
楽曲の概要
「Crosstown Traffic」は、The Jimi Hendrix Experienceが1968年に発表した3作目『Electric Ladyland』の収録曲である。アルバムでは「Have You Ever Been (To Electric Ladyland)」に続く3曲目に置かれ、約2分半という短さで一気に駆け抜ける。作詞・作曲はJimi Hendrix。録音ではHendrixがギター、ピアノ、リードボーカルに加えて櫛と薄紙を使った即席のカズーのような音を担当し、Noel Reddingがベース、Mitch Mitchellがドラム、TrafficのDave MasonとReddingがバックボーカルを担当した。
『Electric Ladyland』には「Voodoo Chile」「1983… (A Merman I Should Turn to Be)」のような長尺曲やスタジオ実験が多いが、「Crosstown Traffic」はその反対側にある。短いリフ、強いビート、覚えやすいコーラスを圧縮したファンキーなロック曲であり、Hendrixのポップソング作家としての能力がよく分かる。恋愛関係を交通渋滞にたとえる歌詞と、実際に混雑した道路を強引に走り抜けるような演奏が結びついていることが、この曲の大きな特徴である。
歌詞の概要
歌詞の語り手は、ある女性との関係を終わらせたいと考えている。しかし相手はその意思を受け入れず、語り手の進路をふさぎ続ける。その状況をHendrixは車と道路の比喩へ置き換え、自分は高速で先へ進みたいのに、相手が目の前へ飛び出してくるような関係として描く。タイトルの「Crosstown Traffic」は街を横断する交通を意味するが、ここでは目的地へ向かう人を止める渋滞そのものが恋愛関係の比喩になっている。
語り手の態度はかなり一方的である。相手の事情を理解しようとするより、自分の人生を邪魔する存在として扱い、別れを受け入れるよう迫っている。そのため成熟した関係の清算を描いた歌というより、苛立ちをユーモアと誇張によって吐き出すブルース的な人物像として聞く方が自然である。Hendrix本人と語り手をそのまま同一視する必要はない。
面白いのは、恋愛を道路交通へ変換したことで、感情的な別れ話が非常に身体的なイメージになっている点だ。速度、衝突、進路妨害、渋滞といった感覚はすべて動きを伴う。そのため歌詞を細かく理解しなくても、「前へ進みたいのに進めない」という苛立ちは曲のスピードとリズムから直接伝わってくる。
制作背景・時代背景
「Crosstown Traffic」の基礎録音は1967年12月20日、ロンドンのOlympic Studiosで行われた。記録されているメンバーはHendrix、Redding、MitchellというExperienceの3人にDave Masonを加えた編成で、エンジニアはEddie Kramer。クレジット資料ではHendrixと当時のマネージャー兼プロデューサーChas Chandlerがプロデューサーとして記載されている。
『Electric Ladyland』は、Hendrixがスタジオそのものを楽器のように扱う姿勢を大きく発展させた作品だった。前2作から短期間で制作された一方、完成したアルバムにはサイケデリア、ブルース、ファンク、ソウル、長時間の即興、テープ処理など多様な方法が共存している。「Crosstown Traffic」は大掛かりな音響実験を前面に出す曲ではないが、櫛と薄紙で特殊な音を作る発想には、身近なものでも必要な音色が得られるなら使うというHendrixの柔軟さが表れている。
また、この曲はExperienceのリズム隊がはっきり聞こえる点でも重要である。『Electric Ladyland』ではJack Casady、Steve Winwood、Buddy Milesら多くのゲストが参加しているが、「Crosstown Traffic」はReddingとMitchellが基本的な推進力を担う。巨大なアルバムの中に、初期Experienceらしい3人の切れ味を残しながら、スタジオ上の小さな仕掛けを追加した曲と捉えられる。
歌詞の抜粋と和訳
タイトルの「Crosstown Traffic」は、文字通りには「街を横切る交通」や「市街地を横断する車の流れ」を指す。この曲では、目的地へ急いでいるのに進路を妨げる交通が、終わらせたいのになかなか終わらない人間関係へ置き換えられている。
さらに車の「速度」や「衝突」を思わせる表現が繰り返されることで、恋愛のすれ違いが心理的なものだけではなくなる。相手が障害物のように目の前へ現れ、語り手がそれを避けながら走ろうとする。かなり乱暴な比喩だが、その乱暴さが短く勢いのあるサウンドにはよく合っている。
サウンドと歌詞の考察
「Crosstown Traffic」の中心は、冒頭から飛び込んでくる短いギター・リフである。Hendrixは大きく歪ませたコードを長く伸ばすより、短い音をリズミカルに切り、ドラムと一緒に前へ跳ねる感覚を作っている。Mitch Mitchellのドラムも単純な直線ではなく、細かなアクセントを挟みながら勢いを維持する。そのため曲はハードロックの重さを持ちながら、同時にR&Bやファンクに近い軽快さを感じさせる。
特にユニークなのが、ギター・リフと重なる鼻にかかったような音である。これは一般的なカズーではなく、Hendrixが櫛と薄紙を使って作った音としてクレジットされている。ギターとほぼ同じ動きを重ねることで、リフの輪郭が太くなるだけでなく、少し漫画的で騒々しい音色になる。交通渋滞という日常的な苛立ちを扱う曲に、深刻すぎないユーモアを加える重要な仕掛けである。
ヴァースではさらに面白い空間の使い方が聞ける。Hendrixが歌い始めると、ギターは常に音を埋め続けるのではなく、短いアクセントを残して引く。その隙間をMitchellのドラムとReddingのベースが動くため、ボーカルとリズム隊が互いに押したり引いたりするように聞こえる。歌詞では語り手が「先へ進ませてくれ」と苛立っているのに、演奏では何度も一瞬ブレーキがかかり、すぐ再加速する。この小さな停止と前進が、混雑した道路を走る感覚と自然に重なる。
バックボーカルも曲を大きくしている。Noel ReddingとDave Masonが加わったコーラスは、Hendrix一人の不満を集団的な掛け声へ変える。しかも曲は長いギター・ソロへ逃げず、約2分半の中でリフ、ヴァース、コーラスを素早く切り替える。ギタリストとしてのHendrixを前面に出しながらも、演奏技巧を見せることより、リフと声とリズムを一つのフックへまとめることを優先しているのである。
この簡潔さは『Electric Ladyland』の中で特に効果的だ。アルバムには長い即興や音響的な実験がある一方、「Crosstown Traffic」はアイデアを短時間で提示して去っていく。それでもギターの刻み方、ファンキーなリズム、即席のカズー、コーラスという複数の特徴が詰まっており、単純には聞こえない。前へ進みたいのに邪魔される歌詞を、止まりそうで止まらないリズムへ変換したことで、言葉の比喩がそのまま演奏の感覚になっている。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Little Miss Lover」 by The Jimi Hendrix Experience
『Axis: Bold as Love』収録曲。ギターをメロディ楽器としてだけでなく、ドラムと噛み合うリズム楽器として使うHendrixのファンキーな側面がよく分かる。「Crosstown Traffic」の跳ねるグルーヴにつながる感覚を持った一曲である。
「Wait Until Tomorrow」 by The Jimi Hendrix Experience
同じく『Axis: Bold as Love』収録。男女関係の揉め事をユーモラスな物語へ変え、短いポップソングとしてまとめている。「Crosstown Traffic」の恋愛に対する軽い毒と、Hendrixのストーリーテラーとしての側面が好きなら相性がいい。
「Come On (Part I)」 by The Jimi Hendrix Experience
『Electric Ladyland』収録のEarl King作品のカバー。ブルースを土台にしながら、MitchellとReddingのリズム隊が強く前へ押し、Hendrixがその上を自由に動く。「Crosstown Traffic」よりギター演奏を長く味わえる関連曲である。
「Fire」 by The Jimi Hendrix Experience
デビュー作『Are You Experienced』収録曲。短い構成、強烈なドラム、ファンキーなギター、性的なユーモアを一気に詰め込んでいる。「Crosstown Traffic」と同様、Hendrixが長尺の即興だけでなく簡潔なロックソングにも優れていたことが分かる。
「If 6 Was 9」 by The Jimi Hendrix Experience
『Axis: Bold as Love』収録曲。「Crosstown Traffic」よりサイケデリックで自由な構成だが、他人に進路を決めさせず自分の方向へ進むという態度には共通点がある。Hendrixの個人主義がより大きなテーマとして表れた曲である。
まとめ
「Crosstown Traffic」は、Jimi Hendrixの魅力を長いギター・ソロではなく、約2分半のポップソングへ凝縮した曲である。短く切られるギター、Mitch Mitchellの跳ねるドラム、Noel Reddingのベースが忙しく前進し、櫛と薄紙で作った特殊な音がリフに奇妙な輪郭を加える。歌詞では終わらせたい関係を交通渋滞へ置き換え、前へ進みたい語り手の苛立ちを速度と衝突のイメージで表現している。その比喩を説明するだけでなく、演奏自体を加速と停止の連続として聞かせるところが巧みである。大規模な実験作『Electric Ladyland』の中で、Hendrixのリズム感覚、ユーモア、編曲の発想を最もコンパクトに味わえる一曲である。
参照元
- Jimi Hendrix公式サイト『Electric Ladyland』
- Jimi Hendrix公式サイト『Electric Ladyland Deluxe Edition』
- MusicBrainz『Electric Ladyland』
- Qobuz『Electric Ladyland』

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