発売日: 1986年5月19日
ジャンル: ノイズロック、オルタナティブロック、アートロック
Sonic Youthの3枚目のアルバム『Evol』は、バンドの音楽的進化を示すターニングポイントとなる作品だ。初期のノイズと即興性を保ちながら、より構造化された楽曲、メロディ、雰囲気のあるアレンジが加わり、後のオルタナティブロックの基盤を築いた。
タイトルの「Evol」は、「Love（愛）」を逆にした言葉で、アルバム全体を通して愛の不穏でダークな側面が探求されている。不協和音のギター、実験的なサウンドスケープ、そして抽象的な歌詞が一体となり、感情的にも知的にも挑戦的な音楽体験を提供している。
アルバムの背景
『Evol』は、Sonic YouthがSteve Shelley（元Crucifucks）がドラマーとして加入した後の最初のアルバムであり、バンドの音楽的な化学反応が大きく進化した瞬間でもある。前作『Bad Moon Rising』で確立されたダークで不安定な雰囲気を継承しつつ、より洗練されたアプローチが取られている。
プロデューサーにはMartin Bisiが参加し、DIY感を残しながらもクリアで深みのある音響が実現されている。この作品は、オルタナティブロックやノイズロックがアンダーグラウンドからメインストリームへ進出するきっかけを作った重要な作品だ。
各曲解説
1. Tom Violence
アルバムの幕開けを飾る象徴的なトラック。静寂と爆発を行き交うダイナミックな構成で、愛と暴力の曖昧な関係を描いている。
2. Shadow of a Doubt
キム・ゴードンのウィスパーボイスが印象的な楽曲。ドリーミーで不穏なサウンドスケープが、超現実的な雰囲気を作り出している。
3. Starpower
キム・ゴードンがリードボーカルを務めるポップ志向のトラック。キャッチーなギターフィードバックとリズムが、アルバムの中でも特に目立つ楽曲だ。
4. In the Kingdom #19
詩人Lydia Lunchをフィーチャーしたアバンギャルドなトラック。語り調のボーカルとノイズのカオスが、映画の一場面のような緊張感を生む。
5. Green Light
不協和音と静かなボーカルが交錯する楽曲。ミニマルな構成ながら、内省的で暗い美学が感じられる。
6. Death to Our Friends
インストゥルメンタルトラック。疾走感と緊張感が同居し、バンドの演奏力を堪能できる一曲。
7. Secret Girl
実験的なサウンドコラージュと抽象的な歌詞が特徴。アンビエント的な要素が、アルバムのダークなトーンを補完している。
8. Marilyn Moore
マリリン・モンローをモチーフにした楽曲。不穏でメロディックなギターラインと抽象的な歌詞が印象的。
9. Expressway to Yr. Skull
「The Crucifixion of Sean Penn」という副題でも知られるアルバムの締めくくりトラック。11分近い長尺で、ノイズとメロディのコントラストが絶妙に構築された名曲。
アルバム総評
『Evol』は、Sonic Youthがノイズと実験性を基盤としながら、楽曲の構造やメロディを探求する新しいフェーズに突入した作品だ。暗く緊張感のあるサウンドスケープが、愛と暴力、夢と現実、調和と混乱といったテーマを浮かび上がらせる。
「Shadow of a Doubt」や「Expressway to Yr. Skull」などの楽曲は、オルタナティブロックの未来を予感させる傑作であり、Sonic Youthの音楽的進化を象徴している。本作は、ポップとノイズが調和したユニークな音楽体験を提供し、バンドのキャリアの中でも特に重要な位置を占める。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Bad Moon Rising by Sonic Youth
ダークで実験的なトーンが特徴の前作で、『Evol』の音楽的な土台となった。
Sister by Sonic Youth
次作にあたり、よりメロディックでダイナミックなアプローチが進化している。
Daydream Nation by Sonic Youth
Sonic Youthの代表作で、アートロックとポップの要素が絶妙に融合したアルバム。
Surfer Rosa by Pixies
ノイズとポップの対比を特徴とするアルバムで、Sonic Youthファンにも響く。
The Eternal by Sonic Youth
バンド後期の作品で、ノイズとメロディの融合をさらに深化させた一枚。
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