アルバムレビュー：Dream Come True by A Flock of Seagulls

発売日: 1985年
ジャンル: シンセポップ、エレクトロポップ、ニューウェーブ

概要

『Dream Come True』は、A Flock of Seagullsが1985年に発表した4作目のスタジオ・アルバムであり、商業的・批評的な意味でもバンドの分岐点となった作品である。

前作『The Story of a Young Heart』で繊細な内省路線を深化させた彼らだったが、本作ではより明確なポップ指向とダンス・ミュージックへの接近が見られ、80年代中期の音楽市場に適応しようとする意図が随所に現れている。

しかしながら、オリジナル・ラインナップはこの時期に崩壊し、ベーシストのフランク・モウリーが脱退。マイク・スコア主導の体制となったことで、サウンド面もやや一方向的となり、グループとしての一体感は薄れた印象を受ける。

その一方で、アルバム全体に漂う“夢と現実の落差”“ロマンスと孤独の錯綜”といったテーマ性は、80年代的エスケーピズムの終焉を象徴するようにも聴こえ、後年では“時代の逆風の中で漂うアルバム”として再評価される傾向もある。

タイトル通りのダンサブルなオープニング。
リズムを中心に据えた構成で、歌詞にはクラブ文化と恋愛のメタファーが織り込まれている。
シンセの光沢とメロディの軽やかさは耳馴染みが良いが、A Flock of Seagullsらしい陰影は薄め。

アルバム随一のシングル曲。
キャッチーなサビと明快なフックがある一方で、マイク・スコアの歌唱はどこか他人事のように響き、タイトルにある“彼女”の像も曖昧。
映像的なポップ感覚が前面に出ている。

夜の街を駆けるようなスピード感を持つアップテンポ・ナンバー。
サウンド的にはDuran Duran的なアプローチに近く、80年代的なセクシュアル・テンションと高揚感が交錯する。

“膝の上の愛”という挑発的なタイトルの裏に、依存と崩壊の気配が漂う。
演奏はスタイリッシュだが、歌詞は皮肉に満ちており、80年代ポップの二面性が表出する興味深い楽曲。

前作『Listen』にも同タイトルの楽曲があったが、こちらは別曲。
迷いや自己喪失をテーマにしたバラード調で、抑えたテンポと憂いを含んだメロディが光る。
本作では数少ない“内面に踏み込む”楽曲。

キーボードのループとエコーの効いたボーカルが幻想的な空気を演出。
“天国に生きる”という表現は皮肉であり、現実からの乖離を描いた一種のエスケープ・ソング。
幻想の中に微かに現実の苦さが滲む。

再収録された『A Flock of Seagulls』（1982）収録の同名曲の別バージョン。
アレンジが洗練され、リズムもよりタイトになっているが、オリジナルにあったロマンティックな異国情緒はやや後退。
全体としてシンセ・ディスコ寄りの仕上がり。

恋愛をストレートに描いた楽曲でありながら、サウンドはどこか冷ややか。
反復的なシンセとシンプルなビートが印象的で、機械的な愛の表象として聴ける。
80年代特有の“感情と機械の交錯”がここでも主題化されている。

『Dream Come True』は、A Flock of Seagullsにとって“商業路線の極点”であり、同時に“バンドのアイデンティティの揺らぎ”が最も顕著に現れた作品である。

本作は、より多くのリスナーに届くよう設計されたポップ・アルバムであると同時に、かつてのシンセティックなロマンスやスペース・ポップの幻想が剥がれ落ちた後の“残響”としても機能している。

サウンドは煌びやかだが、リリックにはどこか虚無と寂しさが漂っており、それはちょうど80年代中盤に訪れた“夢の終わり”とも重なる。
この点で、『Dream Come True』は商業的な失敗に終わったとしても、文化的な時代証言としては貴重な意義を持つ。