1. 歌詞の概要
「Death（デス）」は、イギリスのバンド White Lies（ホワイト・ライズ）が2009年にリリースしたデビューアルバム『To Lose My Life…』の冒頭を飾る楽曲であり、バンドの美学と世界観を最も端的に象徴する決定的な1曲である。
そのタイトルどおり、本作がテーマに据えるのは“死”である。しかし、ここで描かれる死は終わりではなく、むしろ生や愛の本質を露わにするための比喩装置として扱われている。
語り手は死にゆく者なのか、それとも残される者なのか――その視点は曖昧なまま進行し、死という境界線を通して愛や記憶を確かめようとする、静かで壮大な叙情詩へと昇華していく。
この曲が特別なのは、“死”というテーマを悲痛なトーンで描くのではなく、スケールの大きなサウンドとともに“美しく、神聖なもの”として歌い上げている点にある。
それはまるで、私たちの生の終わりを正面から見据えることで、逆説的に「どう生きるか」を問うてくるような構造なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
White Liesは、2007年にロンドンで結成され、Joy DivisionやEcho & the Bunnymenの系譜を受け継ぐ“死と存在”を主題にしたポストパンク・リバイバルの旗手として注目を浴びた。
「Death」は、彼らがインディーバンド「Fear of Flying」として活動していた頃から温められていた楽曲であり、White Liesとしての再出発を象徴する“産声”のような曲でもある。
本作がデビューシングルとして選ばれた理由は明白である。
それは、White Liesというバンドの根幹にある、死とロマンス、暗闇と希望のコントラストが、これ以上ないほど凝縮されているからだ。
この曲がリリースされた2008年から2009年という時期は、リーマン・ショック後の社会的混乱や閉塞感も色濃く、人々が“個人の終わり”や“存在の意味”に敏感になっていた。
「Death」は、そうした時代の空気を見事に映し出す鏡としても機能した。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“I love the feeling when we lift off / Watching the world so small below”
「僕らが離陸していくときのあの感覚が好きなんだ / 小さくなる世界を見下ろして」
“I love the dreaming when I think of / The safety in the clouds out my window”
「夢想にふけるのが好きなんだ / 窓の外の雲の中にある、あの安全な場所を」
“Every minute gets easier / The more you talk to me”
「君が話してくれるたびに / 時間が少しずつ楽になるんだ」
“And when the lights go out / I don’t think I will ever be afraid again”
「そして灯りが消えたとき / もう僕は、きっと何も怖くないと思う」
この一連のリリックは、飛行機の中を舞台にしながら、“死に向かう瞬間の静けさと安らぎ”を描写しているとも取れる。
同時に、恋人や大切な人との会話によって“死すらも癒されていく”という、愛と死の交差点が美しく提示されている。
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White Lies – Death Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Death」というタイトルが示すとおり、本作では死がテーマとなっているが、それは単なる“生命の終焉”ではない。
むしろこの曲で描かれる死とは、**「存在の限界」と「無限への到達」**を同時に孕んだ、非常に詩的な概念である。
冒頭の「離陸」というイメージは、文字通り“現実からの浮遊”であり、この世の重力から解放される瞬間を象徴している。
それは飛行機の中かもしれないし、臨死体験のような感覚かもしれない。あるいは、愛によって生かされていた人間が、愛によって死を迎える準備をする瞬間なのかもしれない。
語り手は不安や恐怖を抱えながらも、「君が話しかけてくれると、少しずつ恐怖が和らぐ」と繰り返す。この繰り返しは、死を迎える者が、愛によってその瞬間を穏やかに迎えるプロセスを描いているとも読める。
また、「灯りが消えたとき、もう怖くない」と語る最終ラインは、死を光の喪失として捉えながらも、それを恐れではなく“癒し”として受け入れる姿勢を示しており、White Liesの“死を美として描く”美学がここに集約されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Funeral by Band of Horses
死と儀式をモチーフに、人生の儚さと尊さを静かに謳い上げるバラード。 - In This Shirt by The Irrepressibles
死別と喪失を壮大なオーケストレーションで描く、現代的クラシック・ポップ。 - All Sparks by Editors
燃え尽きることを恐れずに生きる、愛と死の狭間で揺れるポストパンクの名曲。 - Open Your Eyes by Snow Patrol
目を閉じた先にある愛と死の景色を描いた、情緒的で広がりのあるロックソング。 -
Goodbye Horses by Q Lazzarus
死や変容、アイデンティティの解体を包み込む、80年代ダーク・シンセの神秘。
6. “死を見つめることは、生を取り戻すことだった”
「Death」は、ホワイト・ライズの名を決定づけた作品であり、同時に2000年代後半のUKロックにおいて、“死”という主題をロマンティックに再定義した革新的な曲でもある。
それは、「死」を遠ざけるのではなく、「死」と共に寄り添い、「死」のなかに安らぎや愛を見出そうとする姿勢。
その視点は、どこまでも美しく、静かで、凛としている。
「灯りが消えても、もう怖くない」――その言葉が、この曲の核心であり、私たちが“生きる”ことに対して持ち得る、最も優しい答えのひとつかもしれない。
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