アルバムレビュー:Defying Gravity by Mr. Big

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

  • 発売日: 2017年7月7日
  • ジャンル: ハードロック、メロディアス・ハード、ブルース・ロック、ポップ・ロック、アリーナ・ロック

概要

Mr. Bigの9作目のスタジオ・アルバム『Defying Gravity』は、バンドの長いキャリアにおいて、原点回帰と晩年の成熟が同時に刻まれた作品である。1989年のデビュー作『Mr. Big』で登場した彼らは、Eric Martinのソウルフルなヴォーカル、Paul Gilbertの技巧的かつメロディアスなギター、Billy Sheehanの圧倒的なベース、Pat Torpeyのグルーヴ豊かなドラムによって、技巧派ハードロックの中でも特別な存在となった。1991年の『Lean into It』では「To Be with You」が世界的ヒットとなり、彼らは超絶技巧と親しみやすいメロディを両立するバンドとして広く知られるようになった。

『Defying Gravity』は、2011年の『What If…』、2014年の『…The Stories We Could Tell』に続く再結成後の作品であり、オリジナル・メンバーの化学反応を重視したアルバムである。特に重要なのは、初期Mr. Bigを手がけたプロデューサーKevin Elsonが再び関わっている点である。彼は『Mr. Big』や『Lean into It』のサウンドを支えた人物であり、本作でもバンドの原点である「生々しい演奏」「メロディの強さ」「4人の個性がぶつかるロック・バンド感」を引き出している。

ただし、本作を単なる懐古的な原点回帰として捉えるのは不十分である。『Defying Gravity』には、バンドが年齢を重ねたこと、キャリアの終盤に差しかかったこと、そしてPat Torpeyの健康問題という現実が強く影を落としている。Pat Torpeyはパーキンソン病を公表しており、本作ではドラマーとしての役割に制限がありながらも、バンドの一員として重要な存在感を保っている。ライブ活動ではMatt Starrがサポート・ドラマーとして大きな役割を担ったが、Torpeyの精神的な存在、コーラス、リズム感覚、バンド内での重みは、本作全体に深く刻まれている。

タイトルの『Defying Gravity』は「重力に逆らう」という意味を持つ。これは、Mr. Bigというバンドにとって非常に象徴的な言葉である。重力とは、加齢、病、音楽業界の変化、ハードロックというジャンルの商業的な衰退、過去の成功の重さを意味する。それに逆らうとは、若い頃と同じスピードや派手さを無理に再現することではない。むしろ、現実の重みを知ったうえで、それでもロック・バンドとして音を鳴らし続ける姿勢を指している。

音楽的には、本作はMr. Bigらしいメロディアス・ハードロックを軸にしながら、ブルース・ロック、ポップ・ロック、アコースティックな要素、ファンキーなグルーヴを織り交ぜている。初期作のような華やかなテクニック合戦を期待すると、全体的にはやや落ち着いて聞こえるかもしれない。しかし、Paul GilbertとBilly Sheehanのプレイは随所で鋭く、Eric Martinの歌は年齢を重ねたことによる深みを増している。ここでのMr. Bigは、若さの勢いだけで勝負するバンドではなく、長年の経験によって自分たちの強みをよく理解したバンドである。

歌詞面では、人生を肯定する姿勢、愛情、過去への視線、バンドとしての自負、苦難を乗り越える意志が中心となる。アルバム全体には、重いテーマがありながらも、過度に悲壮感はない。むしろ、ハードロック本来の明るさ、ユーモア、前向きなエネルギーが強い。これはMr. Bigらしい特徴である。彼らは技巧派でありながら、陰鬱なプログレッシブ・メタルへ向かうのではなく、歌えるメロディと人間味のあるロックンロールを大切にしてきた。本作もその延長にある。

日本のリスナーにとって、Mr. Bigは特別な人気を持つバンドである。アメリカ本国での商業的状況とは別に、日本ではメンバーそれぞれの演奏力、親しみやすい楽曲、誠実なライブ姿勢が長く支持されてきた。『Defying Gravity』は、その日本のファンにとっても、単なる新作以上の意味を持つ。これは、バンドが困難を抱えながらも、Mr. Bigとしての音を最後まで鳴らそうとした記録である。

全曲レビュー

1. Open Your Eyes

オープニング曲「Open Your Eyes」は、アルバムの幕開けにふさわしい、明快で力強いハードロック・ナンバーである。タイトルは「目を開けろ」という意味を持ち、現実を見ること、周囲に気づくこと、自分自身を覚醒させることを促す言葉である。『Defying Gravity』というアルバム全体が、重力に逆らって前へ進む姿勢を掲げていることを考えると、この曲はその最初の呼びかけとして機能している。

音楽的には、Mr. Bigらしいタイトなリフと、Eric Martinの伸びやかなヴォーカルが中心である。Paul Gilbertのギターは鋭く、Billy Sheehanのベースは曲の低音を支えるだけでなく、随所でメロディックに動く。バンドの演奏は熟練しており、派手さよりも楽曲の推進力を重視している。

歌詞では、現実から目をそらさず、自分の状況を見つめることがテーマになっている。若いロック・バンドが歌う「目を開けろ」は反抗の言葉になりやすいが、Mr. Bigがこの時期に歌うと、それはより人生的な響きを持つ。長いキャリア、身体的な制約、音楽シーンの変化を経験したバンドだからこそ、この言葉には重みがある。

「Open Your Eyes」は、Mr. Bigがまだ前へ進む力を持っていることを示す曲である。技巧を見せるだけでなく、バンド全体の結束を示すオープニングとして効果的である。

2. Defying Gravity

タイトル曲「Defying Gravity」は、本作のテーマを最も明確に示す楽曲である。「重力に逆らう」という言葉は、加齢や病、過去の評価、ジャンルの時代性といった、バンドを地上へ引き戻そうとするあらゆる力への抵抗として響く。Mr. Bigはここで、無理に若返るのではなく、現実を知ったうえでなお上昇しようとする意志を歌っている。

音楽的には、ストレートなハードロックの骨格を持ちながら、サビにはMr. Bigらしい明るいメロディがある。Paul Gilbertのギターは力強く、Billy Sheehanのベースは曲に厚みとスピード感を与える。Eric Martinの歌唱は、若い頃のような鋭い高音だけではなく、経験を重ねた声の太さが印象的である。

歌詞では、逆境を前にしても沈まないこと、自分自身を持ち上げることがテーマとなる。これは単なる根性論ではない。重力が存在するからこそ、逆らう行為には意味がある。困難がなければ、上昇する意志も生まれない。この曲は、バンドの現状と重ねることで特に強く響く。

「Defying Gravity」は、アルバム全体の精神的な中心である。Mr. Bigというバンドが、過去の栄光に寄りかかるのではなく、現在の自分たちの力で音を鳴らそうとしていることを示している。

3. Everybody Needs a Little Trouble

「Everybody Needs a Little Trouble」は、タイトル通り「誰にでも少しのトラブルが必要だ」という、ロックンロールらしい逆説を持つ楽曲である。人生を完全に安全で平穏なものにするのではなく、少しの混乱や危険が人を動かす。Mr. Bigはこのテーマを、軽快でファンキーなロックとして提示している。

音楽的には、ブルース・ロックやファンクの要素が感じられ、リズムの跳ね方が印象的である。Pat Torpey由来のグルーヴ感を思わせる軽さがあり、バンド全体がリラックスしながら演奏している。Paul Gilbertのギターは技巧的だが、ここでは曲のノリを壊さず、遊び心を持って鳴っている。

歌詞では、トラブルを完全に避けるのではなく、それを人生のスパイスとして受け入れる姿勢が描かれる。これはハードロックの伝統的なテーマでもあるが、年齢を重ねたMr. Bigが歌うことで、単なる若者の無茶ではなく、人生経験から来る余裕として響く。

「Everybody Needs a Little Trouble」は、アルバムに明るいロックンロール感を与える曲である。深刻なテーマを背負った作品の中で、バンドのユーモアと楽しさを保つ重要な役割を果たしている。

4. Damn I’m in Love Again

「Damn I’m in Love Again」は、Mr. Bigらしいメロディアスなポップ・ロックの魅力が表れた楽曲である。タイトルは「くそ、また恋に落ちてしまった」という意味で、恋愛に対する喜びと困惑が同時に込められている。若い情熱というより、何度も恋愛の痛みや面倒を知ったうえで、それでもまた惹かれてしまう大人のユーモアがある。

音楽的には、キャッチーなメロディと軽快なリズムが中心である。Eric Martinのヴォーカルは非常に自然で、彼の持つソウルフルな甘さが曲によく合っている。Paul Gilbertのギターは華やかすぎず、曲のポップな輪郭を支える。Billy Sheehanのベースも、派手に暴れるより、楽曲の心地よさを重視している。

歌詞では、恋に落ちることへの諦めに近い笑いが描かれる。恋愛は面倒で、時に痛みを伴う。それでも人はまた恋をしてしまう。この避けられなさを、重くではなく明るく歌っている点がMr. Bigらしい。

「Damn I’m in Love Again」は、アルバムの中で親しみやすい楽曲のひとつである。Mr. Bigの強みである、ハードロックの演奏力とポップなメロディ感覚の両立がよく出ている。

5. Mean to Me

「Mean to Me」は、ブルース・ロック的な渋さを持つ楽曲であり、本作の中でもやや大人びたムードを持っている。タイトルは「僕に意地悪をする」「僕にとって意味がある」という二重の響きを持ち、恋愛や人間関係における痛みと執着を感じさせる。

音楽的には、粘りのあるリフと落ち着いたグルーヴが特徴である。派手なスピード感ではなく、バンドの腰の据わった演奏が前面に出ている。Paul Gilbertはブルージーなフレーズを織り込み、Billy Sheehanは曲の重心を支える。Eric Martinのヴォーカルも、ロック・シンガーとしての力強さに加え、ブルース的な苦みを含んでいる。

歌詞では、相手との関係における傷つきやすさ、冷たくされることへの苛立ち、それでも離れられない感情が描かれる。Mr. Bigの恋愛曲は、甘いだけでなく、こうした少し苦い側面を持つことが多い。この曲では、その苦みが演奏のグルーヴとよく結びついている。

「Mean to Me」は、若々しい派手さではなく、バンドの年輪を感じさせる楽曲である。ハードロックをブルース的な深みへ近づけた、本作の渋い聴きどころである。

6. Nothing Bad (About Feeling Good)

「Nothing Bad (About Feeling Good)」は、タイトルが示すように、気分よくいることを肯定する楽曲である。「気分がいいことに悪いことなんてない」という言葉には、シンプルな快楽の肯定がある。深刻な時代や困難な状況の中でも、音楽によって気分を上げることには価値があるというMr. Bigらしいポジティヴな姿勢が表れている。

音楽的には、軽快で明るいロック・ナンバーである。サビのメロディは親しみやすく、ライブでの一体感を想像させる。ギターとベースの絡みはタイトで、リズムも前向きである。技巧派バンドでありながら、ここでは複雑さよりも楽曲の楽しさが優先されている。

歌詞では、罪悪感なく楽しむこと、良い気分を受け入れることがテーマになる。ロック・ミュージックには、社会批判や怒りだけでなく、単純に人を元気にする力もある。この曲はその役割を素直に引き受けている。

「Nothing Bad (About Feeling Good)」は、『Defying Gravity』の中で明るいアクセントとなる曲である。重力に逆らうことは、苦しみに耐えることだけではなく、楽しむことをあきらめないことでもある。その意味で、アルバムの精神とよく合っている。

7. Forever and Back

「Forever and Back」は、アルバムの中でも感情的な深みを持つバラード寄りの楽曲である。タイトルは「永遠へ行って戻ってくる」といった意味に読め、長い時間、離別、再会、変わらない思いを連想させる。Mr. Bigが得意としてきたメロディアスな側面が強く表れた曲である。

音楽的には、アコースティックな質感とロック・バンドとしての厚みがバランスよく配置されている。Eric Martinの歌声が前面に出ており、彼の感情表現の細やかさが曲を支えている。Paul Gilbertのギターは、テクニックを見せつけるのではなく、歌の余韻を広げるように鳴る。

歌詞では、遠く離れても戻ってくる感情、時間を超えて続く思いが描かれる。若い恋愛の瞬間的な情熱ではなく、長い時間の中で残り続ける絆がテーマである。これは、長いキャリアを持つMr. Big自身の姿にも重なる。バンドは一度離れ、再び戻り、困難を抱えながら続いてきた。

「Forever and Back」は、『Defying Gravity』の中で最も情感豊かな曲のひとつである。バンドの成熟したメロディ感覚と、Eric Martinのヴォーカルの魅力がよく表れている。

8. She’s All Coming Back to Me Now

「She’s All Coming Back to Me Now」は、記憶と再訪をテーマにした楽曲である。タイトルは「彼女のことがすべて戻ってくる」という意味を持ち、過去の恋愛、忘れたと思っていた感情、突然よみがえる記憶を連想させる。Mr. Bigらしいポップな感覚と、少し切ない回想が結びついた曲である。

音楽的には、明るさと哀愁のバランスが取れている。ギターの響きは軽快だが、メロディには過去を振り返る切なさがある。Eric Martinのヴォーカルは、懐かしさと戸惑いを自然に表現している。バンド全体の演奏も、曲の回想的なムードを壊さず、適度に抑制されている。

歌詞では、過去の相手の記憶が突然戻ってくる感覚が描かれる。人は忘れたと思っていても、ある瞬間に匂い、場所、音、言葉によって過去へ引き戻される。この曲は、その感情を大げさに悲劇化せず、ポップなロックとして表現している。

「She’s All Coming Back to Me Now」は、Mr. Bigのメロディ・メイカーとしての強みを感じさせる曲である。派手な技巧は控えめだが、記憶に残る歌と自然な演奏が魅力である。

9. 1992

「1992」は、本作の中でも特にバンド自身の歴史を意識した楽曲である。1992年は、Mr. Bigが『Lean into It』の成功によって世界的に大きな注目を集めていた時期であり、「To Be with You」のヒットとも強く結びつく時代である。タイトルに年号を掲げることで、バンドは自らの過去と向き合っている。

音楽的には、やや軽快で、ロックンロール的な勢いを持つ。歌詞の内容には懐古的な要素があるが、曲調は過度にしんみりしていない。むしろ、過去を笑いながら振り返るような余裕がある。Mr. Bigはここで、自分たちの栄光を神話化するのではなく、少しユーモラスに見つめ直している。

歌詞では、1992年という時代の空気、成功、騒がしさ、若さ、ロック・スターとしての日々が回想される。だが、その回想には単純な栄光賛美ではなく、時間の経過への自覚もある。かつての自分たちは若く、世界は違って見えていた。その距離感が曲に深みを与えている。

「1992」は、長いキャリアを持つバンドだからこそ書ける曲である。過去を誇りに思いながらも、それに縛られすぎない。Mr. Bigの自己認識とユーモアが表れた重要曲である。

10. Nothing at All

「Nothing at All」は、タイトル通り「何もない」という虚無感を含んだ楽曲である。アルバムの明るい曲が続く中で、この曲は少し内省的な空気を持っている。何かを失った後に残る空白、言葉にできない感情、存在の軽さがテーマとして感じられる。

音楽的には、落ち着いたテンポで、歌を中心にした構成である。Eric Martinの声が曲の感情を大きく担い、バンドは過剰に装飾せず、歌詞の余白を支える。Paul Gilbertのギターも、ここでは旋律的で、曲の静かな悲しみを広げる役割を持つ。

歌詞では、何もないこと、何も残らないこと、あるいは何も言えない状態が描かれる。Mr. Bigはしばしば前向きで明るいロックを鳴らすが、こうした空白感を持つ曲が入ることで、アルバム全体に深みが生まれる。重力に逆らうためには、まず重さや空虚を知る必要がある。

「Nothing at All」は、本作の中で派手な曲ではないが、アルバム後半に落ち着いた陰影を与えている。成熟したMr. Bigの内面的な側面を示す楽曲である。

11. Be Kind

ラスト曲「Be Kind」は、アルバムを締めくくるにふさわしい、シンプルで温かいメッセージを持つ楽曲である。タイトルは「優しくあれ」という意味であり、長いキャリアを経たバンドが最後に提示する言葉として非常に重い。ハードロックの世界では、強さ、速さ、派手さが強調されることが多い。しかしMr. Bigはここで、優しさを重要な価値として歌っている。

音楽的には、穏やかなメロディとロック・バンドとしての温かい演奏が中心である。Eric Martinのヴォーカルは誠実で、曲のメッセージを過度に感傷的にせず、自然に伝えている。バンドの演奏も控えめで、最後に歌そのものを前に出す構成になっている。

歌詞では、他者への思いやり、人生の中で忘れがちな優しさがテーマとなる。これは単純な道徳ではない。苦難や成功、失敗、病、別れを経験したバンドが歌うからこそ、「Be Kind」という言葉には実感がある。強くあることだけでは人生は続かない。優しさがなければ、バンドも人間関係も続かない。

「Be Kind」は、『Defying Gravity』の終曲として非常に象徴的である。重力に逆らうアルバムは、最後に力技ではなく優しさへ到達する。Mr. Bigの人間的な魅力が凝縮された締めくくりである。

総評

『Defying Gravity』は、Mr. Bigの後期キャリアにおける重要な作品である。初期のような爆発的な新鮮さや、『Lean into It』のような大衆的ヒット性を求めると、本作はやや落ち着いて聞こえるかもしれない。しかし、このアルバムの価値は、長い時間を経たバンドが、自分たちの原点を見つめ直しながら、現在の状態でしか鳴らせないロックを作っている点にある。

本作の中心には、「逆らう」という姿勢がある。それは若さへの執着ではなく、現実の重さを認めたうえで、なお音を鳴らすことへの意志である。Pat Torpeyの健康問題は、このアルバムの背景として無視できない。彼のドラム・プレイヤーとしての役割は制限されていたが、彼の存在はMr. Bigの音楽的・精神的な核であり続けた。『Defying Gravity』というタイトルは、その意味でも深く響く。病や時間という重力に対して、バンド全体が音楽で応答している。

音楽的には、Mr. Bigの強みであるメロディアスなハードロックが中心である。「Open Your Eyes」「Defying Gravity」「Everybody Needs a Little Trouble」では、バンドのロックンロール的な勢いが示される。「Damn I’m in Love Again」や「She’s All Coming Back to Me Now」では、ポップなメロディ感覚が表れる。「Forever and Back」「Be Kind」では、成熟した情感が前面に出る。アルバム全体は、派手な技巧のショーケースというより、楽曲の表情を大切にした構成になっている。

Paul GilbertとBilly Sheehanの演奏は、依然として圧倒的である。しかし本作では、超絶技巧を前面に出す場面は必要なところに絞られている。これは弱さではなく、成熟である。若い頃のMr. Bigは、演奏技術そのものが大きなインパクトだった。『Defying Gravity』のMr. Bigは、その技術を曲のために使う。リフ、オブリガート、ベースライン、ソロが、歌とバンド・サウンドの中に自然に組み込まれている。

Eric Martinのヴォーカルも、本作の大きな魅力である。彼の声には、若い頃の鋭さだけでなく、時間を経た深みがある。ハードロックの力強さ、ブルース的な湿り気、ポップ・ソングを自然に届ける柔らかさが共存している。「Forever and Back」や「Be Kind」のような楽曲では、その成熟した表現力が特に際立つ。

歌詞面では、人生を肯定する力が強い。だが、それは何も知らない楽観ではない。過去の栄光を振り返る「1992」、困難を乗り越える「Defying Gravity」、楽しむことを肯定する「Nothing Bad (About Feeling Good)」、最後に優しさを歌う「Be Kind」まで、本作には長く生きてきたバンドならではのメッセージがある。強さとは、ただ速く弾くことでも、大音量で鳴らすことでもない。続けること、笑うこと、思いやること、もう一度立ち上がることでもある。

日本のリスナーにとって『Defying Gravity』は、Mr. Bigというバンドの晩年の姿を理解するうえで重要な一枚である。『Lean into It』のような代表作から入ったリスナーには、より落ち着いたアルバムに感じられるかもしれない。しかし、長年Mr. Bigを聴いてきたリスナーにとっては、メンバーの絆、Pat Torpeyへの思い、原点への敬意が伝わる作品である。

総じて『Defying Gravity』は、若いバンドの衝動ではなく、経験を積んだバンドの意志によって作られたハードロック・アルバムである。重力は確かに存在する。時間は流れ、身体は変化し、音楽シーンも変わる。それでもMr. Bigは、歌い、弾き、鳴らし続ける。本作は、その姿勢を記録したアルバムである。派手な奇跡ではなく、現実の重さに逆らう人間的なロック。その意味で『Defying Gravity』は、Mr. Bigの後期を象徴する誠実な作品である。

おすすめアルバム

1. Mr. Big – Lean into It

1991年発表の代表作。「To Be with You」「Green-Tinted Sixties Mind」「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」などを収録し、Mr. Bigの技巧、メロディ、ハードロックとしての勢いが最も分かりやすく結晶している。『Defying Gravity』の原点を理解するために欠かせない。

2. Mr. Big – What If…

2011年発表の再結成後のアルバム。オリジナル・メンバーによる復活作であり、初期の勢いと現代的な音作りが結びついている。『Defying Gravity』へ続く後期Mr. Bigの流れを理解するうえで重要である。

3. Mr. Big -…The Stories We Could Tell

2014年発表のアルバム。再結成後の成熟したバンド・サウンドが表れた作品であり、メロディアスなハードロックと落ち着いた歌もののバランスが特徴である。『Defying Gravity』の前段階として聴く価値が高い。

4. Mr. Big – Bump Ahead

1993年発表の3作目。アコースティックな要素やメロディアスな楽曲が増え、バンドの歌心が強く表れた作品である。『Defying Gravity』のポップ・ロック的な側面やバラード感覚とつながりが深い。

5. Winery Dogs – The Winery Dogs

2013年発表のアルバム。Billy Sheehan、Richie Kotzen、Mike Portnoyによるパワー・トリオ作品であり、技巧派ロックとブルース、ソウルフルな歌の融合が特徴である。Mr. Bigの演奏力とメロディアスなロックに惹かれるリスナーに関連性が高い。

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