発売日: 2010年5月3日
ジャンル: エレクトロニック、ジャズ・フュージョン、アヴァンギャルド・ヒップホップ
『Cosmogramma』は、Flying Lotusがサウンドの境界をさらに押し広げた壮大なアルバムであり、彼のキャリアにおける重要なマイルストーンである。この作品では、エレクトロニカ、ヒップホップ、ジャズ、ファンク、サイケデリックなど、多彩なジャンルが緻密に織り交ぜられている。祖母Alice Coltraneの霊的な影響や、叔父John Coltraneから受け継いだジャズの精神が色濃く反映されており、宇宙的なスケールとスピリチュアルなテーマを内包している。Flying Lotusの卓越したビートメイキングと複雑なサウンドスケープが、夢幻的で緻密な音の旅へとリスナーを誘う。
各曲ごとの解説:
- Clock Catcher
アルバムの冒頭を飾る「Clock Catcher」は、細かく刻まれるビートと跳ねるようなベースラインが絡み合い、緊張感のあるオープニングを形成している。わずか1分強の短さながら、複雑なリズムとサウンドデザインが印象的。 - Pickled!
続く「Pickled!」は、シンセとブロークンビートが躍動するトラック。ジャズ的な即興演奏の要素を取り入れたビートが、飛び跳ねるようなテンポ感で進行し、サウンドに奥行きを与えている。 - Nose Art
「Nose Art」は、グリッチ・ホップの要素が際立つトラックで、歪んだシンセと不規則なビートが織りなすカオス的な展開が特徴。エレクトロニックサウンドが主体となり、緊張感のある流れを生み出している。 - Intro//A Cosmic Drama
「Intro//A Cosmic Drama」は、タイトルの通り宇宙的な雰囲気を持つトラックで、神秘的なシンセサウンドが広がる。徐々に盛り上がる構成が、アルバム全体のテーマを予感させる。 - Zodiac Shit
この曲は、Flying Lotusの中でも特に人気の高いトラックで、グルーヴィーなベースラインとシンセのメロディが印象的。ファンクとジャズの要素を巧みに融合させ、ビートが絶えず進化する。 - Computer Face//Pure Being
複雑に絡み合うビートとシンセサウンドが支配する「Computer Face//Pure Being」は、テクノロジーと人間性の相克をテーマにしたかのような曲。音のレイヤーが次々と重なり、聴き手を圧倒する。 - …And the World Laughs with You (feat. Thom Yorke)
RadioheadのThom Yorkeをゲストに迎えたこの曲は、サイケデリックで幽玄な雰囲気を持つ。Yorkeの不気味で繊細なボーカルが、ディープなビートと共鳴し、異次元のサウンド体験を提供する。 - Arkestry
ジャズの影響が色濃く反映された「Arkestry」は、サン・ラやJohn Coltraneのスピリチュアル・ジャズを彷彿とさせる一曲。管楽器やアコースティックな要素が加わり、アブストラクトなビートと調和している。 - MmmHmm (feat. Thundercat)
Thundercatのファンキーなベースが際立つ「MmmHmm」は、フュージョンジャズのエッセンスを持つ。柔らかなメロディとリズムが織り交ぜられ、Thundercatの演奏が音の流れを豊かにしている。 - Do the Astral Plane
「Do the Astral Plane」は、ダンスフロアを意識したグルーヴィーなトラックで、リズミカルなビートとキャッチーなシンセが際立つ。コズミックなテーマを持ちながらも、軽快さが感じられる一曲だ。 - Satelllliiiiiiiteee
エクスペリメンタルなシンセが空間を切り裂くように鳴り響き、浮遊感のある音像が広がる。「Satelllliiiiiiiteee」は、無重力状態を表現するかのような、幻想的なサウンドスケープを展開している。 - German Haircut
「German Haircut」は、ビートの歪みとジャズの自由なリズムが融合した一曲で、緻密なサウンドデザインが印象的。音のディテールが非常に細かく、リスナーを深く引き込む。 - Recoiled
「Recoiled」は、アブストラクトで実験的なビートが特徴のトラックで、不穏な雰囲気と強い緊張感を持つ。複雑なリズム構成が、アルバム全体の中でも特に際立っている。 - Dance of the Pseudo Nymph
シンセサイザーが空間を漂い、ビートが控えめに刻まれる「Dance of the Pseudo Nymph」。繊細な音の流れが続き、アンビエントな雰囲気を漂わせるトラックだ。 - Drips//Auntie’s Harp
「Drips//Auntie’s Harp」は、Enoのサウンドスケープを思わせるアンビエントなトラックで、エレクトロニカとアコースティックな音が調和している。心地よい浮遊感が聴く者を包み込む。 - Table Tennis (feat. Laura Darlington)
Laura Darlingtonの穏やかなボーカルが絡むこの曲は、タイトル通り、卓球のピンポン音を取り入れたユニークなアレンジが特徴。ミニマルなビートとリズムが徐々に展開される。 - Galaxy in Janaki
アルバムのフィナーレを飾る「Galaxy in Janaki」は、Flying Lotusのサウンドの総まとめのようなトラック。壮大なスケール感と細部にわたる緻密なサウンドデザインが、アルバム全体を締めくくる。
アルバム総評:
『Cosmogramma』は、Flying Lotusが音楽の限界を押し広げ、ジャンルを超えた独創的なサウンドを提示した作品である。エレクトロニカ、ジャズ、ヒップホップ、アンビエントといった多様な要素を取り入れつつも、宇宙的なスケールとスピリチュアルなテーマが一貫してアルバム全体を貫いている。特にThom Yorkeとのコラボレーション曲「…And the World Laughs with You」や、Thundercatのベースが光る「MmmHmm」は、Flying Lotusのクリエイティブなアプローチを象徴する楽曲だ。アルバム全体を通して、複雑でありながらも深く没入できるサウンドが広がっており、リスナーを未知の音楽体験へと誘う一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Until the Quiet Comes by Flying Lotus
『Cosmogramma』の続編とも言える作品で、さらに洗練されたサウンドと幻想的な世界観が展開されている。静けさと混沌が共存する、深遠なアルバム。 - You’re Dead! by Flying Lotus
ジャズ、ヒップホップ、ファンクの融合をさらに推し進め、死と霊的なテーマを扱ったアルバム。『Cosmogramma』のスピリチュアルな要素が好きな人には必聴。 - Black Focus by Yussef Kamaal
ロンドンのジャズシーンから生まれたこの作品は、ジャズとエレクトロニカ、ヒップホップを融合したサウンドが特徴。Flying Lotusのジャズ的アプローチに共通点がある。 - To Pimp a Butterfly by Kendrick Lamar
Kendrick Lamarのこの名作は、ジャズとヒップホップを融合した革新的なアルバム。Thundercatも参加しており、『Cosmogramma』のサウンドを楽しんだリスナーに響く要素が多い。 - The Epic by Kamasi Washington
スピリチュアルジャズと現代的なサウンドを融合させた大作。ジャズと宇宙的なテーマが『Cosmogramma』と共鳴し、壮大な音楽体験を提供する。
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