Country House by Blur(1995)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Country House(カントリー・ハウス)」は、Blurが1995年に発表した4枚目のアルバム『The Great Escape』からのリード・シングルとしてリリースされた楽曲であり、90年代ブリットポップにおける「Blur vs Oasis」の象徴的瞬間として語り継がれる名曲である。

歌詞の主人公は、都会での過剰労働と消費文化に疲れ果てた男。
彼はすべてを捨てて田舎に豪華な「カントリー・ハウス(郊外の別荘)」を買い、そこで静かな生活を手に入れた――はずなのだが、歌詞を読み解くと、その田舎生活もまた虚構や退屈、孤独に満ちていることがわかる。

つまりこの曲は、「都会のストレス」と「郊外の安逸」のどちらも風刺しながら、「現代人は本当にどこかに“逃げ場”を持てるのか?」という問いを投げかけている。
その風刺はユーモラスでキャッチーなメロディに乗っているが、根底にあるのは鋭い社会批評であり、Blurらしい知的なポップソングの真骨頂である。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲がリリースされた1995年は、いわゆる「ブリットポップ戦争」の最盛期だった。
Blurの「Country House」とOasisの「Roll With It」が同日リリースされたことで、全英チャート1位争いが過熱。メディアはこれを「南(Blur)vs 北(Oasis)」「芸術系vs労働者階級」「皮肉vs情熱」として煽り立てた。

結果的に「Country House」は1位を獲得し、Blurにとって初の全英No.1シングルとなった。
だが、この勝利は同時にブリットポップの頂点であり終焉の兆しでもあった。
過剰な消費と対立構図の中でBlurが描いた「逃避者」の姿は、そのままブリットポップという現象全体の自画像だったのかもしれない。

また、歌詞のインスピレーションは、Blurの旧マネージャーであるデイヴ・バルフェが実際に都会を離れ、田舎に豪邸を建てて隠居生活を始めたという逸話から来ていると言われている。
だが、その背景を知らずとも、「Country House」はあらゆる“現代人の逃避願望”に通じる物語として響く。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Blur “Country House”

He lives in a house, a very big house in the country
彼は住んでいる 田舎のとても大きな家に

Watching afternoon repeats and the food he eats in the country
午後はテレビの再放送を見て のんびり食事をとる

He takes all manner of pills and piles up analyst bills in the country
いろんな薬を飲みながら
精神分析医の請求書を山ほどためこんでいる

It’s like an animal farm, that’s the rural charm in the country
まるで“アニマル・ファーム”みたいだ
それが田舎の魅力なんだとさ

4. 歌詞の考察

この曲の魅力は、一見“楽しげ”で“気楽”な田舎暮らしを歌っているように見えて、実はその裏に都市生活の病理と、逃避先の空虚さを同時に描いている点にある。

「彼は田舎の大きな家に住んでいる」という設定は、理想的なセカンドライフのようだが、そこに描かれるのは再放送ばかり見て、薬漬けで、精神分析医にかかり続けるという不健康な暮らし。
つまり“逃げ込んだ先でさえ癒されていない”という逆説が、この曲の中心にある。

また「It’s like an Animal Farm」という一節は、ジョージ・オーウェルの風刺小説『動物農場』を引き合いに出し、「郊外での自由ですら、見えないシステムに管理されているのではないか」という、近代社会への批判が込められている。

この曲の語り手は、田舎暮らしを小馬鹿にしながらも、どこか羨望しているようでもあり、その視点の揺らぎがこの曲の多義性を生んでいる。
つまり、「Country House」は単なる風刺ソングではなく、現代に生きる誰もが感じる“逃げたいけど逃げきれない”という矛盾を、ポップに描いた人間味ある楽曲なのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Common People by Pulp
    労働者階級の生活を“体験”しようとする上流階級の若者を痛烈に描いた風刺歌。階級と欲望の交差点。

  • Parklife by Blur
    都会の無意味な日常と皮肉な幸福を描いた、Blurのもう一つの代表的社会観察ソング。

  • Girls & Boys by Blur
    享楽と無気力の入り混じった90年代ユースカルチャーの光景を、ダンサブルに描く名曲。

  • Suburbia by Pet Shop Boys
    郊外の退屈と暴力性を描いた1980年代のエレクトロ・ポップ。テーマと視点が重なる。

6. 逃げた先にも「救い」はあるのか?

「Country House」は、現代における“理想のライフスタイル”という幻想に対する鋭い問いかけである。
都会に疲れ、消費に疲れ、情報に疲れた人々が、「どこか静かな場所でやり直したい」と夢見るとき、その先に本当の自由はあるのだろうか?

Blurはこの曲でその幻想を笑いながらも、実はその笑いの背後に誰もが抱える不安や孤独を忍ばせている。
それがこの曲の真の強さであり、ただの風刺でもユーモアでもない、ポップソングという形をとった社会哲学なのである。

そしてその問いは、1995年のイギリスだけでなく、今日の私たちにもそのまま突きつけられている。
もしあなたが、何かから逃げたくなった時、ふと思い出してほしい——
**その“カントリー・ハウス”は、本当に安らぎの場所なのか?**と。

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