
発売日:1992年4月6日
ジャンル:Mod Revival / Punk Rock / Power Pop
概要
Extrasは、The Jam解散から約10年後の1992年に発売されたコンピレーション・アルバムである。通常のベスト盤とは異なり、シングルB面、デモ、別バージョン、カバーなど、オリジナル・アルバムの外側に残されていた録音をまとめた作品で、全26曲を収録する。したがって一つの時期に制作されたスタジオ・アルバムのような統一感を求める作品ではなく、1977年から1982年までの急速な変化を別角度から追う資料集としての性格が強い。
Paul Weller、Bruce Foxton、Rick Bucklerの3人は、初期にはThe Whoなど1960年代のモッズ/ロックから強く影響を受けた鋭いギター・ロックを鳴らしていたが、後期にはソウル、R&B、ファンクなどへ語彙を広げていった。Extrasでは、その変化がアルバム本編ほど整然と整理されずに並ぶ。荒いデモから完成度の高いB面曲までが同居するため、The Jamがどのような音楽を吸収し、何を試しながら短期間でスタイルを変えていったのかが見えやすい。
全曲レビュー
1. 「The Dreams of Children」
1980年の「Going Underground」と組み合わされたシングル曲。逆回転を思わせる音響やサイケデリックな感触を取り入れ、単純な3ピースのパンクから大きく離れている。子どもの夢と現実社会の落差を扱うWellerの視点も、当時のThe Jamらしい。実験的な音作りと明快なメロディが両立しており、コンピレーションの入口としてバンドの幅をすぐに示す。
2. 「Tales from the Riverbank」
暗いベースと抑えたギターが反復し、郊外の風景を不穏なものとして描く。川辺という題材には牧歌的なイメージもあるが、歌詞では自然と開発、過去と現在の隔たりが感じられ、単純な郷愁にはならない。派手なサビより一定の緊張を維持するアレンジが効果的で、B面曲でありながら後期The Jamの代表的な深みを持つ。
3. 「Liza Radley」
アコースティックギターを軸にした静かな曲で、周囲から孤立している少女を観察するように歌う。Wellerは人物の事情をすべて説明せず、外から見える姿と周囲の反応を断片的に置くことで孤独を浮かび上がらせる。攻撃的なギターと社会批評だけではない、The Jamの繊細なストーリーテリングをよく示している。
4. 「Move on Up」
Curtis Mayfieldの楽曲を取り上げたカバーで、Wellerのソウル志向が非常に分かりやすく表れている。原曲の高揚感をThe Jamらしい硬いバンド演奏へ置き換え、ギター、ベース、ドラムが休まず前へ進む。後期のThe Giftでソウルやファンクへ本格的に接近する以前から、その方向がバンド内部に存在していたことを確認できる録音だ。
5. 「Shopping」
日常的な消費行動を題材にしながら、音楽は軽快でコンパクトにまとめられている。後期The Jamらしく、ギターだけを中心にせずリズムの反復を強調することで、初期とは異なる身体的な感覚がある。Wellerが身近な都市生活を歌詞へ取り込み、そこから社会や階級の感覚へ視線を広げていく作風ともよくつながる。
6. 「Smithers-Jones」
Bruce Foxton作の代表曲の一つで、会社員の日常と突然訪れる冷酷な現実を描く。親しみやすい旋律に対して歌詞は厳しく、勤勉に働けば報われるという価値観を皮肉に崩していく。Foxtonはベーシストとしてだけでなく、Wellerとは少し違う具体的な人物描写を持つ作家でもあったことが分かる。
7. 「Pop Art Poem」
曲というより、言葉と音響による短い実験に近い。通常のヴァースとサビを期待させず、ポップ・カルチャーの断片を切り貼りするような感覚で進むため、The Jamのストレートなロック像から大きく外れる。短いながら、60年代的なポップ・アートやサイケデリアへの関心を見せる異色作である。
8. 「Boy About Town」
忙しく動くベースと歯切れのよいギターに、明るいホーンが加わる。都市を移動する若者の視点と演奏の速度がよく一致し、The Jamの「街の音楽」としての魅力が凝縮されている。社会問題を正面から論じる曲とは違い、ここでは動き続ける人物そのものを描くことで、ロンドンの日常を感じさせる。
9. 「A Solid Bond in Your Heart」
後にThe Style Councilで正式に発表される曲のThe Jam版で、Wellerがすでに次の音楽へ向かっていたことがよく分かる。モータウンを思わせる前向きなリズムとソウル的なメロディが中心で、初期の硬いギターは後景へ退く。The Jam末期とThe Style Council初期を直接つなぐ貴重な録音である。
10. 「No One in the World」
Foxtonによる曲で、力強いベースと比較的素直なポップ・メロディが中心になる。Weller作品ほど政治的な視点を強く出さず、人間関係の感情を直接扱うことでアルバムに別の色を加える。二人のソングライターが並存していたことは、The Jamの作品に意外な幅を与えていた。
11. 「And Your Bird Can Sing」
The Beatlesのカバー。二本のギターが絡む原曲の特徴を踏まえながら、The Jamはより硬く速い演奏へ置き換えている。Wellerの作曲にある1960年代英国ポップへの愛着が明瞭に分かる選曲であり、パンク以降のバンドでありながら、その音楽的な基盤がさらに前の世代にあったことを示す。
12. 「Burning Sky」
1979年のアルバム表題曲を別の角度から聞ける録音で、Wellerの作曲がパンクの速度だけに依存しなくなった時期の特徴が出ている。成功や仕事を優先することで友情が変化していくという歌詞には、成人社会への皮肉と、自分もそこへ巻き込まれる複雑さがある。明るい旋律と苦い内容の対照が強い。
13. 「Thick as Thieves」
友情と成長による距離を扱う曲で、若者同士の結びつきを無条件に美化しない。ギター、ベース、ドラムが一体となって進む前半から、旋律が広がる部分への変化が鮮やかである。初期の勢いと、中期以降に強まったWellerの内省的な作詞が同居している。
14. 「Disguises」
The Whoのカバーで、The Jamのモッズ的ルーツを直接確認できる。原曲の60年代ポップらしい色彩を残しつつ、Bucklerの強いドラムとFoxtonのベースによって、より硬質な演奏へ変えている。The Whoから受け継いだのが服装やイメージだけでなく、短い曲の中で楽器を激しく動かす方法でもあったことが分かる。
15. 「Get Yourself Together」
Small Facesのカバー。ソウルと英国ビートが混ざり合った原曲を選ぶことで、The Jamのルーツのもう一面が見える。後期に突然ソウルへ転向したのではなく、モッズ文化を通して初期からR&Bへの関心を持っていたことを理解するうえで重要な録音である。
16. 「The Butterfly Collector」
落ち着いたテンポと陰のある旋律の中で、他者を利用しながら社会的な位置を得ようとする人物を辛辣に描く。蝶を収集する人物というタイトルの比喩が、周囲の人間を自分のために集める姿と重なる。激しい演奏に頼らず、冷えた歌い方と言葉によって攻撃性を作る点にWellerの作詞の成長が表れている。
17. 「The Great Depression」
荒いギターと切迫したリズムが前へ出て、The Jamのパンク的な側面が戻ってくる。社会状況への不満を短い演奏へ圧縮しており、細かなアレンジより勢いを優先する。後期の洗練された録音と並べて聞くことで、数年間のうちにバンドの演奏と作曲が大きく変化したことが分かる。
18. 「Stoned Out of My Mind」
The Chi-Litesの楽曲をカバーした録音で、The Jamのソウルへの関心をさらに明確にする。原曲の滑らかなボーカル・グループ的感覚を完全に再現するのではなく、3人組らしい引き締まった演奏へ変換している。Wellerが後にThe Style Councilで追求するソウル志向を考えると、重要な橋渡しとなる一曲だ。
19. 「Pity Poor Alfie / Fever」
前半の「Pity Poor Alfie」から、Peggy Leeなどの歌唱で広く知られる「Fever」へ接続する構成が特徴である。ジャズやソウルの感触を強め、ギター中心のロック・バンドという枠を意識的に広げている。メドレーという形式そのものが、末期The Jamの旺盛な吸収力を伝える。
20. 「But I’m Different Now」
短く鋭いギター・ポップで、過去の自分から変わったことを宣言するような言葉と、前へ転がる演奏が噛み合う。装飾を増やさず、メロディ、リフ、リズムを一気に押し出す作りはThe Jamの得意分野である。後半に実験的な録音が増えるExtrasの中で、バンドの基本形を再確認させる。
21. 「I Got You (I Feel Good)」
James Brownの代表曲を取り上げ、R&Bへの敬意をストレートに示す。原曲の巨大なファンク・グルーヴには寄せすぎず、ギター・バンドとしての勢いを保って演奏しているため、The Jamが黒人音楽をどのように自分たちの編成へ翻訳していたかが分かりやすい。
22. 「Hey Mister」
政治や社会への苛立ちを直接的な言葉へ落とし込み、後期Wellerの社会意識を強く感じさせる曲である。初期の若者対大人という単純な対立から、権力や経済の仕組みそのものへ関心が移っている。演奏にもソウルやファンクを経たリズム感があり、末期The Jamの変化が凝縮されている。
23. 「We’ve Only Started」
完成された代表曲というより、制作過程を覗くための録音として面白い。音の整理や演奏の精度よりも、メロディやリズムのアイデアがどの段階で存在していたのかが直接伝わる。Extrasが単なるB面ベストではなく、バンドの作曲過程まで収めたアーカイブであることを実感させる。
24. 「So Sad About Us」
The Whoのカバーで、初期The Jamが持っていた60年代英国ロックへの愛着を非常に素直な形で聞かせる。メロディの甘さに対して演奏は硬く、Bucklerのドラムが曲を強く押し出す。パワーポップ的なThe Jamの側面が、どのような先行世代とつながっていたかを理解しやすい。
25. 「The Eton Rifles」
階級意識を鋭く扱ったThe Jamの代表曲を、完成版とは異なる制作段階から聞ける。名門校Etonを象徴として使い、英国社会の階級差と対立を皮肉に描く歌詞は、Wellerの社会批評が特に直接的だった時期を代表する。粗い形でも、リフとリズムが曲の攻撃性を支える構造はすでにはっきりしている。
26. 「That’s Entertainment」
都市の日常を細かな場面の連続として描いた代表曲のデモで、完成版以上に簡素な状態でWellerの作詞とメロディを聞ける。騒音、退屈、暴力、ありふれた生活を「entertainment」と呼ぶ皮肉は、大きな政治的主張をせずとも社会を描ける段階へ彼が到達していたことを示す。最後をデモで終えることで、Extrasは華々しい総括ではなく、The Jamの曲作りの核心へ近づく形で閉じられる。
総評
Extrasはベスト・アルバムの代用品ではない。「Going Underground」「Town Called Malice」といった最大級のヒット曲を網羅するのではなく、その周囲にあったB面、カバー、デモを集めることで、正規アルバムだけでは見えにくいThe Jamの音楽的な材料を明らかにしている。特にThe Who、Small Faces、The BeatlesからCurtis Mayfield、The Chi-Lites、James Brownまでが同じ作品に並ぶことで、Wellerたちのルーツが単純な「パンク」では説明できないことがよく分かる。
カバー曲の選択からは、モッズという文化がThe Jamにとって複数の音楽を結ぶ入口だったことも見えてくる。60年代英国のビート・グループと米国のソウル/R&Bは別々の趣味ではなく、彼らの中では最初から近い場所にあった。初期にはそれを高速なギター・ロックとして表現し、後期になるほどファンクのリズムやソウルのアレンジそのものを取り込んでいく。その変化を正規作品の年代順とは違う方法で確認できるのが、本作の大きな価値である。
もちろん26曲のコンピレーションなので、通常のスタジオ・アルバムのような流れや音質の統一感はない。完成度の高い「Tales from the Riverbank」「The Butterfly Collector」と、制作過程を記録したデモでは目的そのものが違う。しかし、その不均一さによって、完成されたThe Jamだけでなく、好きな曲をカバーし、新しいリズムを試し、曲を徐々に形にしていく3人の姿まで見えてくる。
The Jamは約5年という短いレコード活動の中で、パンク/モッド・リヴァイヴァルからソウルやファンクへ急速に移動した。Extrasはその歴史を代表曲だけで説明せず、周辺に残された録音から組み立て直した作品である。入門編というより正規アルバムを聴いた後に輪郭を補う一枚であり、とりわけWellerが解散後のThe Style Councilへ向かう変化と、FoxtonやBucklerを含む3人組としての強力な演奏の両方を確認できる点で価値が高い。
おすすめアルバム
Setting Sons by The Jam
1979年作。鋭い3ピースの演奏と社会を観察するWellerの歌詞が高い水準で結びつく。「The Eton Rifles」周辺の時期を本編から確認することで、Extras収録音源の背景が見えやすくなる。
Sound Affects by The Jam
1980年作ではギター・ロックを軸にしながら、サイケデリアやファンクをより大胆に導入した。「That’s Entertainment」などを通して、Extrasに散在する実験性が正規作品でどう整理されたかを聞ける。
The Gift by The Jam
最後のスタジオ・アルバム。ソウル、ファンク、ホーンを前面に出し、初期のパンク的な音から大きく変化した。Extras後半の録音と合わせると、The Style Councilへ向かう流れが明確になる。
Ogden’s Nut Gone Flake by Small Faces
モッズを背景に持ちながら、R&B、ソウル、サイケデリアを英国ロックへ混ぜた1968年作。「Get Yourself Together」のカバーも含め、The Jamが参照した60年代の音楽文化を理解できる。
Curtis by Curtis Mayfield
ソウルを洗練された作曲だけでなく、社会への視線と結びつけた1970年作。「Move on Up」をカバーしたThe Jam、そして後のWellerがソウルへ深く進んでいく理由を考えるうえで重要な一枚である。

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