Failure by The La’s（1990）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.22

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “敗北とは、自分を手放すことではない”

1. 歌詞の概要

「Failure（失敗）」は、The La’s（ザ・ラーズ）が1990年に発表した唯一のアルバム『The La’s』に収録された楽曲であり、その鋭くてシニカルな歌詞、乾いたユーモアと現実逃避、そして時に皮肉すら感じさせる語り口で、アルバムの中でも異彩を放っている作品である。
そのタイトルが示す通り、テーマは“失敗”。しかしそれは単に人生における失敗や敗北を嘆くのではなく、“失敗していると他人に思われることへの無関心”や、“失敗に見える状態こそが自分にとっての真実”といった、逆説的な開き直りと自己認識を含んでいる。

この曲は、誤解され続けること、社会から外れてしまうこと、あるいは自分自身で“もう失敗している”と受け入れてしまった者が、あえてそのラベルの中で自由に生きようとする姿勢を描いている。
軽やかなアコースティックギターとともに語られる言葉は、どこか牧歌的で親しみやすいが、実はその裏には強いメッセージと、毒にも似た批評眼が宿っている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Failure」は、The La’sのリーダーであり、ほとんどすべての楽曲を手がけたリー・メイヴァース（Lee Mavers）によって書かれた。
彼自身、完璧主義で知られ、デビューアルバムの制作においてもレーベルやプロデューサーとの衝突を繰り返し、「納得がいかないから」として何度も録り直しを要求。最終的に「自分が意図した音ではない」として、完成したアルバムを否定する発言すらしている。

そのような経緯から、この「Failure」という曲は、彼自身の“芸術家としての立場”や“音楽業界への懐疑”、さらには“自分自身への皮肉”を含んだ楽曲として読むこともできる。
つまり、「Failure」は自虐であると同時に、攻撃でもある。
“失敗者”というラベルを笑い飛ばすようなリー・メイヴァースの声には、諦めではなく、不思議な解放感があるのだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Failure」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

“He looks at me / I look away”
「彼が僕を見る / 僕は目を逸らす」

“He’s got that something to say”
「彼は何か言いたげな顔をしている」

“I’m just a failure”
「でも僕は、ただの“失敗”なんだ」

“That’s all I’ll ever be”
「それが僕のすべてさ」

“There’s nothing you can do to me”
「君が僕にできることなんて、もう何もないよ」

歌詞全文はこちらで確認可能：
The La’s – Failure Lyrics | Genius

4. 歌詞の考察

「Failure」は、その歌詞の一言一言に“すべてを見抜いた人間”の視線が宿っている。
「I’m just a failure（僕はただの失敗さ）」というフレーズは、自己卑下のように聞こえるが、実際にはその“レッテルを逆手に取る強さ”を感じさせる。
世間が定義する成功とは何か？それを得られないことが本当に“失敗”なのか？
この曲は、そうした疑問を突きつける。

特に最後の一節、「There’s nothing you can do to me（君が僕にできることなんて、もう何もない）」は、諦めではなく“無敵さ”を感じさせる。
すでに“社会のゲーム”から降りているからこそ、誰からも傷つけられることがない。
それは絶望ではなく、むしろ解放であり、抗いの果てにたどり着いた“開き直りの自由”とも言える。

また、音楽的には素朴なギターのストロークと淡々としたリズムの中で進行し、どこかフォークソング的な手触りを持つ。
しかしその静けさの中には、激情を外に出すことをやめた人間の“燃え残り”のような熱が秘められており、聴けば聴くほど深みに引き込まれる。