アルバムレビュー:Dream Police by Cheap Trick

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発売日: 1979年9月21日
ジャンル: パワーポップ、ハードロック、シンフォニック・ロック


夢を取り締まる者たち——Cheap Trickが仕掛けた“劇場型パワーポップ”の頂点

『Dream Police』は、Cheap Trickが1979年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、アメリカでの大ブレイク後に満を持してリリースされた“スタジオ大作”である。
前作『Heaven Tonight』でパワーポップとしての金字塔を打ち立てた彼らは、本作においてさらにオーケストラ、シンセサイザー、複雑な構成を導入。
単なるロックンロールバンドから、“演出と構成のロック劇団”へと進化を遂げた。

このアルバムは、リック・ニールセンの風刺と狂気の混じるソングライティングをベースに、ロビン・ザンダーのカメレオンのようなボーカルと、パンチの効いたリズム隊が、華麗な構成美と荒々しさの両立を見せつける作品となっている。
全米6位のチャートインを果たし、名実ともにCheap Trickの頂点を象徴する作品となった。


全曲レビュー

1. Dream Police

オーケストラを導入した劇的なオープニングナンバー。
「夢の中にまで警察がやってくる」という風刺的なテーマは、70年代末の管理社会や内面の抑圧を予見していたかのよう。
ロビンのシャウトとストリングスの応酬はまさにロック・オペラ的迫力。

2. Way of the World

やや憂いを帯びたメロディとパワフルなギターが交差する、アルバム中屈指のエモーショナルな一曲。
人生の理不尽さや迷いを、ポップなアレンジで包み込むセンスが光る。

3. The House Is Rockin’ (With Domestic Problems)

エネルギッシュなリフとスピード感のあるビートで畳みかける。
家庭の混乱を「家が揺れている」と表現する、Cheap Trick流の社会風刺とユーモアが冴える。

4. Gonna Raise Hell

10分を超える大作で、ファンク〜ハードロック〜サイケまでを股にかけるサウンドトリップ。
ディスコ時代の終焉に対する反発とも読める、重く反復的なビートが印象的。
途中に現れるストリングスと不穏な展開が、まるで悪夢のような空間を演出する。

5. I’ll Be with You Tonight

ストレートなラブソングに見せかけた、歪な感情がにじむロックナンバー。
キャッチーなメロディとバックビートが、恋の熱と不安を同時に伝える。

6. Voices

本作中もっともメロディアスで美しいバラード。
「頭の中で君の声が響いている」という歌詞が、妄想と現実の境界を曖昧にする
ロビン・ザンダーの歌唱の真骨頂であり、のちに多くのアーティストにもカバーされた名曲。

7. Writing on the Wall

短くも鋭いパンク的な一曲。
“壁に書かれた予言”というテーマに、社会的崩壊への予感が滲む。

8. I Know What I Want

ベーシストのトム・ピーターソンがリードボーカルを務める珍しい一曲。
単純で力強い反復が印象的で、ライヴでの盛り上がりも高いロック・アンセム。

9. Need Your Love

At Budokan』にも収録されたファン人気の高い楽曲。
スローに始まり、徐々に盛り上がっていく構成が、ビートルズ的壮大さとブルースロックの重さを融合させる。
サイケ、ポップ、ハードロックすべての要素が溶け合ったアルバムラストにふさわしい名演。


総評

『Dream Police』は、Cheap Trickというバンドが持つポップと狂気、劇場性と即興性、ユーモアと絶望といったすべての要素が渦巻く、キャリア中でも最も“濃密”な作品である。
本作において、彼らは単なるギター・ロックバンドから、サイケデリック・ポップ×社会風刺ロックの語り部へと昇華したと言える。

オーケストラや長尺曲といった“ロックの大げさな装飾”を導入しながらも、根底にはいつでもCheap Trickらしいひねくれたポップセンスと悪戯心が息づいている。

タイトルの“Dream Police”は、現実世界に入り込んだ夢の管理者であり、あるいは自分自身の心の検閲官かもしれない。
夢が奪われ、感情が監視される時代において、このアルバムはポップの仮面をかぶった抵抗の書として鳴り響き続ける。


おすすめアルバム

  • Queen / A Night at the Opera
    シアトリカルで構成美に富むロック・オペラの傑作。劇場性を好むリスナーにおすすめ。
  • Electric Light Orchestra / Out of the Blue
    オーケストラとロックの融合を極めた大作。『Dream Police』のシンフォニックな側面と響き合う。
  • The Who / Quadrophenia
    管理社会と若者の苦悩を描いたロック・オペラ。テーマ性と構築力の点で共通点が多い。
  • The Tubes / Remote Control
    社会風刺とサイケポップの融合。『Dream Police』のユーモラスな側面とリンク。
  • Blue Öyster Cult / Agents of Fortune
    知的でひねくれたハードロック。狂気と美しさが同居する音楽性が近い。

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