発売日: 1980年4月
ジャンル: ポストパンク、ニュー・ウェイヴ、アート・ロック
The Feeliesのデビューアルバム『Crazy Rhythms』は、ポストパンクとニュー・ウェイヴの潮流の中で独自の地位を築いた作品だ。エネルギッシュでありながら緻密に構築されたリズム、繊細なギターの絡み合い、そして抑制されたボーカルが特徴で、バンドの静と動のコントラストが極めてユニークな音楽体験を提供している。DIYスピリットを反映したプロダクションも、このアルバムの重要な魅力だ。
The Feeliesは、ニュージャージー州を拠点に活動し、ルー・リードやトーキング・ヘッズの影響を受けつつ、ミニマリズムやアート・ロックの要素を取り入れたサウンドを展開。本作はその特徴を見事に体現しており、ギターとドラムのタイトなアンサンブルが全編にわたって際立っている。聴く者をじわじわと引き込むサウンドスケープは、リズムの反復や抑えたダイナミクスを活用し、リスナーを緊張感と解放感の間で揺さぶる。
以下、各トラックについて解説する。
1. The Boy with the Perpetual Nervousness
アルバムの幕開けを飾る楽曲で、控えめなボーカルと複雑なギターリフが印象的。緊張感のあるリズムが曲全体を支配しており、バンドのスタイルを端的に示す一曲だ。
2. Fa Cé-La
軽快でキャッチーなリズムが特徴の楽曲。ギターのジャングリーなサウンドとパーカッシブなドラムが絡み合い、ダンサブルで楽しい雰囲気を生み出している。アルバムの中でも特にライブ映えするナンバー。
3. Loveless Love
控えめなトーンで始まるが、徐々に緊張感を高める楽曲。ギターのアルペジオが美しく響き、感情的な深みを持ちながらもミニマリスティックなアプローチが際立つ。
4. Forces at Work
アルバムの中で最も実験的なトラック。複雑なリズムセクションとインストゥルメンタルのインタープレイが目立ち、バンドのアート・ロック的な側面を強調している。
5. Original Love
メロディアスなギターとシンプルなリズムが心地よい楽曲。反復するリフが中毒性を生み出し、控えめなボーカルが楽曲のクールな雰囲気を際立たせている。
6. Everybody’s Got Something to Hide (Except Me and My Monkey)
ビートルズのカバー曲でありながら、The Feeliesの独自性が色濃く反映されたアレンジ。オリジナルに比べ、リズムの緊張感が増し、ギターサウンドが前面に出た仕上がりになっている。
7. Moscow Nights
幽玄なギターと抑えたボーカルが特徴の楽曲で、冷たさと温かみが同時に感じられる。曲の展開が独特で、バンドの持つ実験性が表れている。
8. Raised Eyebrows
疾走感のあるギターリフとタイトなリズムセクションがアルバム終盤を盛り上げる一曲。反復するリズムが心地よく、テンションを高める。
9. Crazy Rhythms
アルバムのタイトル曲で、バンドの音楽性を象徴する楽曲。リズムの大胆な実験と、緊張感を持続させる構成が際立つ。控えめなボーカルとギターの響きが絡み合い、リスナーを不思議な没入感へと誘う。
アルバム総評
『Crazy Rhythms』は、The Feeliesが持つミニマリズムと緊張感を活かした音楽的冒険の結晶である。その緻密なリズムセクションとギターアレンジは、ポストパンクやニュー・ウェイヴファンのみならず、アート・ロックやインディー・ロックに興味を持つリスナーにも強く響く。本作は商業的には大きな成功を収めなかったものの、音楽的には革新的で、後のオルタナティブ・ロックシーンに大きな影響を与えた。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Talking Heads – More Songs About Buildings and Food
The Feeliesの緊張感あるリズムと通じる、ダンサブルで実験的な要素を持つアルバム。
Television – Marquee Moon
繊細で絡み合うギターラインと長尺の楽曲が特徴。『Crazy Rhythms』ファンに刺さるアート・ロックの傑作。
R.E.M. – Murmur
ジャングリーなギターと内省的な雰囲気が共通する、インディー・ロック黎明期の名盤。
The Modern Lovers – The Modern Lovers
シンプルながらエネルギッシュなサウンドとユーモアが、『Crazy Rhythms』のDIYスピリットに共通する一枚。
Wire – Pink Flag
ポストパンクのエッジとミニマリズムが光る作品で、The Feeliesの実験性と響き合う。
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