
1. 歌詞の概要
Elephantsは、スコットランドのインディーロックバンドThe Snutsが2020年に発表した楽曲である。
2020年6月11日にシングルとしてリリースされ、のちに2021年のデビューアルバムW.L.にも収録された。The Snutsはスコットランド・ウェストロージアンのWhitburn出身の4人組で、Jack Cochrane、Joe McGillveray、Callum Wilson、Jordan Mackayによって構成されている。
この曲は、The Snutsのカタログの中でも少し変わった立ち位置にある。
彼らの代表的な魅力といえば、GlasgowやAll Your Friends、Maybe Californiaのような、合唱できるメロディとギターの高揚感である。
だがElephantsは、よりリズムに重点が置かれている。
ギターで突き抜けるというより、ビートの上で跳ねる。
インディーロックでありながら、ヒップホップ以降のリズム感や、少しファンク寄りの身体性が前に出ている。
タイトルのElephantsは、象たち、あるいは象のようなものを意味する。
歌詞の中では、自分の目が象より大きい、というような比喩が登場する。
これはそのまま読むと奇妙だ。
象の目は実際には身体の大きさに比べて特別に大きいわけではないが、ここでは論理的な正確さよりも、誇張された自己イメージが大切である。
大きな目。
大きな自信。
大きな欲望。
自分の動きや言葉が、周囲よりも大きく見えている感覚。
Elephantsの語り手は、どこか得意げで、挑発的で、少しふざけている。
自分は書ける。
自分は動ける。
自分にはビートがある。
自分はその場を支配できる。
そんな若い自信が曲全体を駆け抜けている。
ただし、この自信は完全にまっすぐなものではない。
少し照れがあり、少し演技があり、少し空回りもある。
The SnutsのJack Cochraneの声には、荒さと甘さが同時にある。
Elephantsでは、その声がかなりリズミックに使われている。
言葉をなめらかに歌い上げるというより、ビートの上に投げていくような感覚だ。
この曲は、歌詞の意味を一文ずつ追うよりも、言葉が音としてどのように跳ねるかを聴く曲でもある。
フレーズが短く切られ、リズムに乗り、同じ言葉が反復される。
その反復が、街の中で仲間同士が言葉を投げ合うようなエネルギーを作る。
Elephantsは、The Snutsが単なるギターロックバンドではなく、より広いリズム感やポップ感覚を持つバンドであることを示した曲である。
Jack Cochraneはこの曲について、バンドの広がり続ける多様なカタログにおけるもうひとつの捻りだという趣旨で説明している。
また、W.L.の文脈では、苦しさや逆境の中でも自分の能力を信じることを歌った曲として紹介されている。
その意味で、Elephantsはただの軽いノリの曲ではない。
表面は跳ねている。
だが奥には、自分を信じるために少し大きな声を出している若者の姿がある。
自信は、いつも最初から揺るぎないものとしてあるわけではない。
時には、自分はできると何度も言うことで、やっと前へ進める。
Elephantsは、その自己暗示のようなエネルギーを持った曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Elephantsがリリースされた2020年は、The Snutsにとって重要な転換期だった。
バンドは2019年にAll Your FriendsやMaybe Californiaなどを発表し、2020年3月にはMixtape EPをリリースしていた。
しかしその直後、世界的なパンデミックによってライブ活動は大きく制限される。
The Snutsのようにライブの熱量で人気を広げてきたバンドにとって、それはかなり大きな打撃だった。
その中で発表されたのがElephantsである。
この曲は、Tony Hofferによってプロデュースされた。
HofferはBeck、Phoenix、M83などとの仕事でも知られるプロデューサーで、W.L.ではElephants、Always、Glasgow、Sing for Your Supperなど複数の楽曲に関わっている。ElephantsはThe Firepit Londonでの録音群に含まれる楽曲として説明されている。
Tony Hofferの関与は、曲のサウンドにもはっきり出ている。
The Snutsの荒々しいインディーロックの核を残しながら、ビートはかなり整理されている。
ギターは前に出すぎず、リズムの隙間を作る。
ボーカルはラフだが、曲全体の構成はポップにまとまっている。
つまり、Elephantsはライブハウスの汗だけでできた曲ではない。
スタジオで組み立てられたポップな強度も持っている。
リリース当時、この曲はiTunesチャートで好調な反応を得たとされ、バンドの勢いを示すシングルになった。
のちに収録されたデビューアルバムW.L.は、2021年4月2日にParlophoneからリリースされた。
このアルバムは英国アルバムチャートで1位を獲得し、スコットランドのバンドによるデビューアルバムとしてはThe View以来の快挙として語られている。ウィキペディア
W.L.というアルバムは、The Snutsの過去数年の歩みをまとめたような作品である。
古くから演奏されていた曲。
ライブで育った曲。
新しく録り直された曲。
パンデミック期に発表された曲。
それらがひとつのアルバムに集められている。
Elephantsは、その中で12曲目に置かれている。
アルバム後半の流れにおいて、リズムの角度を変える役割を持つ曲だ。Warner Music Japanの掲載するW.L. Deluxeの曲目でも、ElephantsはCoffee & Cigarettesの後、Sing for Your Supperの前に配置されている。ワーナーミュージック・ジャパン | Warner Music Japan
この配置は面白い。
Coffee & Cigarettesがメロウな日常感や若者の憂鬱を持つ曲だとすれば、Elephantsはもっと腰で聴く曲である。
歌詞も、物語を丁寧に語るというより、断片的なフレーズを重ねてテンションを作る。
The Snutsはしばしば、アリーナ級の合唱感を持つインディーロックバンドとして語られる。
しかしElephantsは、そのイメージを少しずらす。
彼らには、ギターだけではないグルーヴがある。
ロックバンドでありながら、ラップ的なフレーズ感も扱える。
スコットランドのインディーシーンに根ざしながら、もっと広いポップの地平を狙っている。
Elephantsは、その野心が見える曲なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文引用は避け、権利を侵害しない範囲で短いフレーズのみを扱う。
head screwed tighter
頭はよりしっかり締まっている。
このフレーズは、語り手の自己認識を示す。
自分は混乱していない。
自分はちゃんと見えている。
頭は締まっている。
つまり、状況を把握し、自分の位置を理解している。
しかし、言葉の響きには少しの危うさもある。
頭が締まっているという表現は、冷静さにも聞こえるが、同時に過度な緊張にも聞こえる。
無理に自分を整えている感じ。
弱さを見せないために、頭のネジを強く締めている感じ。
Elephantsの語り手は、ただ余裕があるだけではない。
自分を奮い立たせているようにも聞こえる。
no writer / I’m a writer
お前は書き手じゃない。
俺は書き手だ。
この対比は、曲の自信を象徴する。
言葉を持っているのは誰か。
物語を書くのは誰か。
自分の人生を記すのは誰か。
語り手は、自分が書く側にいると宣言する。
これは単なる音楽的な自慢にも聞こえる。
だが同時に、自分の物語を他人に決めさせないという態度にも聞こえる。
The Snutsは、労働者階級の出自や地元からの成り上がりを語られることが多いバンドである。
その文脈でこのフレーズを聴くと、自分たちの言葉で自分たちの物語を書くという意志が浮かび上がる。
eyes bigger than an elephant
象より大きな目。
この比喩は、かなり奇妙で、少しコミカルだ。
目が大きいとは、欲望が大きい、視野が大きい、あるいは驚きや野心が大きいというイメージにつながる。
象という巨大な存在を持ち出すことで、その誇張がさらに強くなる。
ここでは、理屈よりも勢いが大事だ。
自分は大きく見ている。
大きく欲しがっている。
大きく世界を捉えている。
その若い野心が、このフレーズに詰まっている。
come on baby
さあ、来いよ。
あるいは、ほら、行こうぜ。
この曲の中で特に身体的なフレーズである。
意味そのものは単純だ。
しかし、繰り返されることで、曲の熱を上げる掛け声になる。
The Snutsの魅力は、ライブで観客を巻き込む力にある。
come on babyというフレーズは、そのライブ的な衝動を感じさせる。
説明ではない。
合図である。
歌詞引用元:各公式配信サービス掲載歌詞、歌詞データベース掲載情報
著作権表記:Elephants / Written by The Snutsほか。歌詞の権利は各権利者に帰属する。
4. 歌詞の考察
Elephantsの歌詞は、The Snutsの楽曲の中でも意味が取りにくい部類に入る。
物語的ではない。
恋愛の始まりから終わりまでを描く曲でもない。
社会への明確なメッセージを順序立てて語る曲でもない。
むしろ、言葉の断片をビートの上に置き、それらの摩擦でキャラクターを立ち上げる曲である。
ここにあるのは、自己主張だ。
自分は書ける。
自分は動ける。
自分にはビートがある。
自分は正しい。
自分はまだ行ける。
そういう言葉が、少し大げさに、少しふざけながら、繰り返される。
Jack Cochraneは、Elephantsが逆境や苦しい時期に自分の能力を信じることについての曲だと説明されている。
この情報を踏まえると、歌詞の誇張された自信は、単なる自慢ではなく、防衛でもある。ウィキペディア
自信が本当にある人だけが、自信を口にするわけではない。
むしろ、自信が揺らいでいるときほど、人は自分に向かって大きな言葉を投げることがある。
俺はできる。
俺は正しい。
俺は書ける。
俺は動ける。
Elephantsの語り手は、そうやって自分の内側を鼓舞しているようにも聞こえる。
この曲が2020年にリリースされたことも重要だ。
パンデミックによって、ライブ活動も先行きも不透明になった時期。
若いバンドが、これから大きく出ていこうとしていた矢先に世界が止まった。
その中で、自分たちはまだ進めると示すことには大きな意味があった。
Elephantsの跳ねるビートは、停滞への反発のようにも聞こえる。
世界は止まっている。
でも、自分たちは動く。
ステージは遠い。
でも、曲の中では身体を動かす。
この推進力が、曲の核にある。
サウンド面では、The Snutsの幅広さがよく出ている。
通常のギターロック的な爆発よりも、グルーヴの反復が前にある。
ドラムはタイトで、ベースは低く曲を支え、ギターは空間を埋めすぎない。
その上で、Jack Cochraneの声が少し荒く、少し粘りながら跳ねる。
レビューでも、Elephantsはバンドがよりラジオ向けのポップな方向へ水を試しているような楽曲として受け取られた一方、Cochraneの力強いボーカルや終盤のcome on babyのブレイクが印象的だと指摘されている。The たしかに、Elephantsは一聴して大合唱するタイプの曲ではないかもしれない。
GlasgowやAlwaysのような、感情をまっすぐ押し上げるアンセムとは違う。
むしろ、少し癖がある。
フックはあるが、メロディよりもリズムと態度で聴かせる。
だからこそ、アルバムの中で効いている。
The Snutsがただ感動的なギターロックだけをやるバンドではないことを、この曲は示している。
彼らはもっと遊べる。
もっとビートを変えられる。
もっと自分たちの声の使い方を広げられる。
Elephantsは、その試みの曲である。
歌詞の中に出てくる象のイメージも、深読みしすぎるより、その大きさを感じたほうがいい。
象は大きい。
重い。
存在感がある。
一度歩き出すと、簡単には止まらない。
The Snutsがこの曲で鳴らしているのも、そういう歩幅である。
速すぎるわけではない。
だが、低いところから大きく進む。
若いバンドの自信と不安が、足音のように響く。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- All Your Friends by The Snuts
The Snutsの初期を代表する楽曲のひとつで、Elephantsよりもギターロックとしての直線的な魅力が強い。
友情、若者の混乱、社会の中で押し流される感覚が、アンセミックなメロディに乗っている。
Elephantsのような自己主張のエネルギーに惹かれた人なら、All Your Friendsのより切実な合唱感にも反応するはずだ。
The Snutsの核にある、地元の仲間と一緒に叫ぶような感覚が味わえる。
- Coffee & Cigarettes by The Snuts
W.L.の中でElephantsの直前に置かれる楽曲であり、対比して聴くと面白い。
こちらはよりメロウで、若者の日常の倦怠や親密さを感じさせる。
Elephantsがリズムと誇張された自信の曲だとすれば、Coffee & Cigarettesはもっと柔らかく、部屋の空気に近い曲である。
同じバンドの中にある静と動の違いがよくわかる。
- Always by The Snuts
W.L.の2曲目に収録された、バンドのメロディアスな側面がよく出た曲である。
Elephantsの跳ねるビートとは違い、こちらはより感情の開き方が大きい。
Jack Cochraneの声の伸び、ギターの広がり、サビの強さが印象的で、The Snutsがなぜ英国インディーシーンで支持されたのかが伝わる。
Elephantsから入った人が、バンドの別の魅力を知るには最適だ。
- Don’t Forget It (Punk) by The Snuts
The Snutsの荒々しさと若さを感じたいなら、この曲が合う。
Elephantsのようなリズムの遊びとは違い、もっとストレートにエネルギーをぶつける曲である。
タイトル通りパンク的な勢いがあり、バンドのライブ感が強く出ている。
Elephantsの中にある反骨心を、より直接的な形で聴ける。
- Boys in the Better Land by Fontaines D.C.
The Snutsとはタイプが違うが、同時代の英国・アイルランド圏ギターバンドの勢いを感じる曲としておすすめしたい。
Fontaines D.C.のほうがポストパンク色が強く、歌詞も鋭いが、若いバンドが都市や階級や自分たちの居場所を音にするという点で通じるものがある。
Elephantsの自信と焦燥を、より荒削りで文学的な方向へ広げて聴ける一曲である。
6. 自分を信じるために、大きな足音を鳴らす曲
Elephantsは、The Snutsの中で最もわかりやすい代表曲ではないかもしれない。
Glasgowのような郷愁の大きさ。
Alwaysのようなメロディの開放感。
All Your Friendsのような切迫した合唱感。
それらと比べると、Elephantsは少しひねっている。
だが、そのひねりがこの曲の魅力である。
The Snutsは、スコットランドのインディーロックバンドとして、ギターと声の強さで注目を集めてきた。
しかしElephantsでは、そこに別のリズムが入る。
ヒップホップ的なフレーズ感、ポップな整理、少しファンクに近い跳ね方。
それにより、バンドの輪郭が少し広がる。
この曲を聴くと、The Snutsがただ過去の英国ギターロックを継承するだけのバンドではないことがわかる。
彼らはThe LibertinesやArctic Monkeys以降の系譜を感じさせながらも、自分たちなりにポップの方向へ曲を開こうとしている。
Elephantsは、その試行錯誤の音だ。
歌詞の意味は、決して明快ではない。
むしろ、断片的で、少し意味が飛ぶ。
だが、それが曲の身体性を強めている。
頭で理解するより先に、フレーズが耳に残る。
声のリズムが引っかかる。
come on babyの掛け声が、曲の最後に熱を足す。
ここでは、歌詞は文章というより、動きである。
言葉が踊っている。
言葉が自分を鼓舞している。
言葉がビートにしがみついている。
その感じが、Elephantsの良さだ。
また、この曲にある自己肯定の感覚は、The Snutsというバンドの物語とも重なる。
Whitburnという場所から出てきた4人の若者が、大きな夢を見て、ライブを重ね、デビューアルバムで英国1位を獲得する。
その道のりは、簡単なものではなかったはずだ。
W.L.というアルバムタイトルは、彼らの地元West Lothianを想起させる。
つまり、バンドの出発点を背負った作品である。
その中にElephantsがあることは重要だ。
この曲は、地元へのしっとりした愛を歌う曲ではない。
むしろ、外へ出ていくための自己主張である。
自分たちにはできる。
自分たちには動ける。
自分たちには書ける。
自分たちは大きくなれる。
その少し荒い確信がある。
ただし、この確信は完全に綺麗ではない。
少し無理している。
少し大げさ。
少しふざけている。
でも、それでいい。
若いバンドの自信とは、しばしばそういうものだ。
根拠があるようで、まだ足りない。
不安があるから声を大きくする。
認められたいから、先に自分で自分を認める。
Elephantsは、その瞬間の音である。
サウンドの面でも、曲は大きな象のように歩く。
軽快ではあるが、薄くはない。
低音がしっかりしていて、ドラムが前へ押す。
ギターは飛び跳ねるというより、全体の溝を作る。
そこにJack Cochraneの声が乗り、曲はだんだん体温を上げていく。
特に後半のcome on babyの繰り返しには、ライブで観客を巻き込む力がある。
The Snutsは、録音で完結するバンドではない。
彼らの曲はステージで人が歌い、身体を動かすことで完成するタイプのものが多い。
Elephantsも、スタジオ音源だけで聴くと少し抑えめに感じるかもしれない。
しかしライブの場では、この反復とビートがより強く効くはずだ。
曲は、意味よりも場を作る。
観客がいる。
バンドが鳴る。
声が飛ぶ。
その瞬間、自分を信じるというテーマは、個人の内面だけではなく、群衆のエネルギーになる。
この変換こそ、インディーロックの大きな魅力である。
Elephantsは、完璧に整った曲ではないかもしれない。
歌詞も、少し荒く、意味が曖昧だ。
だが、その荒さがこの曲には合っている。
自分を信じることは、いつも美しい言葉で語られるわけではない。
時には、勢いだけのフレーズでよい。
少し変な比喩でよい。
象より大きな目、というような、妙に記憶に残る言葉でよい。
大事なのは、その言葉が自分を前へ動かすかどうかだ。
Elephantsは、そのための曲である。
聴き終わったあと、何か大きな教訓が残るわけではない。
だが、少し肩が軽くなる。
ビートが身体に残る。
自分も少し大きな歩幅で歩けるような気がする。
それが、この曲の力なのだと思う。
The SnutsのW.L.は、夢が現実に変わる直前と直後の熱を閉じ込めたアルバムである。
その中でElephantsは、地面を踏み鳴らすような役割を持っている。
高く飛ぶ前に、まず足を鳴らす。
自分はここにいると知らせる。
大きな動物のように、ゆっくりでも確実に前へ進む。
Elephantsは、そんなThe Snutsの足音の曲である。
7. 参照情報
Elephantsは、The Snutsが2020年6月11日にリリースしたシングルで、のちに2021年4月2日発売のデビューアルバムW.L.に収録された。W.L.はParlophoneからリリースされ、英国アルバムチャート1位を獲得した。ElephantsはTony Hofferがプロデュースに関わった楽曲で、The Firepit Londonで録音された曲群のひとつとして説明されている。Jack Cochraneは同曲を、バンドの多様なカタログにおけるもうひとつの捻りとして語っており、W.L.の文脈では逆境の中で自分の能力を信じる曲として紹介されている。

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