発売日: 2015年6月5日
ジャンル: オルタナティブロック、ハードロック、プログレッシブメタル
機械の戦争と人間の魂——Muse、直線的反抗のロック回帰
2015年、MuseはDronesで原点回帰を果たしながらも、かつてないほどストレートな「怒り」を音にした。
前作The ResistanceやThe 2nd Lawで見せたクラシックやエレクトロの要素を抑え、本作ではギター、ベース、ドラムというトリオ編成の力強さを前面に押し出している。
アルバムのテーマは“ドローン(無人機)”——つまり、思考を持たずに命令に従う兵士や市民のメタファーとしての存在。
個人がシステムに飲み込まれ、やがてそれに気づき、反逆へと至るという物語が、コンセプトアルバムとして構築されている。
Museの中でも最も攻撃的で、最もシンプル、そして最もメッセージ性の強い一枚。
それはまるで、“目覚めよ”と叫ぶ一撃のようでもある。
全曲レビュー
1. Dead Inside
ポップなリズムとは裏腹に、空虚さと精神の死を描いたオープニング。
「感情を失った人間」の出発点として、本作の物語がここから始まる。
2. [Drill Sergeant]
軍事的な号令を模した短いインタールード。
個人をドローンに変えていく“洗脳の儀式”のように機能する。
3. Psycho
マーチング風のリズムに乗せて、ギターリフが唸るハードロックの真骨頂。
“Your ass belongs to me now”というリリックが、暴力的服従を象徴する。
ライブでも定番となった強烈な一曲。
4. Mercy
ベルラミーのファルセットが響く、唯一メロディアスで抒情的なトラック。
「救い」を求める声が、本作の中盤で物語を転換させる鍵となる。
5. Reapers
怒涛のギターワークと変則的なリズムが絡む、アルバム屈指のテクニカルな楽曲。
“Here come the drones”と繰り返されるフレーズが、冷酷な戦争機械の恐怖を描き出す。
6. The Handler
ファルセットとグルーヴィーなリフが交錯する、支配者と被支配者の心理戦。
主人公がコントロールから脱しようとする、物語的にも重要な場面。
7. [JFK]
ジョン・F・ケネディのスピーチを引用した短いインタールード。
自由と監視、真実とプロパガンダの交錯を象徴する。
8. Defector
“Free!”という叫びが力強く響く、解放と反抗の賛歌。
Queen的なコーラスと70年代風のギターワークが融合した異色作。
9. Revolt
タイトル通り“反乱”をテーマにしたアップリフティングなロックチューン。
シンセとギターがバランス良く共存し、ポジティブなエネルギーを放つ。
10. Aftermath
戦いのあとに訪れる静かな余白。
ストリングスとベルラミーの穏やかな歌声が、心の回復を描くバラード。
11. The Globalist
10分に及ぶ長編であり、本作の真のクライマックス。
西部劇風の静かな導入から、軍国的破壊、そして寂寥のエンディングへと至る三部構成。
「一人の人間が世界を破壊し、そして後悔する」という寓話的物語が展開される。
12. Drones
グレゴリオ聖歌のようなアカペラでアルバムを閉じる静かな終曲。
機械的存在としての“ドローン”に、宗教的意味を重ねる象徴的トラック。
総評
Dronesは、Museが「権力と支配」に真正面から挑んだ最も直接的なアルバムである。
サウンドはストレートにロックへと回帰し、物語は暗示ではなく明示へ。
その結果として、この作品は強い推進力と緊迫感を持つ一方で、音楽的装飾はあえて抑えられている。
本作の本質は、「個人が目を覚ますまでの闘い」そのものだ。
そしてその目覚めは、軍事、政治、メディア、そして自分自身との対話を経てしか訪れない。
Museはその旅路を、12曲を通して語り切ってみせたのだ。
暴力と制御、反抗と救済。
Dronesは、ロックがまだ“戦う力”を持っていることを示す、痛烈な証明である。
おすすめアルバム
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American Idiot / Green Day
政治的コンセプトアルバムとして共鳴する反体制ロックの傑作。 -
The Wall / Pink Floyd
個人と社会の対立を描いた、ロック史に残る壮大なコンセプトアルバム。 -
Songs for the Deaf / Queens of the Stone Age
重厚なリフとコンセプト性のある構成。ハードロックの力強さを求めるなら。 -
Absolution / Muse
終末観とロックの重さが共存する、Dronesの前提となる作品。 -
Ten / Pearl Jam
抑圧された個人の怒りと覚醒を描いた、90年代グランジの代表作。
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