
発売日:2009年9月29日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ポスト・ハードコア、エモ、ゴシック・ロック、パワー・ポップ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Torch Song
- 2. Beautiful Thieves
- 3. End Transmission
- 4. Too Shy to Scream
- 5. Veronica Sawyer Smokes
- 6. Okay, I Feel Better Now
- 7. Medicate
- 8. I Am Trying Very Hard to Be Here
- 9. Sacrilege
- 10. Darling, I Want to Destroy You
- 11. Cold Hands
- 12. It Was Mine
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. AFI – Sing the Sorrow
- 2. AFI – Decemberunderground
- 3. My Chemical Romance – The Black Parade
- 4. Alkaline Trio – Crimson
- 5. Placebo – Meds
概要
AFIの8作目のスタジオ・アルバム『Crash Love』は、バンドのキャリアにおいて、パンク/ハードコア由来の攻撃性から、より洗練されたオルタナティヴ・ロック、グラム的な華やかさ、メロディ重視のロックへと明確に踏み込んだ作品である。AFIは1990年代初頭にカリフォルニアで結成され、当初はメロディック・ハードコアやホラー・パンクの文脈で活動していた。『Answer That and Stay Fashionable』『Very Proud of Ya』の時期には、短く速い曲、パンク的な勢い、若い怒りが中心にあったが、1999年の『Black Sails in the Sunset』以降、バンドはゴシックな美学、ドラマ性、暗いロマンティシズムを強めていく。
2000年の『The Art of Drowning』、そして2003年のメジャー移籍作『Sing the Sorrow』は、AFIの変化を決定づけた作品だった。ハードコアの激しさ、エモの感情表現、ゴシック・ロックの陰影、ポスト・ハードコアの緊張感を融合させ、AFIは単なるパンク・バンドから、独自の美学を持つロック・バンドへと進化した。さらに2006年の『Decemberunderground』では、ニュー・ウェイヴやエレクトロニックな要素も取り入れ、より大きな商業的成功を獲得した。
『Crash Love』は、その後に発表された作品であり、前作の電子的な質感や暗いクラブ感覚をやや後退させ、ギター・ロックとしての骨格を前面に出している。ここでのAFIは、初期のハードコアへ単純に戻るのではなく、むしろメロディ、コーラス、ギターの響き、歌詞の批評性を整理し、よりクラシックなロック・アルバムとして作品を構築している。『Sing the Sorrow』や『Decemberunderground』にあった強いゴシック演出に比べると、本作は明るい音色や開放的なフックも多い。しかし、その内側には、虚栄、名声、自己演出、恋愛の破綻、社会的な空虚さへの鋭いまなざしがある。
アルバム・タイトルの『Crash Love』は、衝突する愛、壊れながら進む愛、あるいは現代的な欲望のクラッシュを連想させる。AFIの音楽では、愛はしばしば救済ではなく、破壊、執着、演技、喪失と結びつく。本作でも、恋愛は純粋な感情として描かれるだけではない。そこには消費文化、スター性、虚飾、自己イメージ、他者に見られることへの欲望が絡み合っている。特に歌詞の面では、現代のセレブリティ文化やメディア的な自己演出への批判が随所に見られる。
音楽的には、Jade Pugetのギターが大きな役割を果たしている。『Crash Love』では、重厚なリフだけでなく、きらびやかなアルペジオ、パワー・ポップ的なコード感、グラム・ロックを思わせる華やかなフレーズが使われている。Davey Havokのヴォーカルも、叫びや激情だけに頼らず、より旋律的で演劇的な表現を強めている。彼の声は、パンク的な切迫感を残しながらも、ここではロック・フロントマンとしての艶やかさと、皮肉を帯びた語りの性格を獲得している。
同時代の文脈で見ると、『Crash Love』は2000年代後半のエモ/ポスト・ハードコア勢が、次の段階へ進もうとしていた流れと重なる。My Chemical Romance、The Used、Thursday、Taking Back Sundayなど、多くのバンドが、ハードコアやエモの枠を越えて、より大きなロック・サウンドやコンセプト性へ向かっていた。AFIの場合、その変化はよりゴシックで美意識の強い形を取っていたが、『Crash Love』ではさらに、1970年代グラム・ロックや1980年代オルタナティヴ・ロック、パワー・ポップの要素も感じられる。
本作は、AFIのファンの間でも評価が分かれる作品である。初期の激しさや『Sing the Sorrow』の暗い劇性を求めるリスナーには、やや整いすぎた作品に聴こえる可能性がある。一方で、AFIのソングライティング、メロディ構築、歌詞の批評性、ギター・ロックとしての完成度に注目すると、『Crash Love』は非常に重要なアルバムである。バンドが過去のスタイルに安住せず、より明確なロック・ソング集として自分たちを再定義した作品といえる。
全曲レビュー
1. Torch Song
オープニング曲「Torch Song」は、『Crash Love』の方向性を端的に示す楽曲である。タイトルの「Torch Song」は本来、失恋や片思いを歌う感傷的なポピュラー・ソングを指す言葉だが、AFIはその言葉を単なるバラード的な意味ではなく、燃え残る感情、破滅的な愛、そして自己演出の炎として扱っている。冒頭から鳴るギターは力強く、アルバムを静かに始めるのではなく、即座にロック・バンドとしての存在感を示す。
サウンド面では、過去作のゴシックな重さに比べ、より開放的で明るいギターの響きが印象的である。しかし、その明るさは単純なポジティヴさではない。コード感にはどこか焦燥があり、Davey Havokのヴォーカルも、華やかに歌い上げながら内側に毒を含んでいる。AFIらしい劇的なコーラスは健在だが、ここでは過剰な暗黒性よりも、鋭く磨かれたロック・ソングとしての機能が重視されている。
歌詞では、愛と崩壊、憧れと自己破壊の関係が暗示される。AFIにおいて愛はしばしば、癒しではなく、火傷のように残るものとして描かれる。この曲でも、感情は美しいものとして扱われる一方で、同時に自分を焼き尽くす危険なものとして響く。アルバム冒頭に置かれることで、『Crash Love』が愛を甘いロマンスとしてではなく、虚飾と痛みを含んだ現代的な感情として描く作品であることを示している。
2. Beautiful Thieves
「Beautiful Thieves」は、本作の中でも特にシングル向きのフックを持つ楽曲であり、AFIがメロディアスなオルタナティヴ・ロックへ接近したことを明確に示している。タイトルは「美しき盗人たち」という意味を持ち、美しさと搾取、魅力と犯罪性が同時に提示される。これは『Crash Love』全体に通じるテーマ、すなわち外見的な美しさの背後にある空虚さや暴力性を象徴している。
ギターは鋭さを保ちながらも、非常に整理された響きを持つ。リズムはタイトで、曲全体にはスピード感があるが、ハードコア的な暴走ではなく、ラジオ向けのロック・ソングとしての明快な構成が目立つ。サビは大きく開け、Davey Havokの歌声は滑らかにメロディを描く。AFIの中期以降の特徴である、暗さとキャッチーさの両立がこの曲では特に分かりやすい。
歌詞のテーマは、魅力的な人物たちが他者の心や価値を奪っていくような構図である。ここでの「盗み」は物質的な犯罪だけでなく、感情、注目、純粋さ、自己像を奪う行為として解釈できる。セレブリティ文化や外見至上主義への批評としても読むことができ、AFIが本作で扱う社会的な視点が浮かび上がる。美しさに魅了されながら、その美しさが持つ冷酷さも見逃さない点に、曲の鋭さがある。
3. End Transmission
「End Transmission」は、タイトルから通信の終了、断絶、最後のメッセージといったイメージを喚起する楽曲である。『Crash Love』の中では、疾走感とメロディアスさのバランスがよく、AFIらしいドラマ性を保ちながらも、非常にコンパクトなロック・ソングとして成立している。
音楽的には、ギターの刻みとリズムの推進力が中心にある。過去のAFIに見られたポスト・ハードコア的な緊張感は残っているが、本作ではそれがよりポップなフレームに収められている。サビに向けてメロディが大きく広がり、Davey Havokの声が曲の感情を引き上げる。彼のヴォーカルは、叫びではなく、張り詰めたメロディによって切迫感を作る方向にある。
歌詞では、関係の終わりや、言葉が届かなくなる瞬間が描かれている。通信の終わりという比喩は、恋愛だけでなく、現代社会におけるコミュニケーションの断絶にもつながる。何かを伝えようとしても、それが受信されない。あるいは、伝える前に回線が切れてしまう。その不安が、曲の勢いの中に含まれている。明快なロック・ソングでありながら、感情的には別れや消失の気配を漂わせる一曲である。
4. Too Shy to Scream
「Too Shy to Scream」は、タイトルの時点でAFIらしい矛盾を抱えた楽曲である。「叫ぶには内気すぎる」という言葉は、強い感情を持ちながら、それを表に出せない状態を示している。AFIの音楽はしばしば、内面の激しさと外面的な美学の間にある緊張を扱うが、この曲はその構図を非常に分かりやすく表している。
サウンドは比較的軽快で、パワー・ポップ的な明るさもある。ギターは硬質ながら、メロディには弾むような感覚があり、アルバムの中でもポップな側面が強い曲である。しかし、歌詞のテーマは単純に明るくはない。外向的に振る舞えない人間の不安、自己表現への恐れ、感情を抑え込むことによる苦しさが感じられる。
Davey Havokの歌唱は、この曲で特に演劇的である。彼は叫ぶのではなく、叫べない状態を歌う。これはAFIの成熟を示す部分でもある。初期であれば怒りを直接的に吐き出していたかもしれない感情を、ここではメロディと語感によって表現している。曲の軽快さとテーマの内向性が対照をなし、現代的な不安をポップな形で包み込んだ楽曲になっている。
5. Veronica Sawyer Smokes
「Veronica Sawyer Smokes」は、映画『Heathers』の登場人物Veronica Sawyerを連想させるタイトルを持つ曲である。タイトルの時点で、ティーンエイジの疎外感、シニカルな青春、自己演出、危うい魅力といった要素が浮かび上がる。AFIはしばしばポップ・カルチャー的な参照を、単なる引用ではなく、現代的なアイデンティティの不安と結びつけてきた。この曲もその一例である。
音楽的には、やや跳ねるようなリズムと鋭いギターが組み合わされ、アルバム中盤に独特の色を与えている。曲にはパンク的な短さと勢いがありながら、メロディの作りは洗練されている。AFIが持つゴシックな暗さはここでは控えめだが、皮肉めいた雰囲気と、少し危険な華やかさがある。
歌詞では、若さ、反抗、外見的なクールさ、そしてその背後にある不安が描かれているように聴こえる。「煙草を吸う」という行為は、単なる生活描写ではなく、大人びた自己演出、退廃、周囲への挑発として機能する。AFIはこの曲で、青春を無垢なものとしてではなく、すでにメディアやイメージによって演じられるものとして捉えている。『Crash Love』の中でも、ポップ・カルチャー批評的な側面が強い楽曲である。
6. Okay, I Feel Better Now
「Okay, I Feel Better Now」は、タイトルだけを見ると回復や安心を示すように見えるが、AFIの文脈ではその言葉は単純には信用できない。「大丈夫、もう気分はよくなった」という言い回しには、本当に回復した人間の穏やかさというより、自分に言い聞かせるような危うさがある。これは、感情の傷をポップな言葉で覆い隠す本作のテーマとも重なる。
サウンドは、アルバムの中でもややミッドテンポ寄りで、メロディを丁寧に聴かせる構成になっている。ギターは過度に攻撃的ではなく、空間を作るように鳴る。Davey Havokの歌声も、ここでは激しさよりも抑制が重要である。感情を爆発させるのではなく、傷ついた状態を静かに観察するような歌唱が曲の中心にある。
歌詞では、精神的な不安定さ、自己欺瞞、回復への願望が感じられる。「大丈夫」と言うことは、本当に大丈夫であることを意味しない場合がある。むしろ、それは周囲に心配されないため、あるいは自分が崩れないための仮面になる。この曲は、その仮面の薄さを描いている。『Crash Love』の中でも、内省的で心理的な深みを持つ楽曲である。
7. Medicate
「Medicate」は、本作のリード・シングルであり、アルバムのテーマを最も明快に示す曲の一つである。タイトルは「投薬する」「薬で処置する」という意味を持ち、現代社会における精神的な麻痺、痛みの管理、感情の人工的な調整を連想させる。AFIはここで、個人的な苦痛だけでなく、文化全体が痛みをどう処理しようとしているのかを描いている。
音楽的には、非常に強いフックを持ったオルタナティヴ・ロック・ナンバーである。ギター・リフは鋭く、リズムは推進力があり、サビは大きく開ける。『Crash Love』の中でも最も即効性のある曲であり、AFIが商業的なロック・ソングを作る能力を持っていることを示している。一方で、曲の表面がキャッチーであるほど、歌詞の冷たさや皮肉が際立つ。
歌詞では、感情の痛みを薬によって処理しようとする姿勢が描かれる。ただし、それは単に医療や薬物を批判する曲ではない。より広く、痛みを感じること、悲しむこと、崩れることさえも許されず、すぐに機能回復を求められる社会への批評として読める。愛や欲望、名声や空虚さによって傷ついた人間が、その傷を本当に理解する前に「治療」されてしまう。この曲は、その不気味さをポップな形で提示している。
8. I Am Trying Very Hard to Be Here
「I Am Trying Very Hard to Be Here」は、タイトルの長さと率直さが印象的な楽曲である。「ここに存在しようと、とても懸命に努力している」という言葉は、存在そのものが困難になっている状態を示している。AFIの歌詞において、存在すること、見られること、消えずにいることは重要なテーマであり、この曲ではそれが非常に直接的に表現されている。
サウンドは、比較的明るいギターと軽快なリズムを持ちながら、内面には強い不安がある。曲は前へ進むが、その前進は自然なものではなく、努力によってかろうじて保たれているように聴こえる。Davey Havokのヴォーカルは、タイトルの言葉を単なる宣言ではなく、切実な自己確認として響かせる。
歌詞のテーマは、自己不在、疎外感、現実への接続の困難である。現代的な生活の中では、人は常に誰かに見られ、評価され、消費される一方で、本当に「ここにいる」と感じられないことがある。この曲は、その感覚を扱っている。『Crash Love』がセレブリティ文化や自己演出を批判する作品だとすれば、この曲はその内側で主体がどう揺らぐかを示している。華やかなロック・サウンドの中に、存在論的な不安が潜む重要曲である。
9. Sacrilege
「Sacrilege」は、「冒涜」を意味するタイトルを持つ楽曲であり、AFIのゴシック的、宗教的イメージに近い側面を本作の中で強く感じさせる曲である。タイトルが示す通り、ここでは聖なるものを汚す行為、あるいは社会的・精神的な規範への反抗がテーマとなる。AFIは初期から、宗教的な語彙や闇のイメージを用いながら、個人の欲望や罪悪感を表現してきた。この曲はその系譜にある。
音楽的には、アルバム後半に緊張感を与える硬質なロック・ナンバーである。ギターは鋭く、リズムは引き締まっており、曲全体に攻撃的な空気がある。『Crash Love』は比較的メロディアスな作品だが、「Sacrilege」ではAFIの暗い美学が再び前面に出る。サビのメロディはキャッチーでありながら、言葉の響きには不穏さがある。
歌詞では、罪、欲望、拒絶、聖性の破壊といったイメージが交錯する。冒涜とは、単に神聖なものを傷つける行為ではなく、既存の価値観に対して別の欲望や真実を突きつける行為でもある。AFIはここで、自分たちのゴシック・ロック的なルーツを完全には捨てていないことを示している。アルバム全体の中で、暗さと攻撃性を補強する重要な楽曲である。
10. Darling, I Want to Destroy You
「Darling, I Want to Destroy You」は、タイトルだけで本作の愛の描き方を象徴するような楽曲である。「愛しい人、君を破壊したい」という言葉には、親密さと暴力性、愛情と支配欲、美しさと残酷さが同時に含まれている。『Crash Love』というタイトルの核心に最も近い曲の一つといえる。
サウンドは華やかで、メロディには甘さがある。しかし、その甘さは歌詞の破壊願望と強いコントラストを作る。AFIはこうした美しさと暴力性の同居を得意としており、この曲ではそれが非常に分かりやすい形で表れている。ギターは鋭くもポップで、コーラスには強いフックがある。聴きやすさと不穏さが同時に存在する点が、この曲の魅力である。
歌詞では、恋愛における所有欲、嫉妬、自己破壊的な欲望が描かれる。相手を愛することが、相手を自由にするのではなく、むしろ傷つけたい、壊したい、支配したいという欲望へ変わってしまう。その危険な心理を、曲は直接的なタイトルで提示する。ここでの「破壊」は、物理的な暴力というより、相手のイメージ、関係性、自己像を壊すような精神的な力として読むことができる。AFIの暗いロマンティシズムが、メロディアスなロック・ソングの形で表現された楽曲である。
11. Cold Hands
「Cold Hands」は、タイトルが示す通り、冷たさ、距離、死の気配、感情の喪失を連想させる曲である。アルバム終盤に置かれることで、『Crash Love』の華やかさの裏にある冷えた感情を浮かび上がらせる役割を担っている。AFIはしばしば、身体的なイメージを感情の比喩として使うが、この曲の「冷たい手」も、愛情の不在や関係の終わりを象徴する。
音楽的には、比較的重く、陰影のあるサウンドが特徴である。ギターは明るく広がるというより、硬く冷たい質感を持ち、リズムも緊張感を保っている。Davey Havokのヴォーカルは、感情を叫ぶより、凍りついたものをなぞるように歌う。ここでは、熱い激情よりも、感情が冷めていく過程が重要である。
歌詞のテーマは、親密さの消失、触れ合いの不可能性、関係の冷却である。手は人と人をつなぐ身体の部位だが、それが冷たいということは、つながりが生きたものではなくなっていることを示す。『Crash Love』の中で愛は何度も登場するが、その多くはすでに破損し、演じられ、消費され、冷えきっている。「Cold Hands」は、その終末感を端的に表した楽曲である。
12. It Was Mine
ラスト曲「It Was Mine」は、『Crash Love』の締めくくりとして非常に重要な楽曲である。タイトルは「それは私のものだった」という意味を持ち、喪失、所有、記憶、過去への執着を示している。本作全体が、愛、名声、自己像、虚飾の崩壊を描いてきたとすれば、この曲は最後に、それらを失った後の静かな確認として響く。
サウンドは、アルバムの終曲らしく、やや落ち着いたトーンを持つ。派手に爆発して終わるのではなく、余韻を残しながら閉じていく構成である。AFIのドラマ性はここで抑制され、Davey Havokの歌声が感情の中心を担う。大きな怒りや破壊衝動よりも、失われたものを見つめる冷静さがある。
歌詞では、かつて自分のものだった何かが、すでに手元にないことが示される。それは愛かもしれないし、純粋さかもしれないし、自己イメージ、若さ、名声、信念かもしれない。重要なのは、それが失われた後に初めて「自分のものだった」と認識される点である。所有は過去形になって初めて意識される。この曲は、その痛みを静かに描く。
アルバム全体の終わりとして、「It Was Mine」は明確な救済を与えない。しかし、破壊的な愛や虚栄の中を通過した後に残るものを見つめることで、作品に深い余韻を与えている。『Crash Love』は派手なロック・アルバムでありながら、最後には喪失の感覚へ着地する。その構成によって、本作は単なるメロディアスなオルタナティヴ・ロック作品を越え、AFIらしい暗いロマンティシズムを保っている。
総評
『Crash Love』は、AFIのキャリアにおいて、非常に興味深い転換点に位置するアルバムである。初期のメロディック・ハードコアやホラー・パンクから出発したバンドが、『Sing the Sorrow』でゴシックかつ壮大なポスト・ハードコアへ到達し、『Decemberunderground』でエレクトロニックな暗さを取り入れた後、本作ではギター・ロックとしての明快さを強めた。つまり『Crash Love』は、AFIが自分たちの劇的な美学を、よりクラシックでソングライティング重視の形式へ落とし込んだ作品である。
本作の特徴は、音楽的な整理と歌詞の批評性の結びつきにある。サウンドは過去作に比べて比較的明るく、ギターも開放的に鳴る場面が多い。楽曲はコンパクトで、サビは覚えやすく、オルタナティヴ・ロックとして非常に聴きやすい。しかし、歌詞の中では、セレブリティ文化、自己演出、外見的な美しさ、愛の破壊性、感情の麻痺、存在の不安が繰り返し扱われる。表面は磨かれているが、内側には深い空虚がある。この二重性が『Crash Love』の核である。
AFIは本作で、過去の自分たちの暗さを完全に捨てたわけではない。むしろ、その暗さをよりポップな形式へ移し替えている。「Medicate」や「Beautiful Thieves」のような曲は、非常にキャッチーでありながら、現代的な空虚や欲望の消費を鋭く描く。「Darling, I Want to Destroy You」では、甘いメロディと破壊的な愛が同時に提示される。「It Was Mine」では、華やかさの後に残る喪失が静かに描かれる。これらの曲は、AFIが単なるロック・バンドではなく、イメージ、欲望、身体性、社会的視線を扱う美学的なバンドであることを示している。
一方で、本作はAFIのディスコグラフィーの中で、最も激しい作品ではない。初期のパンク的な速度や、『Sing the Sorrow』の切迫したダークネスを期待すると、『Crash Love』はやや整いすぎていると感じられる可能性がある。ハードコア由来の荒々しさは薄まり、プロダクションは洗練され、曲はメジャーなロック・ソングとしての輪郭を持っている。しかし、それを単なる軟化と見るのは一面的である。本作では、AFIが激しさではなく、構成力、メロディ、言葉の皮肉、音像の明快さによって表現を進めている。
歌詞の面では、『Crash Love』は特に現代的な作品である。ここで描かれる愛は、純粋な内面の問題ではなく、常に誰かに見られ、評価され、演じられるものとして存在している。美しい盗人たち、薬で処理される痛み、ここに存在しようと努力する主体、破壊したいほどの愛、過去形でしか所有できないもの。これらのモチーフは、2000年代後半のメディア文化や、自己イメージが商品化される時代の不安と強く結びついている。
音楽史的には、『Crash Love』は2000年代エモ/ポスト・ハードコア以降のバンドが、どのように大きなロック・ソングへ移行したかを示す作品でもある。My Chemical Romanceが『The Black Parade』で劇場的なロックへ向かったように、AFIもまた、パンクの枠を越えて、より広いロックの文法を取り込んだ。ただし、AFIの場合、その表現はより冷たく、耽美的で、皮肉を帯びている。派手なコンセプト・アルバムというより、きらびやかな表面と空虚な内面を持つ、現代的なロック・アルバムとして成立している。
『Crash Love』は、AFIの中期以降のメロディアスな側面を好むリスナー、2000年代オルタナティヴ・ロックやエモから派生した華やかなギター・ロックに関心のあるリスナーに適した作品である。また、ゴシックな美意識を持ちながらも、過度に重く沈まないロック・アルバムを求めるリスナーにも聴きやすい。AFIの最も代表的な作品としては『Sing the Sorrow』や『Decemberunderground』が挙げられることが多いが、『Crash Love』はバンドのソングライティング能力、メロディの洗練、そして現代文化への批評性を理解するうえで重要な一枚である。
おすすめアルバム
1. AFI – Sing the Sorrow
AFIのメジャー移籍後の飛躍を決定づけた代表作で、ポスト・ハードコア、エモ、ゴシック・ロック、パンクの要素が高い緊張感で融合している。『Crash Love』よりも暗く、劇的で、感情の切迫感が強い。AFIの美学を理解するうえで最も重要な作品の一つである。
2. AFI – Decemberunderground
『Crash Love』の前作にあたり、エレクトロニックな要素、ニュー・ウェイヴ的な質感、ゴシックな冷たさを取り入れたアルバムである。「Miss Murder」のヒットによってバンドの知名度をさらに広げた作品でもある。『Crash Love』の洗練されたメロディ感覚は、この作品からの流れとして捉えることができる。
3. My Chemical Romance – The Black Parade
2000年代エモ/オルタナティヴ・ロックが、パンクの枠を越えて劇場的なロックへ拡張した代表的作品である。AFIとは表現の方向性が異なるが、ゴシックなイメージ、強いメロディ、死や喪失を扱うドラマ性という点で関連性が高い。『Crash Love』の時代的背景を理解するうえでも重要なアルバムである。
4. Alkaline Trio – Crimson
パンク由来のバンドが、ゴシックなムードとメロディアスなロックを融合させた作品である。暗い恋愛観、死のイメージ、キャッチーなコーラスが特徴で、AFIの中期以降の方向性と親和性が高い。『Crash Love』のメロディアスでダークな側面を好むリスナーに適している。
5. Placebo – Meds
耽美的なオルタナティヴ・ロック、依存、欲望、自己破壊的な関係性を扱った作品として、『Crash Love』と響き合うアルバムである。PlaceboはAFIよりもヨーロッパ的でグラム/オルタナティヴ色が強いが、冷たい美しさと不安定な感情をロック・ソングに落とし込む点で共通している。

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