1. 歌詞の概要
「Eyes Be Closed」は、アメリカのソロアーティスト、Washed Out(ウォッシュト・アウト)によって2011年にリリースされたデビュー・フルアルバム『Within and Without』のオープニングを飾る楽曲であり、現実からの解放、内面への没入、そして感覚の流動性をテーマとするチルウェイブの象徴的作品である。
この曲は、「目を閉じて」と繰り返されるフレーズが示す通り、視覚的現実を遮断し、意識の深層へと潜ることによって得られる自由や安らぎを主題にしている。語り手は、まるで夢の中にいるような抽象的な言葉で語りかけるが、その言葉はどこか優しく、リスナーを包み込むような力を持つ。
Washed Outらしいエフェクトの効いたリバービーなヴォーカルと、波のように寄せては返すサウンドレイヤーが印象的で、この楽曲自体が“音による瞑想”のような性質を帯びている。言葉を超えた情緒が音とともにゆっくりと広がっていく。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Eyes Be Closed」は、Washed Out(本名Ernest Greene)がSub Popレーベルから初めて正式にリリースしたフルアルバムの1曲目であり、EP『Life of Leisure』で確立されたベッドルーム・チルウェイブのスタイルから、より洗練されたサウンドスケープへと進化した姿を象徴する楽曲である。
アルバム『Within and Without』は、外界との関係(without)と内面との関係(within)という二つの存在状態を探るコンセプトに基づいており、「Eyes Be Closed」はその入り口として、感覚を閉じ、思考を静め、自分自身の中に入っていく儀式的な楽曲として配置されている。
この曲は、2011年のインディーポップ/エレクトロニカシーンの中で、極端に感情を抑え、余白と静けさの中に心の風景を映し出すという新たなスタイルを提示し、チルウェイブというジャンルの拡張に大きく寄与した。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Eyes Be Closed」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を併記する。
Turn away
背を向けてIf you could get me to stay
もしも君が、僕を引き止められるならThere wouldn’t be any space
何も余白なんてなくなるだろうJust give me the time
ただ少しだけ、時間をくれWhen your eyes be closed
君の目が閉じられたときにDon’t be afraid
怖がらないで
出典:Genius – Washed Out “Eyes Be Closed”
4. 歌詞の考察
この楽曲における最大の特徴は、具体性を避けることで得られる“普遍的な情感”にある。歌詞中では場所も人物も明言されず、「君」と「僕」の間にある関係性も不明瞭。しかし、それにもかかわらず、そこには確かな親密さと、退避願望と、優しい断絶の気配が漂っている。
「Turn away(背を向けて)」から始まるフレーズは、別れや距離の象徴とも取れるが、その直後の「If you could get me to stay」は、まるで心の奥で繰り返される葛藤を反映しているようだ。去りたいけれど、もし君が本気なら、僕はまだそこにいるかもしれない——そんな未確定な感情の揺らぎが、この曲全体を支配している。
「When your eyes be closed」という詩句も印象的で、「目を閉じたときにしか見えないもの」「視覚を遮ることで感じられる別の感覚」を暗示しており、これはまさにWashed Outが追求する**“身体ではなく心で聴く音楽”という哲学**を象徴している。
さらに「Don’t be afraid」という言葉が曲の終盤に置かれていることで、この音楽体験自体が聴く者にとっての“精神的避難所”のような役割を持つことが強調されている。恐れずに、音の中に身を沈めていい——それがこの曲から放たれる最大のメッセージだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Weightless by Washed Out
同アルバム収録の穏やかでスロウな楽曲。音の浮遊感に身を任せられる。 - Reckoner by Radiohead
静謐なリズムと高揚感のあるメロディが交差する、聴覚的没入体験の名曲。 - Cold Air by Natalie Imbruglia
チルなトーンと内省的な詞世界が溶け合う、透明感のあるオルタナ・ポップ。 - Midnight City by M83
過去と未来が交差するような都市の記憶を感じさせる、夢見心地のサウンド。 - Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
言葉を意味ではなく音として体感する、ポスト・ドリームポップの原点的名曲。
6. “目を閉じて、世界から解放されるために”——Washed Outが描く音の内面世界
「Eyes Be Closed」は、Washed Outが単なるローファイ・エレクトロの域を超えて、“感情の音楽”としてのチルウェイブを確立した決定的な一曲である。この楽曲が伝えてくれるのは、派手なビートや明快なメッセージではなく、**沈黙と浮遊と、心の中の“名もなき風景”**である。
“目を閉じる”という行為は、現実を遮断することでもあり、同時に内なる真実を見つめることでもある。Washed Outはこのシンプルな行為を、音楽という形で再構築し、聴き手一人ひとりに“心の海へ潜る鍵”を手渡しているのだ。
感情が言葉にならないとき、心が疲れてしまったとき、あるいはただ静かに自分と向き合いたい夜。この曲はきっと、誰にも邪魔されない“目を閉じる時間”を与えてくれるだろう。それは、癒しであり、再生であり、なによりも“存在を肯定する”ための音の処方箋なのかもしれない。
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