1. 歌詞の概要
「Feelin’」は、The La’s（ザ・ラーズ）が1990年に発表した唯一のスタジオアルバム『The La’s』に収録された楽曲であり、アルバムのラストを飾る象徴的なナンバーである。
アルバムの中でも特に内省的で叙情的なこの曲は、終わりを告げるというよりも、“余韻の中に取り残される感覚”をリスナーに与える、静かで確かな祈りのような楽曲である。
タイトル「Feelin’（フィールィン）」は、「感情」「感覚」「予感」など、非常に曖昧で抽象的な意味合いを含む。
歌詞もその語感に忠実に、明確な物語や結論を与えず、感情の“流れ”そのものを追いかけるような構成になっている。
それは“何かが起こりそうで起こらない”予感のようでもあり、また、“すでに過ぎ去ってしまった何か”を静かに抱きしめるようでもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Feelin’」は、The La’sの中心人物リー・メイヴァース（Lee Mavers）による作品であり、彼の持つ繊細なソングライティングの美学が最も純粋なかたちで現れた楽曲のひとつである。
この曲がアルバムの最後に配置されていることには、おそらく強い意図がある。『The La’s』というアルバム自体が、ロックンロールの美学とポップの精神の間に漂う“時代の狭間”を描いており、その最後に置かれたこの曲は、“それでもなお続いていく感覚”を示唆している。
リー・メイヴァースは、レコーディング過程において“完璧主義者”として知られ、音のひとつひとつにこだわるあまり、アルバム完成までに長い歳月を要した。
「Feelin’」には、そうした彼の“削ぎ落とされた情念”が色濃く反映されており、聴けば聴くほど奥行きのある作品となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Feelin’」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“The feeling I get / From her always makes me regret”
「彼女から感じるあの気持ちは / いつも後悔の感情を呼び起こす」
“It’s that feeling I get / It’s the feeling that lets me forget”
「それは僕の中にある感覚 / そしてそれはすべてを忘れさせてくれる」
“There’s no feeling I’d rather feel”
「ほかのどんな感情よりも、この感覚がいいんだ」
“Feelin’, feelin’, feelin’…”
「感じてる、感じてる、ただ感じてる……」
歌詞全文はこちらで確認可能：
The La’s – Feelin’ Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲に描かれているのは、「確かなことが何もない世界で、それでもなお“感じる”という行為にすがる」という姿勢である。
「Feelin’」という言葉の繰り返しは、感情の名前すらうまく付けられないときに、ただ“感じている”という事実だけを手がかりに生きている人間の姿を映している。
「彼女から感じるあの気持ちは後悔を呼ぶ」――これは恋愛関係の終焉や曖昧な関係性を暗示するとも読めるが、同時に「忘れさせてくれる」という言葉も添えられており、その矛盾がこの曲の核心である。
苦しみと癒し、愛と痛み、執着と解放。そういった相反する感情がすべて“feelin’”という一語に収束している。
そして、最後に繰り返される「Feelin’, feelin’, feelin’…」というコーラスは、もはや歌詞というよりも“感情の残響”そのものである。
意味ではなく音、言葉ではなく気配。そうした曖昧さの中にこそ、真実が潜んでいるとでも言うかのように、リー・メイヴァースは声を鳴らす。
この曲は結論を持たない。それがまさに、“人生における感情の取り扱い”そのものを体現している。
何かが始まったかもしれないし、何かが終わったのかもしれない。でも、それを定義する必要はない。ただ“感じていた”という事実だけが、静かにそこにある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Pale Blue Eyes by The Velvet Underground
説明できない感情の断片と、忘れられない面影を描いたバラードの名曲。 - There Is a Light That Never Goes Out by The Smiths
感情の逃避と一瞬の真実を静かに、しかし激しく描いたメランコリックな名曲。 - Perfect Day by Lou Reed
“何も起こらない一日”の中に潜む深い感情のうねりを捉えた、静かな名作。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
自分の中にある壊れた部分と向き合いながら、それでも愛そうとする心の表現。 - St. Swithin’s Day by Billy Bragg
去っていく誰かに何も言えなかった悔しさと優しさを、淡々と歌う英国的な名曲。
6. “言葉ではなく、感覚で終わる音楽”
「Feelin’」は、『The La’s』というアルバムを閉じるにふさわしい、“開かれた終わり”の曲である。
それは明るいフィナーレでも、悲劇的な幕引きでもない。ただ、“まだ何かを感じている”という余韻だけを残して、そっと背を向ける。
この曲のように、聴いた後に“何も分からないまま、それでも涙が出そうになる”感覚は、説明や分析を超えて、音楽そのものが持つ魔力を体現している。
「Feelin’」は、言葉のない夜にそっと寄り添ってくれる、音だけが語りかける静かな灯のような楽曲である。
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