人間的で、最も温かな“折り返し点”のようなアルバムである。
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