1. 歌詞の概要
「Cry Tough」は、Nils Lofgren(ニルス・ロフグレン)が1976年にリリースしたセカンド・ソロ・アルバム『Cry Tough』のタイトル・トラックであり、内面の葛藤と信念のはざまで揺れる若者の精神を描いた、繊細で鋭く、それでいて希望を失わないロックバラードである。
“Cry tough”とは直訳すれば「強がって泣く」「苦しみに耐える」といった意味合いを持つが、この曲では**「弱さを見せること」「夢を諦めないこと」「心の声に従うこと」こそが真の“強さ”なのだ**と語りかける。
一見タフな外見の裏側に潜む不安や、自分自身との闘いを誠実に表現しながら、ロフグレンは聴き手に向かって、「自分の心を信じて進め」と優しく背中を押す。
全体を通してメッセージは普遍的でありながら、ロック・ミュージシャンとしての彼自身の生き方、音楽業界での孤独や理想との格闘が透けて見える。それがこの曲に、聴く人それぞれの人生にも響くリアリティを与えている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Cry Tough」が発表された1976年は、ニルス・ロフグレンがソロ・アーティストとして本格的に飛躍しようとしていた時期である。前年のデビュー・アルバム『Nils Lofgren』は批評家から高い評価を得たものの、商業的にはブレイクとは言いがたかった。
そんな中で発表された本作『Cry Tough』は、よりパーソナルかつ鋭利な視点を持つ作品群を収録しており、その中心に置かれたこのタイトル曲は、まさに**「今こそ自分自身の信じる音を鳴らすときだ」という決意表明のような存在**だった。
また、ロフグレンはこの頃すでにNeil Youngとの活動やCrazy Horseへの参加を通じて、ミュージシャンとしては実力を認められていたが、その分プレッシャーも大きかった。
「Cry Tough」というフレーズは、そんな自らの不安と可能性を同時に抱えながら、音楽の道を歩み続ける彼の覚悟を象徴している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You can cry tough baby
It’s alright
You can let me know
Let it show tonight
泣きながら強がったっていい
それでいいんだよ
俺に話しても構わない
今夜は、感情を隠さなくていい
You can cry tough, show me
What you’re feelin’ inside
‘Cause we’re both here, dreamin’
Of a world that won’t lie
強がりながらも、見せてくれ
その心の奥にあるものを
だって俺たちは同じだ
偽りのない世界を夢見てるんだから
引用元:Genius 歌詞ページ
この歌詞の核心は、**「感情を押し殺すことが強さじゃない」**というメッセージにある。むしろ、自分の本当の気持ちをさらけ出しながら、それでも前に進もうとする姿勢こそが、“Cry Tough”の意味する“タフネス”なのだ。
4. 歌詞の考察
「Cry Tough」は、自己肯定のバラードであると同時に、“弱さの尊さ”を讃えるラブソングとも読める。語り手は相手に対して「泣いてもいいんだよ」「夢を諦めなくていいんだよ」と語りかけているが、これは過去の自分自身への呼びかけでもあるように感じられる。
夢を追う過程では、不安も失敗も裏切りもつきものだ。しかし、そこで涙を流してもいい。大切なのは、その涙をごまかさず、受け入れたうえで、もう一度立ち上がること。この曲は、その行為こそが“Cry Tough”、つまり本当の強さの証明であるという信念を、優しくも力強く伝えている。
また、“dreamin’ of a world that won’t lie”という一節には、70年代半ばの社会的幻滅感や、ロックの理想が徐々に現実に押し流されていく空気がにじむ。だが、それでもロフグレンは「夢は捨てるな」と語る。それがこの曲の希望であり、現実に背を向けずに、理想を見続けるという真摯な姿勢に繋がっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Running on Empty by Jackson Browne
旅と自己探求を描いた70年代アメリカン・ソングライティングの金字塔。 - Thrasher by Neil Young
現実と夢の狭間を歩く孤高のソングライター像を描いた内省的叙事詩。 - Backstreets by Bruce Springsteen
裏切りと喪失、そして友情への憧憬が交差する感情の奔流。 - Shooting Star by Bad Company
若きミュージシャンの夢と崩壊を描いた、現実を見据えたロック・バラッド。 - Hearts and Bones by Paul Simon
関係の揺らぎと自己の内面を繊細に描いた、大人のポップ・バラード。
6. 静かに、しかし確かに響く“夢を生きるためのメッセージ”
「Cry Tough」は、ニルス・ロフグレンというアーティストが、ロックの華やかさではなく、音楽の中で真実を語ろうとする覚悟を持った人物であることを証明した一曲である。
それは誰かに対する励ましであり、自分自身への誓いでもある。
そして何より、聴き手一人ひとりに向かって、
「泣いてもいい。信じることをやめるな」と語りかけてくれる音楽だ。
70年代ロックの中にあって、静かに、だが確かに光るこの曲は、
今も多くの人にとっての**“再出発のテーマソング”**となり得る。
夢をあきらめそうな夜、声を上げる余裕もないとき――
ただこの曲を聴いて、「Cry Tough」という言葉を噛み締めてほしい。
そのとき、自分の中にまだ光が残っていることに、きっと気づけるだろう。
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