アルバムレビュー:Desolation Angels by Bad Company

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発売日: 1979年3月17日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アリーナロック


荒野の天使たちが見た夢——バッド・カンパニー、最後の“黄金の咆哮”

Desolation Angels』は、1979年にリリースされたBad Companyの5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドとしての黄金期を締めくくるラスト・グロー的作品である。
タイトルはジャック・ケルアックの小説『Desolation Angels(荒涼天使たち)』に由来し、孤独と旅、自由と倦怠を主題としたビート文学的スピリットが、アルバム全体に影を落としている。

本作は、ヒットシングル「Rock ’n’ Roll Fantasy」を擁しながらも、華やかさと哀愁、荒野と夢といった相反する感情が交錯する、繊細で多層的なロックアルバムである。
音楽的には、前作『Burnin’ Sky』の内省を受け継ぎつつ、より洗練されたアリーナ・サウンドと叙情的なバラードへの傾倒が感じられる。


全曲レビュー

1. Rock ’n’ Roll Fantasy

本作最大のヒット曲にして、夢と現実を交錯させたバッド・カンパニー流の“自己神話”ロック。
シンセ的エフェクトのかかったギターとミドルテンポのリズムが新鮮で、70年代から80年代への橋渡し的役割を果たす一曲。

2. Crazy Circles

円環するようなコード進行と、人生の虚無感と繰り返しを描いた歌詞が印象的なバラード。
ポール・ロジャースのソウルフルな歌声が内面の迷いをそのまま響かせる。

3. Gone, Gone, Gone

ベーシスト、ボズ・バレルによる唯一のシングル作。
ビートルズ的なポップ感とカントリー風味を併せ持つ、軽快で心地よいロックナンバー。

4. Evil Wind

重厚なギターと不穏なムードが支配するミステリアスなナンバー。
“悪しき風”という寓意が、時代の終わりを暗示しているかのような楽曲。アリーナ感よりも内面的なドキュメント性が強い。

5. Early in the Morning

ブルースの伝統を感じさせるスローで泥臭い一曲。
陽が昇る前の静けさと不安、そしてささやかな希望が感じられる。シンプルだが味わい深い。

6. Oh, Atlanta

ミック・ラルフス作の明朗なサザンロック調楽曲。
アメリカ南部への憧憬と旅情が弾むようなリズムに乗せて描かれ、アルバム中の軽快なアクセントとなっている。

7. Take the Time

愛と関係性について、“時間をかけて向き合う”ことの重要性を説くバラード。
演奏は控えめで、歌詞の重みとロジャースの真摯なボーカルが際立つ。

8. Rhythm Machine

ファンキーかつ実験的なリズムが際立つロック・ナンバー。
Bad Companyの中でも珍しいほどモダンでリズムドリブンな構成。80年代サウンドへの移行を感じさせる一曲。

9. She Brings Me Love

アルバムのクロージングにふさわしい、美しくもメランコリックなバラード。
“愛がある限り、孤独は終わる”という願いにも似た歌詞と、オルガンとギターの交錯が胸を打つ。


総評

『Desolation Angels』は、Bad Companyの“情熱”と“憂鬱”、そして“祝祭”と“終焉”が同時に鳴り響く、複雑で詩的な作品である。
大ヒットした「Rock ’n’ Roll Fantasy」によってアリーナ・バンドとしての威厳を保ちつつも、その背後には終わりゆく時代への郷愁と、自分たちの位置づけへの静かな葛藤が感じられる。

音楽的にはシンプルながらも洗練され、70年代的ロックバンドの「美しい終焉」を象徴するような佇まいが漂っている。
まさに“荒涼天使”たちが、最後に夢見た美しい空——そんな景色が、このアルバムから浮かび上がってくる。


おすすめアルバム

  • The Who『Who Are You』
     ロックの神話性と終焉を同時に描いた、同時期の“成熟と迷い”の記録。
  • Rod Stewart『Foot Loose & Fancy Free』
     アリーナ感とブルージーな語り口のバランスが共通する一枚。
  • Foreigner『Head Games』
     80年代型アリーナロックへの移行点として比較的近いサウンド。
  • Free『Heartbreaker』
     ロジャースのルーツであり、“終わりと再生”の空気を共有する。
  • Tom Petty & The Heartbreakers『Damn the Torpedoes
     アメリカン・ロックの理想と現実を鳴らした、時代感覚の近い名盤。

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