アルバムレビュー：Egypt Station by Paul McCartney

発売日: 2018年9月7日
ジャンル: ロック、ポップ、アートポップ

『Egypt Station』は、ポール・マッカートニーの17枚目のソロアルバムであり、彼の豊かなキャリアの中でも特に新鮮さを感じさせる作品だ。アルバム全体が列車の旅をテーマにしており、各曲が異なる「駅」であるかのように、多彩なスタイルの楽曲が並んでいる。プロデューサーにはグレッグ・カースティン（AdeleやFoo Fightersを手がけた）が起用され、モダンなポップサウンドとクラシカルなマッカートニーのソングライティングが巧みに融合している。彼の音楽性の多様さが光るアルバムで、時にシンプルで親しみやすく、時に実験的なアプローチが展開される。リリース後、商業的にも成功を収め、ポールにとって36年ぶりの全米1位獲得アルバムとなった。

各曲ごとの解説:

Opening Station
　アルバムの導入となる短いインストゥルメンタルで、列車の駅にいるかのような環境音とともに、アルバム全体の旅が始まる予感を感じさせる。神秘的で幻想的な雰囲気が漂い、次の曲への繋がりをスムーズに演出している。
I Don’t Know
　メランコリックなピアノバラードで、ポールの内省的な歌詞が印象的な曲。彼の年齢を感じさせるような疲れや疑念が歌詞に反映されているが、同時に力強いメロディが希望を感じさせる。繊細なピアノとストリングスが曲の雰囲気を高めている。
Come On to Me
　ロックとポップが融合したキャッチーなナンバーで、エネルギッシュなリズムと軽快なメロディが特徴。ダンサブルなビートがアルバムのムードを一気に盛り上げ、ライブでも盛り上がること間違いなしのトラックだ。ポールの軽やかなボーカルが印象的。
Happy with You
　アコースティックギターが主体のシンプルなフォーク調の曲で、日常の幸せを歌う温かい内容。過去の悪い習慣を振り返り、今は穏やかで幸せな生活を送っているというテーマが心地よい。ポールのソングライティングの素朴さがよく表れている。
Who Cares
　ギターリフが印象的なロックナンバーで、いじめや批判に対する励ましをテーマにした歌詞が特徴的。軽快でパワフルなサウンドが、ポールのメッセージを力強く伝えている。シンプルな構成ながら、彼のエネルギーを感じる一曲。
Fuh You
　ポールがグレッグ・カースティンと共同制作したポップナンバーで、モダンなプロダクションが目を引く。シンセサイザーのリズムとキャッチーなメロディが耳に残る楽曲で、ラブソングとしてのポップな側面が強調されている。
Confidante
　アコースティックなアレンジが中心の曲で、かつて信頼していた誰かへの思いを歌っている。歌詞は個人的で内省的な内容だが、ポールの落ち着いたボーカルとギターの音色が美しい。静かで感情豊かなトラック。
People Want Peace
　力強いメッセージを込めた曲で、タイトル通り、世界の平和を求める願いが込められている。リズミカルなドラムと壮大なメロディが、ポールの信念を表現しており、聴き手に強い印象を与える。オーケストレーションが曲に迫力を与えている。
Hand in Hand
　穏やかなバラードで、ピアノとボーカルが中心。リリックは愛と支え合いをテーマにしており、ポールの優しい歌声が心に響く。ストリングスの美しいアレンジが、曲に深みを加えている。
Dominoes
　軽快なテンポのギターサウンドが特徴の曲で、物事がうまく進む時の心地よい感覚を歌っている。曲は徐々に展開し、終盤には多層的なアレンジが加わり、アルバムの中でも特にポップな印象を残す。
Back in Brazil
　サンバのリズムを取り入れた異国情緒あふれるトラックで、ブラジルを舞台にした物語を描いている。軽快なリズムと鮮やかなアレンジが特徴で、アルバムの中でも異色の存在。エキゾチックな雰囲気が新鮮。
Do It Now
　ポールのポジティブなメッセージが込められた曲で、今を大切に生きることを歌っている。オーケストレーションが曲に広がりを与え、アルバム全体のテーマである「旅」の要素を感じさせる。クラシカルな要素が強い一曲。
Caesar Rock
　ローファイなロックサウンドが印象的なエネルギッシュなナンバー。シンプルな構成でありながら、荒々しいリズムと勢いが感じられ、ポールのロックへの原点回帰とも言える曲だ。
Despite Repeated Warnings
　複数のパートが組み合わさった7分を超える大作で、環境問題や政治的リーダーシップに対する批判をテーマにしている。壮大なサウンドスケープとポールの力強いボーカルが相まって、アルバムのクライマックスを飾る曲となっている。
Station II
　「Opening Station」と対になる短いインストゥルメンタルで、次の目的地に向かう列車の音が再び流れる。アルバム全体の流れをまとめる繋ぎとして機能している。
Hunt You Down / Naked / C-Link
　アルバムのフィナーレを飾る3部構成のトラック。ファンキーなリズムから始まり、途中でスローなバラードへと展開し、最後はインストゥルメンタルのギターソロで締めくくられる。ジャンルを横断するポールの多彩な音楽性が詰まったエネルギッシュな締め括りとなっている。

アルバム総評:

『Egypt Station』は、ポール・マッカートニーの創造力と幅広い音楽性を再確認させる作品だ。アルバム全体を通じて、列車の旅のように様々なスタイルやテーマが展開されており、ポールのソングライティングの魅力が詰まっている。クラシカルなロックサウンドからモダンなポップまで、70代を超えてなお進化し続ける彼の音楽への情熱が感じられる一枚。特に「I Don’t Know」や「Fuh You」などのシングル曲は、ポールの現代的な感覚と伝統的なロックの融合を見事に体現している。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

Chaos and Creation in the Backyard by Paul McCartney
ナイジェル・ゴッドリッチがプロデュースした、内省的なポールの傑作。シンプルなアコースティックと繊細なアレンジが『Egypt Station』の内省的な側面に通じる。
Memory Almost Full by Paul McCartney
ポールのキャリア後期のアルバムで、エネルギッシュで多彩なサウンドが特徴。『Egypt Station』同様、現代的なポップロックが楽しめる。
Ram by Paul & Linda McCartney
ポールとリンダによるカントリーやフォーク、ロックを融合させた一枚。『Egypt Station』の牧歌的な要素や多彩な楽曲構成が好きな人におすすめ。
The Next Day by David Bowie
長いキャリアを持つレジェンドの復活作で、現代的なサウンドとクラシックな要素が融合している。『Egypt Station』のように、過去と現在が織り交ぜられたサウンドが特徴。
Walls and Bridges by John Lennon
ジョン・レノンの内省的なアルバムで、ポップなメロディと感情的な歌詞が特徴。ポールのソロ作品が好きな人に、感情的な深みがあるこの作品をすすめたい。