1. 歌詞の概要
「Dreamer(ドリーマー)」は、イギリスのロックバンド、スーパートランプ(Supertramp)が1974年に発表したアルバム『Crime of the Century(クライム・オブ・ザ・センチュリー)』に収録された楽曲であり、同年にシングルとしてリリースされた。バンド初期の代表作として知られ、彼らの音楽的個性――ポップ性とアートロックの融合、軽妙なメロディと風刺的な歌詞のバランス――を鮮やかに提示した一曲である。
タイトルの「Dreamer」は直訳すれば“夢想家”。歌詞は、空想に耽るばかりで現実と向き合おうとしない人物に向けた、皮肉混じりの呼びかけである。語り手は「夢ばかり見ていて何になる?目を覚ました方がいいんじゃないか?」と問いかけるが、それは冷たい否定ではなく、どこか愛着や共感を帯びた視線である。
夢を持つことは美しい――だが、それだけでは生きていけない。そんな夢と現実のあいだの緊張感を、キャッチーなピアノリフと高音ヴォーカルに乗せて描き出したこの曲は、時代を超えて聴く者の心に響き続けている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Dreamer」は、ロジャー・ホジソン(Roger Hodgson)によって書かれた曲であり、彼がまだ十代の頃に作曲したものだとされている。最初は自宅のアップライト・ピアノで演奏され、当時使っていた段ボール箱をドラム代わりに叩いて録音したデモテープが、のちの完成版の雰囲気の原型となったというエピソードがある。
この曲が収録された『Crime of the Century』は、スーパートランプのブレイクスルー・アルバムであり、イギリスでの評価を確固たるものにした作品である。アルバム全体は“社会の逸脱者”をテーマにしており、「Dreamer」もその一環として、“世間からはみ出した者=夢想家”への眼差しを描いている。
なお、1979年にリリースされたライヴ・アルバム『Paris』に収録された「Dreamer」のライヴ・バージョンは、全米でのリバイバルヒットを記録しており、スタジオ版とは異なる熱量と迫力を持つ名演としても評価が高い。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Dreamer, you know you are a dreamer
夢想家よ、お前はまさに夢の中に生きてるやつさWell, can you put your hands in your head? Oh no!
自分の頭を抱えたりしてるのか?まさかね!I said dreamer, you’re nothing but a dreamer
言っただろ、君はただの夢見る人間に過ぎないってWell, can you put your hands in your head? Oh no!
現実を見たことがあるかい?多分ないだろうねI said “Far out, what a day, a year, a life it is!”
「すげぇな、なんて日だよ、なんて年、なんて人生だ!」
(引用元:Lyrics.com – Dreamer)
言葉遊びのような韻律と、ホジソン特有の裏声が絡むことで、夢想的でありながらどこか切実なトーンが生まれている。
4. 歌詞の考察
「Dreamer」は、夢に生きる者への風刺であると同時に、その純粋さへの共感でもある。歌い手は夢想家をからかうように語りかけるが、その視線にはどこか同族嫌悪的な愛着が見え隠れする。
現実と向き合わず、空想の中で満足している人間は、社会からは“現実逃避者”とみなされる。だが、夢を見ることをやめたとき、人は果たして本当に“まとも”になれるのか? そうした逆説的な問いかけが、この楽曲の核にある。
また、主人公が夢に溺れている一方で、「夢を見るだけではなく、行動を起こせ」というような示唆も読み取れる。これは若者の成長物語の一場面とも捉えられ、無邪気な夢見心地と、大人になることへの苦味が交錯する詩情を持つ。
音楽的にも、跳ねるようなピアノとハーモニーの遊び心は、夢の中のメリーゴーラウンドのような印象を与える。楽しいのに、少し切ない。それが「Dreamer」という楽曲の本質だ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Imagine by John Lennon
理想と現実の狭間に立つ夢想家の哲学的視点が、「Dreamer」と重なる。 - A Day in the Life by The Beatles
現実と空想が交錯する構成と、音楽的展開の美しさが共通する名曲。 - The Logical Song by Supertramp
「Dreamer」と対になるような自己喪失と教育批判の歌。ホジソンの代表作。 - Us and Them by Pink Floyd
社会の中で生きることの矛盾と悲哀を、夢想的なトーンで描いた名曲。
6. 夢見ることの肯定と、その不安
「Dreamer」は、1970年代のロックにおける“逃避”の一典型でありながら、その逃避が必ずしも後ろ向きではないという点で、他の同時代曲とは一線を画している。夢を見ることは、時に現実逃避と見なされるが、それは“もうひとつの現実を探す行為”でもある。
スーパートランプは、「Dreamer」を通して問いかける。「あなたは本当に目覚めているのか? それとも夢の中にいる方が誠実か?」と。
これは若者だけでなく、現代を生きるすべての人にとっての普遍的な問いでもある。仕事、生活、人間関係――私たちはどこまで現実を見ていて、どこから夢を失ってしまったのか。
「Dreamer」はその問いを、決して説教ではなく、リズムとメロディ、そして遊び心でそっと差し出す。夢を見ることをバカにするな。夢があるから人は歩けるんだ――そんな声が、今もスピーカーの向こうから響いてくる。
それは夢想家のための讃歌であり、現実主義者への小さな反抗であり、“目を開けた夢”を見続けるための音楽なのだ。
コメント