1. 歌詞の概要
「Feel Like Makin’ Love」は、1975年にリリースされたBad Company(バッド・カンパニー)のセカンドアルバム『Straight Shooter』に収録された代表曲であり、同年のシングルとしてもリリースされた。アメリカのBillboard Hot 100ではトップ10入りを果たし、イギリスのみならず世界中で愛されるクラシック・ロックの名曲として現在も高い人気を誇っている。
この曲は、シンプルかつ情熱的なラブソングであり、愛する人と“ただ一緒にいたい”という、極めて本能的で率直な感情を歌い上げている。タイトルが示すように、「愛し合いたい気分なんだ(Feel like makin’ love)」という想いが繰り返し語られるが、それは性的なニュアンスを含みながらも、どこか純粋で誠実な響きを持っている。
歌詞全体は、日常の中でふと訪れる「誰かを強く求める瞬間」の情景を切り取ったものであり、飾り気のない語り口によって、かえってその感情の真実味が際立っている。メロディと歌詞が一体となり、“衝動”と“愛”のあいだにある曖昧な感情を見事に表現した作品である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Feel Like Makin’ Love」は、ボーカリストのポール・ロジャースとギタリストのミック・ラルフスによって共作された。曲の原型は、ミック・ラルフスがモット・ザ・フープル時代に構想していたものだが、バッド・カンパニー結成後、ロジャースによってラブソングとして完成されたという。
この曲のユニークな点は、その構造にある。穏やかでアコースティックなヴァース(歌詞部分)と、轟音のようなディストーション・ギターが炸裂するコーラスのコントラストが、まるで抑えがたい衝動の爆発をそのまま音にしたかのように響く。この大胆なアレンジが、曲全体にセクシュアリティとロマンの両方を宿らせる要因となっている。
また、1970年代半ばという時代は、ロックがより“男の欲望”や“本能”を剥き出しに表現する時期でもあり、「Feel Like Makin’ Love」はそうした空気の中で誕生した。だがこの曲は、その土臭さや肉体性だけでなく、どこか哀愁や優しさをも感じさせるバランスを持っており、だからこそ今も色褪せずに人の心を打つのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、この楽曲の中でもとくに印象的な一節を英語と日本語訳で紹介する。
Baby, when I think about you
ベイビー、君のことを考えるとI think about love
愛のことばかり思い浮かぶDarling, I don’t live without you
ダーリン、君がいなけりゃ生きていけないAnd your love
君の愛なしではIf I had those golden dreams
もしあの黄金のような夢が手に入ったならOf my yesterday
昨日の中に見たあの夢がI would wrap you in the heaven
僕は君を天国のように包み込むだろうTill I’m dyin’ on the way
死ぬその時までFeel like makin’ love
愛し合いたい気分なんだ
引用元:Genius Lyrics
4. 歌詞の考察
「Feel Like Makin’ Love」の歌詞は、一見すると直接的でわかりやすいラブソングのようだが、その背後にはより深い感情の流れがある。ポール・ロジャースの声は、単なる“セクシーな衝動”を語るのではなく、そこに「人と人が繋がりたい」という渇望や、「孤独を埋めたい」という切実さが滲んでいる。
たとえば、冒頭の「君のことを考えると、愛のことを考えてしまう」というラインは、非常にシンプルだが深い。恋愛感情が“誰か”に対して起こるのではなく、その存在によって“愛”という概念そのものが立ち上がってくる、という構造になっており、感情の純粋さと誠実さが感じられる。
また、「もし昨日見た夢を手に入れられたなら、君を天国のように包みたい」というイメージも、現実に満たされない思いと、理想の愛への希求を表している。つまりこの曲の“愛し合いたい”という気持ちは、肉体的な欲望だけでなく、精神的な満足や永続性を求める心の叫びでもあるのだ。
このように、「Feel Like Makin’ Love」は、愛という行為の中にある多層的な感情――情熱、切実さ、哀愁、希望――を、短いフレーズのなかで見事に浮かび上がらせている。それはロジャースの表現力の賜物でもあり、またミック・ラルフスのギターによる“抑圧された感情の爆発”というアレンジによって補完されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Love Hurts by Nazareth
愛の痛みと切なさを情熱的に歌い上げる名バラード。肉体性と感情の交差という点で通じ合う。 - Simple Man by Lynyrd Skynyrd
人生と愛についてのシンプルな哲学を語る曲で、「Feel Like Makin’ Love」のように土臭くも誠実な心情がにじむ。 - I Need You by America
柔らかなアコースティックの質感と恋愛の中にある不安定さを描いた名曲。メロウな感情が響き合う。 - Can’t Get Enough by Bad Company
同じバンドによる初期の代表曲で、より直情的なロックンロール・ラブソング。バッド・カンパニーらしい男気が堪能できる。
6. “男の愛”をロックで語る――不器用さと純情のバランス
「Feel Like Makin’ Love」は、70年代のロックにおける“男の愛の語り方”を象徴するような楽曲である。そこには、大げさなロマンティシズムもなければ、洗練された言葉遊びもない。ただ、自分の感情に正直であろうとする男のまっすぐな想いが、音の波に乗せられて真っ直ぐに届いてくる。
ポール・ロジャースのヴォーカルは、まるで感情そのものを声にしたかのようにストレートでありながら、どこか切なさや優しさをにじませている。そしてミック・ラルフスのギターは、サビに入った瞬間に激情を爆発させ、まるで感情が身体を突き動かしているかのようなドライヴ感を持っている。
「Feel Like Makin’ Love」は、ロックンロールが持つ肉体性と精神性を、美しく均衡させた名曲である。
それは、愛とは何かを問いかけるのではなく、「愛したい」と思うその気持ち自体を肯定する力に満ちている。
真夜中に一人で聴いても、愛する人とともに聴いても、きっと胸の奥が少し熱くなる――そんな一曲だ。
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