1. 歌詞の概要
「Concrete」は、ロンドン南部出身のポストパンク・バンド、Shameが2018年に発表したデビュー・アルバム『Songs of Praise』の中でも特にエネルギッシュで印象的なトラックである。この楽曲は、恋愛における一方通行の関係性や、無力感、反復される会話の虚しさをテーマにしている。タイトルの「Concrete(コンクリート)」は、硬く冷たい物質でありながら、その中に埋もれてしまった感情や、身動きが取れない閉塞感を象徴するかのようでもある。
冒頭から鋭いギターリフと疾走感のあるリズムで始まり、ボーカルのCharlie Steenが語るように吐き出すヴォーカルが、聴き手を一気に混沌の中へと引き込んでいく。歌詞の内容は一見すると恋人とのやりとりのようだが、その実、相互理解が成立しない会話の断絶、言葉の空転を描いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Shameは、2010年代後半のUKポストパンク復興の流れの中で頭角を現したバンドであり、「Concrete」はその代表的な楽曲と言える。彼らが活動を開始したブリクストンのパブ「The Queen’s Head」は、彼らにとってホームグラウンドであり、ローカルなエネルギーと不満、そして若さゆえの苛立ちがこの曲にも色濃く反映されている。
この曲の特徴は、ツインボーカルのように繰り返されるコーラスで、Charlie SteenとギタリストのSean Coyle-Smithが交互にボーカルを担当することで、まるで永遠に噛み合わない二人の会話劇を描いているような構成になっている。このアイデアは、彼らが日常の中で感じる摩擦や葛藤を音楽的に表現するための手段でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的な部分を抜粋し、その和訳を掲載する。
The more I try to sleep
The more I see your face
眠ろうとすればするほど
君の顔が浮かんでくる
The more I look to you
The more I lose my faith
君を見つめれば見つめるほど
僕は信じる気持ちを失っていく
I hope that you’re hearing me
As clear as the glass I see through
僕の声が君に届いているといい
僕が見つめるこのガラスのように
But the words just keep slipping
Like concrete through fingers
けれど言葉は指の隙間から
コンクリートのようにこぼれ落ちていく
歌詞引用元:Genius – Shame “Concrete”
4. 歌詞の考察
「Concrete」はそのサウンドの激しさと対照的に、歌詞においては非常に繊細で感情的な葛藤が描かれている点が特に興味深い。ここで歌われている「会話」とは、恋人とのやり取りのように見えて、もっと根源的な「理解されたいという欲求」と「届かない苛立ち」との衝突である。
「The words just keep slipping / Like concrete through fingers」という一節は、通常ではあり得ない比喩だが、ここでは「言葉の重さ」や「伝わらない苦しさ」をコンクリートという物質に託して描いている。手で掴もうとしても指の間から落ちていく、しかもそれがコンクリートであるという点に、重たく硬質な“意味”が込められているように思える。
さらに、ツインボーカルが交互に語りかけることで、まるで平行線をたどる2人の思考や感情の断絶が浮き彫りになる。聴き手はその狭間に置かれ、もがくような心の動きに巻き込まれていくのだ。
このように、「Concrete」は非常に個人的で内省的な内容を、怒涛のサウンドに乗せて表現することで、現代的な疎外感や不安定な人間関係への批評としても機能している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Overload by Yard Act
イギリス的風刺と社会観察をスピード感のあるポストパンクで描いた1曲。 - Staring at the Sun by Gilla Band
音と言葉の暴力性が際立つ、聴く者を不安にさせる独特な感触のトラック。 - Wide Awake by Parquet Courts
ダンスパンク的なグルーヴと政治的なメッセージを融合させた軽快で力強い曲。 -
Mr. Motivator by IDLES
ユーモアと怒りを行き来するリリックと、筋肉質なサウンドが印象的なナンバー。 -
Scratchcard Lanyard by Dry Cleaning
語り口調のボーカルとフラットな演奏が不気味な魅力を放つ、現代的ポストパンクの代表曲。
6. 楽曲構造と音像の緻密さについて
この曲が特筆すべき点の一つに、ライブパフォーマンスを前提とした構造の緻密さがある。イントロの鋭角的なギターリフ、途中で繰り返されるブレイクと再構築、最終的にサウンドが飽和していくクライマックスに至るまで、まるでライブ会場で観客を煽り、巻き込むことを意識して練られているかのようだ。
また、音像は意外なほど整理されており、2本のギターはそれぞれ明確に役割を分担している。片方がリフを繰り返す中で、もう一方がより自由に空間を広げていくような役割を担っており、バンド全体の音圧の中にもしっかりと余白が感じられる。
そして何より、Charlie Steenのヴォーカルは、叫ぶでもなく、語りかけるでもなく、その中間にある絶妙な“吐露”として存在している。この表現こそが、「Concrete」の感情の生々しさを最も強く際立たせているのだろう。
この曲は、青春の混沌や言葉にできないもどかしさを、直情的なサウンドで突き刺すように表現した一編の詩である。混乱と衝動が交錯するその音像は、聞き手の心にざらついた感触を残し、何度も再生させたくなる強烈な中毒性を持っている。Shameの世界観の中でも特に印象的なこの楽曲は、ポストパンクというジャンルの可能性を更新し続ける彼らの真骨頂と言えるだろう。
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