発売日: 1988年
ジャンル: フォーク、アカペラ、ポリティカル・トラッド、プロテスト・ソング
概要
『English Rebel Songs 1381–1984』は、チャンバワンバが1988年に発表した異色作であり、
それまでのアナーコ・パンク色を一旦脇に置き、イングランド史における“抵抗の声”を掘り起こしたフォーク・アーカイヴ作品である。
アルバムはタイトル通り、1381年のワット・タイラーの農民反乱から1984年の炭鉱ストライキまで、
数百年にわたる庶民の闘争史を民謡形式で振り返る構成となっており、
チャンバワンバ流“音楽による歴史教育”とも言える内容に仕上がっている。
すべての曲が伝統的なプロテスト・ソングやレジスタンスのバラッドのカバーであり、
ほとんどのトラックはアカペラまたは最小限の伴奏によって演奏される。
これは、スタジオ技術やパンク的ノイズを削ぎ落としたことで、歌詞と“歌うこと”そのものの力を再確認させる試みでもあった。
また、本作には後年のチャンバワンバ作品に見られるアイロニカルな語り口や風刺性は抑えられており、
代わりに、歴史への敬意と、“抵抗の記憶を語り継ぐ”という静かな使命感が滲み出ている。
全曲レビュー
1. The Cutty Wren
1381年の農民反乱にちなんだ古英語民謡。
「小さな鳥＝支配者を倒す」という寓話的モチーフが、民衆の力を象徴する開幕曲。アカペラによる重厚な合唱が荘厳。
2. The Diggers Song
17世紀の急進的土地再分配運動「ディガーズ」の歌。土地を耕す者こそが土地を持つべきだという理想が明快に歌われる。
3. The Colliers’ March
炭鉱労働者の行進歌。力強いステップ感とリズムがあり、集団行動としての“歌”の力を体現。
4. The Triumph of General Ludd
機械打ち壊し運動（ラッダイト運動）を題材にした曲。産業革命の負の側面に抗った労働者の怒りが、リフレインに込められている。
5. Chartist Anthem
19世紀の選挙権獲得運動「チャーティズム」のテーマソング。
抑えたテンポと美しいハーモニーで、改革の夢と忍耐が表現される。
6. Song on the Times
時代の流れと共に労働者が受ける痛みを嘆くバラッド。人間の尊厳を問う静かな抗議歌。
7. Smashing of the Van
アイルランド独立運動を題材にした抵抗歌。
ストーリーテリング的な構成と悲劇的な展開が印象的。
8. The World Turned Upside Down
再びディガーズに関連した曲。現代でも多くのアーティストにカバーされる、革命的ラブソングともいえる名作。
9. Poverty Knock
織物工場の過酷な労働環境を描いたワーキングソング。労働の音を模したリズムと悲哀のメロディが胸を打つ。
10. All for the Cause
労働組合や集団闘争に捧げる歌。力強いユニゾンで歌われるサビは、今なお抗議の場で響きうる強度を持つ。
11. Hanging on the Old Barbed Wire
第一次世界大戦の兵士たちが歌った皮肉と絶望の軍歌。
戦場の理不尽さと軍上層部への怒りが直球で表現されている。
12. The Internationale
左翼運動の国際的アンセム。英語による荘厳な合唱で、アルバムの締めくくりにふさわしい重みと連帯感を届ける。
総評
『English Rebel Songs 1381–1984』は、チャンバワンバがただの“政治的バンド”に留まらず、
抵抗の文化とその記憶を音楽的に継承する“歴史の語り部”であることを証明した一枚である。
この作品には、いつものアイロニーやサンプリング、テンポの速いビートはない。
だが、その代わりに存在するのは、声そのものが武器であるという感覚、
そして、歌が時代を超えて人々の中で生き続けるという確信である。
現代のリスナーにとって、本作は民衆の声なき声に耳を澄ます時間となるだろう。
それは、抗議の形が変わっても、**“歌うこと＝闘うこと”**であるという真理を伝える、歴史的にも文化的にも意義深いアルバムである。
おすすめアルバム（5枚）
- Ewan MacColl『The Manchester Angel』
イギリス伝統労働歌の重鎮による記録。チャンバワンバのルーツ的存在。 - Leon Rosselson『The World Turned Upside Down』
同名曲の原作者によるフォーク・プロテストの代表作。 - Billy Bragg『Workers Playtime』
モダンフォークと政治歌の融合。ブランディと異なる方向の“声の社会性”。 - Dick Gaughan『Handful of Earth』
スコットランドの民衆詩人による抵抗の名盤。声と詩の力に満ちている。 - Linton Kwesi Johnson『Forces of Victory』
レゲエと詩による反体制の声。別ジャンルながら思想的共鳴がある。
後続作品とのつながり
この作品で得た“声による連帯の力”は、後年の『Anarchy』『Readymades』といったよりポップで多様な表現の中にも脈々と生きている。
また、本作は1990年代に再録・再発され、タイトルも『English Rebel Songs 1381–1984 (Revisited)』へと変更された。
これは、**“レジスタンスの歌は時代を超えてアップデートされ続ける”**というチャンバワンバの思想そのものを体現している。
彼らはこう語っている──
**「私たちは歴史に敬意を払いながら、未来へ向けて歌っている」**と。
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