
発売日:1985年3月11日
ジャンル:ゴシック・ロック、ポスト・パンク、ダークウェイヴ、オルタナティヴ・ロック
概要
The Sisters of Mercyのデビュー・アルバム『First and Last and Always』は、1985年に発表されたゴシック・ロック史の中核的作品であり、1980年代英国ポスト・パンク以後の暗黒美学を決定づけた重要作である。リーズを拠点に活動を始めたThe Sisters of Mercyは、アンドリュー・エルドリッチの低く冷たいヴォーカル、硬質なドラムマシン、重く反復するベースライン、鋭く乾いたギター、そして退廃的で文学的な歌詞によって、同時代のバンドとは異なる強烈な存在感を築いた。
本作は、いわゆる「ゴス」の代表作として語られることが多い。しかし、その音楽は単に暗いだけではない。The Sisters of Mercyのサウンドには、パンク以後の冷たい推進力、ハード・ロック的なギターの重量、サイケデリック・ロック的な反復、ニューウェイヴ的な音の整理、そしてダンス・ミュージックにも通じる機械的なリズムが混在している。つまり『First and Last and Always』は、ゴシック・ロックの典型であると同時に、そのジャンルが複数の音楽的要素の交差点から生まれたことを示す作品でもある。
The Sisters of Mercyの音楽において重要なのは、ドラムマシン「Doktor Avalanche」の存在である。人間のドラマーではなく機械的なビートを用いることで、バンドのサウンドはロック的な熱気よりも、冷たく反復的な推進力を獲得した。この無機質なリズムは、エルドリッチの深い声やギターの荒涼とした響きと結びつき、都市の夜、終末感、精神的な疲弊を思わせる独自の音響空間を作っている。
アルバム・タイトル『First and Last and Always』は、「最初で、最後で、そして常に」という絶対性を帯びた言葉である。そこには恋愛、信仰、死、執着、運命、終わりなき反復といった主題が重なる。The Sisters of Mercyの歌詞は、直接的な物語よりも、象徴的な断片、聖書的な響き、麻薬的な幻覚、都市的な孤独、関係の崩壊を組み合わせることで、聴き手に暗いイメージの連鎖を提示する。明確な説明ではなく、言葉の陰影によって世界を作る点が本作の大きな特徴である。
キャリア上の位置づけとして、本作はThe Sisters of Mercyの唯一の初期編成によるフル・アルバムであり、バンド内部の緊張が音楽的な密度へ転化された作品でもある。アンドリュー・エルドリッチ、ゲイリー・マルクス、ウェイン・ハッセイ、クレイグ・アダムスという布陣は、その後長くは続かなかったが、この時期の化学反応は非常に強力だった。特にギターの絡みとベースの重心、ドラムマシンの冷たい拍動は、本作で完成された独特のゴシック・ロック像を形作っている。
同時代の文脈で見ると、The Sisters of MercyはBauhaus、Siouxsie and the Banshees、The Cure、The Mission、The Chameleons、Fields of the Nephilimなどと並ぶ英国ダーク・ロックの重要な存在である。ただし、The Sisters of MercyはBauhausの演劇的な不気味さや、The Cureの内省的な憂鬱とは異なり、より硬質で、乾いていて、荒野を走るようなロックの推進力を持っていた。彼らの音楽には、ゴシック的な美意識と同時に、アメリカン・ロックやモーターサイクル文化にも通じる黒い疾走感がある。
後の音楽シーンへの影響は非常に大きい。『First and Last and Always』は、ゴシック・ロック、ダークウェイヴ、インダストリアル・ロック、ポスト・パンク・リバイバル、さらにはメタル寄りのゴス・ロックにも影響を与えた。低音を重視したヴォーカル、機械的なビート、暗いギター・リフ、神秘的で終末的な歌詞の組み合わせは、以後の多くのバンドにとって参照点となった。本作は、1980年代の地下的な暗黒ロックが、単なるサブカルチャーの装飾ではなく、非常に強い音楽的構造を持っていたことを証明するアルバムである。
全曲レビュー
1. Black Planet
オープニング曲「Black Planet」は、アルバム全体の空気を一気に決定づける楽曲である。タイトルは「黒い惑星」を意味し、世界そのものが暗闇に覆われたような終末的なイメージを呼び起こす。冒頭からドラムマシンの硬いビートとギターの冷たい響きが入り、The Sisters of Mercyの音楽が持つ荒涼としたスケール感が提示される。
音楽的には、曲は疾走するというより、重く乾いた機械のように進む。リズムは一定で、感情的な揺れよりも冷徹な反復を強調する。その上にギターが荒野の風のように鳴り、クレイグ・アダムスのベースが低く全体を支える。アンドリュー・エルドリッチのヴォーカルは、歌というより宣告のように響き、聴き手を暗い世界へ引き込む。
歌詞では、破滅、移動、喪失、世界への疎外感が感じられる。「Black Planet」という言葉は、単に宇宙的なイメージではなく、精神状態そのものの比喩としても機能する。光の届かない場所に置かれた自己、あるいは社会全体が冷えていく感覚が、曲のサウンドと強く結びついている。
アルバム冒頭にこの曲が置かれることで、『First and Last and Always』は、明確に暗い旅として始まる。The Sisters of Mercyのゴシック・ロックが、単なる耽美的な暗さではなく、冷たく広い終末的風景を持つことを示す重要な一曲である。
2. Walk Away
「Walk Away」は、The Sisters of Mercyの中でも比較的シングル向きの明快さを持つ楽曲である。タイトルは「立ち去れ」「歩き去れ」という意味を持ち、関係の終わり、拒絶、自己防衛を主題としている。ゴシック・ロックの暗さを保ちながら、曲の構成は非常に引き締まっており、フックも強い。
音楽的には、ギターのリフが前面に出ており、ドラムマシンのビートとともに曲を直線的に進める。重さはあるが、過度に沈み込まない。むしろ、感情を切り捨てるような乾いた推進力がある。この点が、The Sisters of Mercyの魅力である。悲しみを湿ったバラードにするのではなく、冷たく歩き去る動作として音楽化する。
歌詞では、相手との関係から離れること、あるいは自分自身がこれ以上傷つかないために距離を取ることが描かれる。ここでの「walk away」は、敗北ではなく、ある種の決断である。愛や執着に飲み込まれるのではなく、背を向けることで自分を保つ。しかし、その決断には冷たさだけでなく、痛みも含まれている。
「Walk Away」は、本作の中で最も聴きやすい部類の曲でありながら、The Sisters of Mercyらしい冷笑と傷を持っている。ポスト・パンク的な緊張とロック・ソングとしての明快さがよく結びついた楽曲である。
3. No Time to Cry
「No Time to Cry」は、アルバムの中でも特に感情の抑圧をテーマにした楽曲である。タイトルは「泣いている時間はない」という意味であり、悲しみや喪失を抱えながらも、立ち止まることが許されない状況を示している。The Sisters of Mercyの歌詞には、感情を直接吐露するより、それを抑え込んだ時に生まれる冷たい緊張がしばしば現れる。この曲はその典型である。
音楽的には、リズムが比較的軽快で、ギターも明確な輪郭を持つ。メロディには哀愁があるが、曲は感傷に流れない。ドラムマシンの反復が、涙を許さない機械的な時間の流れを象徴しているように響く。人間的な悲しみと無機質なビートの対比が、この曲の核心である。
歌詞では、悲しみや絶望に向き合う余裕がない人物の姿が浮かび上がる。泣くことは本来、感情を解放する行為である。しかし、ここではそれさえも許されない。都市生活、愛の崩壊、精神的な疲弊の中で、人は感情を後回しにして進み続ける。その痛みが、エルドリッチの低い声によって冷たく表現される。
「No Time to Cry」は、The Sisters of Mercyの持つ強さと脆さを同時に示す楽曲である。涙を拒むことで、逆に涙の存在が強く感じられる。感情の抑制が感情そのものを深めている。
4. A Rock and a Hard Place
「A Rock and a Hard Place」は、英語の慣用句「between a rock and a hard place」、つまり「板挟み」「逃げ場のない状況」を連想させるタイトルを持つ。The Sisters of Mercyの音楽において、出口のなさ、選択肢のなさ、精神的な閉塞は重要なテーマであり、この曲もその流れにある。
音楽的には、ギターの硬い響きとベースの重さが印象的で、曲は緊張感を持って進む。ドラムマシンの一定した拍動は、逃れられない状況の反復を思わせる。曲全体に、動いているのに抜け出せない感覚がある。これはThe Sisters of Mercyのサウンドにしばしば見られる特徴であり、疾走感と閉塞感が同時に存在する。
歌詞では、相反する力の間で追い詰められる人物像が描かれる。愛と拒絶、信仰と疑念、欲望と破滅、現実と幻想。どちらを選んでも救われない状況が、暗い比喩として提示される。エルドリッチの歌唱は、苦悩を大げさに表現するのではなく、むしろ冷たく突き放すことで、状況の深刻さを強めている。
この曲は、アルバムの中で中盤へ向かう緊張を高める役割を果たしている。個人的な関係の崩壊だけでなく、存在そのものの行き詰まりを感じさせる楽曲である。
5. Marian
「Marian」は、『First and Last and Always』の中でも特に象徴的で、The Sisters of Mercyの代表曲のひとつとして高く評価されている楽曲である。タイトルの「Marian」は女性名であり、同時に聖母マリアを想起させる宗教的な響きも持つ。楽曲には英語だけでなくドイツ語のフレーズも含まれ、異国的で冷たい雰囲気を強めている。
音楽的には、アルバムの中でも特に深い陰影を持つ。ベースラインは重く、ギターは空間を漂うように鳴り、ドラムマシンは冷たく曲を進める。全体に水、沈下、遠い場所への引き込みを思わせる感覚がある。曲は大きく爆発するのではなく、暗い流れの中へ沈んでいくように進む。
歌詞では、Marianという存在への呼びかけが中心となる。彼女は恋人であるとも、救済者であるとも、失われた理想であるとも読める。ドイツ語の使用によって、歌詞はさらに距離感と神秘性を帯びる。言葉の意味だけでなく、響きそのものが冷たく、儀式的な空気を作る。
「Marian」の重要性は、The Sisters of Mercyのゴシック性が最も美しく結晶化している点にある。ここには宗教的な象徴、恋愛の執着、死の気配、異国語の冷たさ、ドラムマシンの無機質さがすべてある。暗さを単なる雰囲気ではなく、構造として成立させた名曲である。
6. First and Last and Always
タイトル曲「First and Last and Always」は、アルバムの中心に位置する楽曲であり、本作のテーマを直接的に担っている。タイトルの言葉には、絶対的な執着、始まりと終わり、永続性への願望が込められている。The Sisters of Mercyの世界では、愛や信仰は安らぎではなく、しばしば逃れられない力として現れる。この曲も、その重さを持っている。
音楽的には、ギターの絡みが非常に印象的で、アルバム中でもロック的な推進力が強い。曲は冷たいドラムマシンに支えられながら、ギターが幾重にも重なり、壮大で荒涼とした景色を作る。エルドリッチの声は、タイトルの言葉を呪文のように響かせる。
歌詞では、誰か、あるいは何かに対する絶対的な関係が示される。「最初で最後で常に」という表現はロマンティックである一方、非常に重く、逃げ場がない。愛の永遠性を歌っているようでいて、その永遠性は祝福ではなく呪縛にも聞こえる。この両義性こそがThe Sisters of Mercyらしい。
タイトル曲として、この曲はアルバム全体の精神をまとめている。始まりと終わりが同時に存在し、時間が直線的に進まず、執着だけが残り続ける。その感覚が、曲の冷たい推進力の中に刻まれている。
7. Possession
「Possession」は、所有、憑依、支配を意味するタイトルを持つ楽曲である。The Sisters of Mercyの歌詞において、愛や欲望はしばしば自由な感情ではなく、相手を所有し、あるいは自分が何かに取り憑かれる力として描かれる。この曲は、その危うさを明確に示している。
音楽的には、ベースとドラムマシンが作る暗いグルーヴが中心で、ギターは鋭く曲に絡む。サウンド全体には、閉じ込められたような圧迫感がある。曲は激しく爆発するというより、内側で熱を持ったまま進む。これは「possession」というテーマにふさわしい。外へ解放される感情ではなく、内側に憑依する感情である。
歌詞では、誰かを所有したい欲望、あるいは自分が何かに支配される感覚が描かれる。恋愛の文脈にも読めるが、それだけではない。欲望、記憶、信仰、薬物、権力、過去。人はさまざまなものに取り憑かれる。エルドリッチの低い声は、その憑依を冷静に語るようであり、かえって不気味さを増している。
「Possession」は、アルバム後半において心理的な暗さをさらに深める楽曲である。The Sisters of Mercyの音楽における愛と支配の近さ、救済と呪縛の近さがよく表れている。
8. Nine While Nine
「Nine While Nine」は、アルバムの中でも特に叙情的で、内省的な色合いが強い楽曲である。タイトルは一見謎めいており、時間、数、反復、待機を思わせる。The Sisters of Mercyの歌詞には、明確な意味を固定しない言葉が多く、この曲もその曖昧さによって深い余韻を生む。
音楽的には、比較的落ち着いたテンポで進み、ギターの響きには哀愁がある。ドラムマシンの冷たさは保たれているが、曲全体には静かな悲しみが漂う。The Sisters of Mercyは、速く硬い曲だけでなく、このようなミッドテンポの陰影ある楽曲にも強い表現力を持っている。
歌詞では、時間の経過、待ち続けること、失われた関係、記憶の残響が感じられる。タイトルに含まれる「nine」は、終わりに近い数字としても、循環や区切りとしても読める。何かが終わろうとしているが、まだ完全には終わっていない。その宙吊りの感覚が曲全体にある。
「Nine While Nine」は、アルバム後半で感情の深い部分へ沈む曲である。派手なゴシック的演出よりも、冷えた時間の中に残る喪失感が中心にある。聴き込むほどに、アルバムの中で重要な位置を占める楽曲であることが分かる。
9. Amphetamine Logic
「Amphetamine Logic」は、The Sisters of Mercyの攻撃的で退廃的な側面が強く表れた楽曲である。タイトルは「アンフェタミンの論理」を意味し、薬物による覚醒、焦燥、精神の加速、身体の消耗を思わせる。1980年代のポスト・パンク/ゴシック・ロックには、夜、薬物、都市的な疲弊のイメージがしばしば伴っていたが、この曲はその感覚を非常に鋭く表現している。
音楽的には、リズムが強く、ギターも硬く鳴る。曲全体に神経が過剰に尖ったような感覚があり、タイトルとよく対応している。ドラムマシンの正確なビートは、薬物的な覚醒状態の機械的な反復を思わせる。人間の感情というより、加速しすぎた身体のシステムが鳴っているようである。
歌詞では、理性が歪み、欲望や焦燥が論理のように振る舞う状態が描かれる。アンフェタミンは覚醒をもたらすが、その覚醒は健全な明晰さではなく、破滅へ向かう過剰な明るさでもある。The Sisters of Mercyは、この危うい状態を倫理的に説明するのではなく、音の質感として提示する。
「Amphetamine Logic」は、本作の中でも特にポスト・パンク的な鋭さを持つ楽曲である。退廃を美化するだけでなく、その退廃が身体と精神を機械的に駆動する様子を描いている点が重要である。
10. Some Kind of Stranger
アルバムの最後を飾る「Some Kind of Stranger」は、『First and Last and Always』の終曲として非常に重要な楽曲である。長尺で、ゆっくりと広がり、アルバム全体の孤独と喪失を集約するように響く。タイトルは「ある種の見知らぬ人」を意味し、他者との距離、自己の疎外、関係の不可能性を示している。
音楽的には、曲は静かに始まり、徐々に感情の重みを増していく。ドラムマシンの拍動は一定だが、ギターとヴォーカルがその上に深い陰影を作る。エルドリッチの声は、ここでは特に低く、語りかけるようでありながら、どこか遠い。終曲として、劇的な解決ではなく、暗い余韻を残す構成になっている。
歌詞では、誰かに近づこうとしながら、結局は見知らぬ者同士であるという感覚が描かれる。愛や関係は、完全な理解をもたらすとは限らない。むしろ、近づけば近づくほど、相手の不可知性や自分自身の孤独が明らかになることがある。「Some Kind of Stranger」は、その痛みを非常に冷たく、美しく表現している。
アルバムの締めくくりとして、この曲は非常に効果的である。『First and Last and Always』は、暗い惑星から始まり、歩き去り、泣く時間を失い、聖女のような存在を呼び、所有と憑依を経て、最後に見知らぬ者として終わる。そこに救済は明確にはない。しかし、その救済のなさこそが、本作の美学を完成させている。
総評
『First and Last and Always』は、ゴシック・ロックの名盤としてだけでなく、1980年代英国ポスト・パンク以後の暗いロック表現を理解するうえで欠かせない作品である。The Sisters of Mercyは、このアルバムで、暗さ、機械的なリズム、低いヴォーカル、硬質なギター、象徴的な歌詞を極めて高い完成度で結びつけた。
本作の最大の特徴は、冷たさと熱の共存である。ドラムマシンは無機質で、ヴォーカルは低く抑えられ、ギターは乾いている。しかし、その音の内側には、激しい執着、欲望、喪失、焦燥が渦巻いている。感情を直接叫ぶのではなく、硬い音の構造の中に閉じ込めることで、逆に強い緊張が生まれている。この抑制こそがThe Sisters of Mercyの美学である。
音楽的には、ゴシック・ロックと呼ばれながらも、実際には多くの要素が含まれている。ポスト・パンクの反復性、ハード・ロック的なギターの重量、ダークウェイヴ的な冷たさ、サイケデリック・ロック的な空間感、ダンス・ミュージック的な機械ビート。これらが混ざり合うことで、本作は単なる暗いロックではなく、非常に機能的で構築された音楽になっている。
アンドリュー・エルドリッチのヴォーカルは、本作の決定的な要素である。彼の低い声は、感情を大きく揺らすより、冷たく言葉を刻む。だが、その声には皮肉、疲労、怒り、諦念、執着が含まれている。歌詞の象徴性と結びつくことで、彼の声は単なる歌唱ではなく、暗い世界の語り手として機能する。
歌詞面では、別れ、救済への希求、所有、薬物的覚醒、時間、疎外が中心にある。宗教的なイメージや異国語の使用、終末的な比喩が多く、明確な物語よりも暗い象徴の連鎖によってアルバム全体の雰囲気が作られている。「Marian」「First and Last and Always」「Some Kind of Stranger」は、その象徴性が特に強く表れた楽曲である。
キャリア上の位置づけとして、本作はThe Sisters of Mercyの最初のフル・アルバムでありながら、すでにひとつの完成形である。後の『Floodland』では、より壮大でプロダクションの大きなサウンドへ進むが、『First and Last and Always』にはバンドとしての緊張感が強く刻まれている。ギター、ベース、ドラムマシン、ヴォーカルが拮抗し、冷たい火花を散らしているような感覚は、本作ならではの魅力である。
同時代のゴシック・ロック作品と比べても、本作は独自の位置にある。Bauhausが演劇的な怪奇性を持ち、The Cureが内面的な憂鬱へ深く沈み、Siouxsie and the Bansheesが鋭いポスト・パンク的美学を展開したのに対し、The Sisters of Mercyはより黒いロックンロールの推進力と、機械的な冷たさを結びつけた。その結果、本作はゴス文化の象徴であると同時に、非常に強いロック・アルバムとしても成立している。
日本のリスナーにとっては、ゴシック・ロック入門としても、80年代ポスト・パンクの重要作としても聴く価値が高い。The Cure、Bauhaus、Joy Division、The Chameleons、Fields of the Nephilim、The Missionなどに関心があるリスナーには、非常に重要な一枚となる。特に、暗い音楽における美しさと推進力の両立を求める場合、本作は避けて通れない。
『First and Last and Always』は、暗闇を装飾として扱うのではなく、音楽の構造そのものへ変えたアルバムである。黒い惑星、歩き去る者、泣く時間を失った者、聖女への呼びかけ、所有と憑依、薬物的な論理、そして最後に残る見知らぬ者。The Sisters of Mercyは本作で、1980年代ゴシック・ロックの最も強靭な原型のひとつを作り上げた。
おすすめアルバム
1. The Sisters of Mercy『Floodland』
1987年発表のセカンド・アルバム。『First and Last and Always』のバンド的な緊張感から離れ、より壮大でドラマティックなゴシック・ロックへ進んだ作品である。「This Corrosion」「Lucretia My Reflection」などを収録し、アンドリュー・エルドリッチの美学が大規模なプロダクションで展開されている。
2. Bauhaus『In the Flat Field』
1980年発表のゴシック・ロック重要作。演劇的で不気味なヴォーカル、鋭いギター、ポスト・パンク的な緊張感が特徴である。The Sisters of Mercyよりもアート・パンク寄りで怪奇性が強く、ゴシック・ロックの初期形成を理解するうえで不可欠な作品である。
3. The Cure『Pornography』
1982年発表のアルバム。閉塞感、精神的疲弊、重いドラム、暗いギターが極限まで押し詰められた作品である。The Sisters of Mercyよりも内面的で絶望的な方向へ沈み込むが、80年代ダーク・ロックの重要な参照点として関連性が高い。
4. The Mission『God’s Own Medicine』
1986年発表のデビュー・アルバム。The Sisters of Mercyを脱退したウェイン・ハッセイとクレイグ・アダムスが結成したバンドによる作品であり、『First and Last and Always』のギター的な壮大さを、よりロマンティックで開放的な形へ発展させている。
5. Fields of the Nephilim『Dawnrazor』
1987年発表のゴシック・ロック作品。西部劇的な荒涼感、低いヴォーカル、重いギター、神秘的な歌詞が特徴である。The Sisters of Mercyの暗い疾走感や荒野的なイメージを、さらに砂塵と終末感の強い世界へ拡張した作品として聴くことができる。

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