
1. 歌詞の概要
プリンスの「Controversy」は、1981年にリリースされたアルバム『Controversy』の表題曲であり、彼のアーティストとしての姿勢を最も象徴的に示した楽曲のひとつである。歌詞は社会的・個人的な「論争」や「物議」をテーマにしており、プリンス自身が世間から浴びてきた好奇の目や偏見に真正面から応答する形をとっている。
「彼は黒人か白人か?」「ゲイなのかストレートなのか?」といった当時のメディアや社会が投げかけた問いに対し、プリンスは挑発的に問い返す。さらに「Why don’t you call me sometime?」というフレーズで、世間の憶測を軽妙にかわしながら、自らの存在をポップ・アイコンとして確立していくのだ。歌詞全体は挑発的でありながらもユーモアに満ち、アイデンティティの揺らぎや社会的規範への挑戦を音楽として体現している。
サウンドはファンクを基調にしつつ、シンセサイザーやニューウェーブ的な要素を取り入れ、冷たい機械的なリズムと肉体的なグルーヴが融合している。この楽曲は単なるクラブ向けナンバーではなく、80年代のプリンスを象徴する哲学的な宣言でもあるのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
1981年のプリンスは、すでに音楽シーンで注目を浴びつつあったが、その存在は常に「論争」にさらされていた。彼の人種的なルーツや中性的なファッション、性的に曖昧なパフォーマンスは、多くのリスナーを魅了すると同時に、保守的な社会から批判や好奇の視線を集めた。その状況を逆手に取り、自ら「Controversy」というタイトルで歌を発表したこと自体が、挑発的でありながらもプリンスらしいアイロニーだった。
アルバム『Controversy』全体は、性愛と社会的規範、政治的意識と個人的自由といったテーマを交錯させている。その中で表題曲は、最も直接的にプリンス自身の存在をめぐる論争を素材にしており、まさに彼のアーティスト像を提示する自己紹介的な楽曲となっている。
また、歌詞の一部には「Lord’s Prayer(主の祈り)」が引用されている点も重要である。これはプリンスが宗教的モチーフを作品に取り入れる最初期の例であり、後の『Purple Rain』や『Sign “O” the Times』などに見られる「宗教とセクシュアリティの融合」の萌芽がここにある。すなわち「Controversy」はプリンスの思想的な出発点でもあった。
リリース当時、この曲はクラブやブラック・ラジオ局を中心に強い支持を受け、ビルボードR&Bチャートで3位を記録。ポップチャートでは最高70位と控えめであったが、文化的なインパクトは大きく、以後のプリンスの活動を規定する象徴的作品として語り継がれている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Controversy」の代表的なフレーズを抜粋し、原文と日本語訳を示す。
引用元:Prince – Controversy Lyrics | Genius Lyrics
Am I black or white?
俺は黒人なのか、それとも白人なのか?
Am I straight or gay?
俺はストレートなのか、それともゲイなのか?
Do I believe in God?
俺は神を信じているのか?
Do I believe in me?
それとも自分自身を信じているのか?
I just can’t believe
信じられないんだ
All the things people say
人々が言うことのすべてが
Controversy
論争ばかりだ
Controversy
物議を醸す存在だ
Our Father, who art in Heaven,
天にまします我らの父よ
Hallowed be thy Name
み名があがめられますように
ここでプリンスは、自らの存在が常に「論争」として語られることを逆手に取り、むしろその問いを自分自身で提示する。宗教的な祈りとポップ・ミュージックが融合することで、楽曲はただのクラブ・トラック以上の奥行きを持つ。
4. 歌詞の考察
「Controversy」は、プリンスのアイデンティティ表明の書とも言える。彼が直面していたのは、音楽的才能以上に、その存在そのものへの問いであった。「黒人か白人か」「ゲイかストレートか」という二項対立的な問いに対し、プリンスは答えを出さない。むしろその曖昧さを誇りとし、自らの魅力の源泉にしているのだ。
歌詞の中で繰り返される「Do I believe in God? / Do I believe in me?」という問いは、プリンスの生涯を貫くテーマを先取りしている。宗教と自己、信仰と欲望、その相克がここにすでに表れており、彼の後の作品における深遠な探求の出発点となった。
また「Our Father(主の祈り)」を大胆に挿入したことは、当時としては非常に挑発的であり、聖と俗を混在させるプリンスの独創性を示している。セクシュアリティを強調したポップ・ミュージックに宗教的言葉を重ねることで、彼は「人間の欲望と信仰は相反するものではなく、むしろ同じ源泉を持つ」と訴えているかのようである。
音楽的に見れば、この曲はファンクのグルーヴを基盤にしつつ、冷たいシンセや反復するビートによってニューウェーブ的な感触を持ち合わせている。これはプリンスがR&Bやソウルにとどまらず、同時代の白人ロックやパンク的文脈とも交錯するアーティストであることを示している。
つまり「Controversy」は、単なる楽曲というよりも「存在の宣言」であり、プリンスが自らの論争的アイデンティティを武器に変えた瞬間を刻む作品なのだ。
コピーライト:Lyrics © Universal Music Publishing Group
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sexuality by Prince
同じ『Controversy』収録曲で、セクシュアリティを社会的解放と結びつけた挑発的な楽曲。 - Uptown by Prince
『Dirty Mind』(1980)の代表曲で、自由と多様性を祝福するアンセム的存在。 - Word Up! by Cameo
80年代ファンクの代表曲。挑発的でありながらキャッチーなサウンドが「Controversy」と響き合う。 - Do I Do by Stevie Wonder
同時代のソウルの大作。リズムとメッセージ性の融合がプリンスとの親和性を感じさせる。 - Burning Down the House by Talking Heads
ニューウェーブとファンクの交差点に立つ一曲。プリンスの実験精神と共鳴する部分が多い。
6. プリンスのアイデンティティ宣言としての意義
「Controversy」は、プリンスが単なる音楽家を超えて「文化的存在」として認識される契機となった作品である。彼はここで自らの性別・人種・宗教観をめぐる論争を逆手に取り、むしろそれを自分の芸術の核心として提示した。つまり「論争こそが自分の武器である」と宣言したのだ。
この姿勢は、後に『1999』や『Purple Rain』での爆発的成功へと繋がっていく。プリンスは音楽だけでなく、その生き方そのものを通して社会規範を揺さぶり続けた。その原点が「Controversy」に刻まれているのである。
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