アルバムレビュー:Fever Dream by Cannons

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発売日: 2022年3月25日
ジャンル: ドリームポップ、シンセポップ、インディーポップ


夢と現実の狭間で踊る——Cannonsが描く“フェーバー・ドリーム”の甘い眩暈

ロサンゼルスの3人組Cannonsがリリースした3rdアルバム『Fever Dream』は、彼らの代名詞とも言えるスモーキーなドリームポップ・サウンドをよりポップに、より開かれた形で展開した作品である。
タイトルの「Fever Dream(熱にうなされた夢)」が示す通り、本作は非現実的な甘さと、現実に引き戻されそうな切なさが交錯する、ひとつの幻想空間のように構成されている。

前作『Shadows』での成功を経て、本作ではよりアッパーで洗練されたプロダクションが導入され、ダンスフロアにも適したグルーヴをまとっている。
しかし、その中心には常にMichelle Joyの囁くような歌声があり、耳元で語りかけるような親密さと、夢から覚めないように祈るような優しさが宿っている。


全曲レビュー

1. Come Alive

煌びやかなイントロと高揚感に満ちたメロディ。
まさに“目覚め”をテーマにしたオープナーで、Cannons流のポップネスが炸裂する。

2. Hurricane

前作にもあった「嵐」のイメージを引き継ぎつつ、よりダンサブルに進化。
恋の激しさと混乱を、サビのドロップで見事に表現している。

3. Purple Sun

タイトル通りの色彩感にあふれた楽曲。
淡いシンセが揺れる中、紫の太陽の下で踊るような幻想的情景が広がる。

4. Afterglow

愛の余韻と夜明けの静けさを感じさせるスロウナンバー。
“終わった後”の感情に寄り添う、美しくも切ない一曲。

5. Tunnel of You

ミステリアスな雰囲気が漂う、ややダークなミッドテンポ。
愛の中で迷子になるような、幻想と現実のトンネルをくぐり抜けていく。

6. Bad Dream

前作にも登場したタイトルながら、異なる曲構成。
今回はよりパワフルでグルーヴィーなアレンジに。夢が悪夢へと変わる瞬間の揺れを描く。

7. Ruthless

ソウルフルなビートと、強めのリリックが印象的。
優しさ一辺倒ではない、Cannonsの芯の強さを感じさせるナンバー。

8. Only You

シンプルで温かなラブソング。
ミニマルなサウンドが、むしろ感情の純度を高めている。

9. Goodbye

穏やかだが、確実に感情を削ってくる別れの歌。
“さよなら”がこんなにも優しく響くのは、Cannonsならではだ。

10. Broken Dreams

夢が壊れても、それでもまだ夢を見る——そんなテーマがにじむバラード。
サウンドは控えめながら、エモーションが濃密に詰まっている。

11. Lightning

アルバム終盤でのエネルギッシュな一撃。
恋の衝動や直感を“稲妻”になぞらえた、きらびやかなエレクトロ・ポップ。

12. Strangers

アルバムを締めくくるメランコリックなナンバー。
かつての恋人が“見知らぬ人”になるという現代的な疎外感を、柔らかくも鋭く描写する。


総評

『Fever Dream』は、Cannonsがその音楽性を確固たるものにしたアルバムである。
彼らの持ち味である“夜の感情”はそのままに、よりアップテンポでポップな要素を取り入れることで、幅広い層のリスナーにアプローチしている。

幻想的で、官能的で、でもどこか現実から少しだけ浮いている——そんな感覚。
このアルバムを聴くという行為は、まさに「熱に浮かされた夢」の中をさまよう体験そのものなのだ。

心をゆっくり揺らしたい夜、あるいは明け方の光に触れる直前の時間に、そっと寄り添ってくれる一枚。


おすすめアルバム

  • Tame Impala / Currents
    サイケデリックとポップの間を流れる感覚。Cannonsのポップ進化と響き合う。
  • Lana Del Rey / Norman Fucking Rockwell!
    甘美でメランコリックな現代叙情。Cannonsのリリシズムと共通する世界観。
  • Shura / forevher
    ドリーミーでソウルフルなポップス。感情の機微を繊細に描く点で通じる。
  • Alvvays / Blue Rev
    インディーポップの新定番。キラキラとしたサウンドの中に切なさが光る。
  • Still Corners / The Last Exit
    深夜のドライブ感覚と、異国の風景を思わせるサウンドがCannonsと共振。

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