
1. 楽曲の概要
「One Rizla」は、イギリス・サウスロンドン出身のポストパンク・バンド、Shameが2017年に発表した楽曲である。2018年1月12日にDead Oceansからリリースされたデビュー・アルバム『Songs of Praise』に収録され、同作の3曲目に置かれている。シングルとしては2017年11月に公開され、アルバム発売前にバンドの名前を広く知らせる役割を果たした。
Shameは、Charlie Steen、Eddie Green、Sean Coyle-Smith、Josh Finerty、Charlie Forbesによる5人組である。Fat White FamilyやGoat Girlなどと同じく、2010年代後半のサウスロンドンのギター・バンド・シーンと結びついて語られることが多い。パブや小規模なライブハウスを拠点に、攻撃的なライブ、皮肉を含む歌詞、ポストパンク由来の硬いグルーヴによって注目を集めた。
「One Rizla」は、Shameの初期曲の中でも特にキャッチーな楽曲である。アルバム『Songs of Praise』には、「Dust on Trial」「Concrete」「Tasteless」「Friction」など、鋭いギターと怒りのエネルギーを前面に出した曲が並ぶ。その中で「One Rizla」は、メロディの親しみやすさと、歌詞の自虐的な態度が強く印象に残る。
タイトルの「Rizla」は、巻きタバコ用の紙のブランド名である。曲名だけを見ると、若者の生活の断片を切り取ったような軽い印象を受ける。しかし、歌詞の中心にあるのは、若いバンドが自分たちの声や言葉の価値を疑いながら、それでも大声で歌うという矛盾である。「One Rizla」は、Shameの怒りをただの反抗としてではなく、自己認識と不安を含んだものとして示した重要曲である。
2. 歌詞の概要
「One Rizla」の歌詞は、自己卑下と開き直りを中心にしている。語り手は、自分の声が特別に優れているわけではないこと、言葉が嫌われる可能性があることを認める。それでも、最終的には「それがどうした」と突き放す。この態度が曲の核である。
ポストパンクやパンクの文脈では、怒りや反抗を正面から表す曲が多い。しかし「One Rizla」では、語り手が自分の正しさや重要性を全面的に信じているわけではない。むしろ、自分たちが特別ではないこと、声も完璧ではないこと、言葉もすでに誰かが言ったものかもしれないことを理解している。そのうえで、なお歌うことを選んでいる。
この自意識は、2010年代後半の若いギター・バンドらしい感覚でもある。過去のポストパンク、パンク、ガレージロックの系譜がすでに存在し、若いバンドが新しい怒りを語ろうとしても、それがどこか既視感を持ってしまう。Shameはその状況を隠さない。「自分たちの怒りが新しいとは限らない」という認識を持ちながら、それでも現在の身体と声で鳴らす。
歌詞には、ロック・スター的な大げさな自己神話はない。むしろ、自分の声や言葉を笑いながら提示するような態度がある。しかし、その軽さの奥には、聴かれたいという欲求もある。どうでもいいと言いながら、本当はどうでもよくない。この矛盾が「One Rizla」を単なる陽気なインディー・ロック曲ではなく、Shameらしい自虐と切迫感を持つ楽曲にしている。
3. 制作背景・時代背景
「One Rizla」が発表された2017年から2018年にかけて、イギリスのギター・ロックは再びポストパンク的な硬さを帯びて注目されていた。ロンドン南部では、Fat White Family、Goat Girl、HMLTD、Shameなどが、従来のインディー・ロックとは違う、不穏で政治的な空気を持つシーンを形成していた。そこには、ブレグジット後の社会不安、若年層の閉塞感、ロック・バンドという形式への疑いが混ざっていた。
Shameのデビュー・アルバム『Songs of Praise』は、その流れの中で高く評価された作品である。タイトルはBBCの長寿宗教番組『Songs of Praise』を想起させるが、内容は宗教的な賛美とは反対に、怒り、皮肉、幻滅、若さの過剰なエネルギーに満ちている。アルバム名自体に、英国的な制度や伝統をからかうような感覚がある。
「One Rizla」は、アルバム制作時点ですでに古くから存在していた曲とされる。Shameのメンバーが10代の頃に作った曲であり、バンドの初期衝動をそのまま残している。後年のインタビューやレビューでも、この曲は未成熟さと正直さが同居した曲として語られている。完成された大人の視点ではなく、若いバンドが自分たちの立場を半ば笑いながら叫んでいる点が重要である。
プロデュースはDan FoatとNathan Boddyが担当している。音は過度に磨かれず、ライブ・バンドとしての荒さを残している。一方で、ギターやリズムの輪郭は明瞭で、ただの雑なパンクにはなっていない。Shameの魅力は、暴れるだけではなく、曲としてのフックを持っている点にある。「One Rizla」はその代表例である。
ミュージック・ビデオもこの曲の受容に影響した。映像では、メンバーが屋外で豚を抱いたり、やや滑稽で不格好な姿を見せたりする。過剰に格好よく見せるのではなく、自分たちを少しずらして提示する姿勢は、曲の自虐的な歌詞と合っている。Shameは怒れる若者として扱われながらも、単純なヒーロー像を避けていた。
4. 歌詞の抜粋と和訳
My voice ain’t the best you’ve heard
和訳:
僕の声は、君が聴いた中で最高のものではない
この一節は、曲の自意識を端的に示している。語り手は、自分を偉大なシンガーとして提示しない。むしろ、最初から自分の限界を認める。そのうえで歌うからこそ、曲には開き直りの強さが生まれる。
And you can choose to hate my words
和訳:
君は僕の言葉を嫌うこともできる
ここでは、聴き手の拒否があらかじめ想定されている。語り手は、理解されることや賛同されることを当然とは考えていない。この距離感が、Shameの歌詞を単純な反抗歌から遠ざけている。嫌われる可能性を認めながら、それでも声を出す姿勢が曲の中心にある。
引用した歌詞は、批評・解説に必要な範囲に限定した。「One Rizla」は、短いフレーズの中に自嘲、開き直り、承認への欲求を重ねる楽曲である。
5. サウンドと歌詞の考察
「One Rizla」は、Shameの楽曲の中では比較的明るいギター・ポップの輪郭を持つ。イントロからギターは軽く跳ね、メロディも覚えやすい。『Songs of Praise』の中には、より重く、暗く、攻撃的な曲も多いが、この曲はアルバム前半で一度空気を開く役割を持っている。
ただし、サウンドは単純に軽快なだけではない。ギターは明るく鳴りながらも、音色にはざらつきがある。整ったポップ・ロックの滑らかさではなく、パブやライブハウスで鳴るバンドの生々しさが残っている。Eddie GreenとSean Coyle-Smithのギターは、曲を飾るというより、リズムと緊張を作るために使われている。
リズム隊も重要である。Josh Finertyのベースは曲の推進力を支え、Charlie Forbesのドラムは軽快だが緩まない。ポストパンク的な硬さを持ちながら、曲全体は合唱できるインディー・ロックとして成立している。このバランスが「One Rizla」の聴きやすさにつながっている。
Charlie Steenのボーカルは、技術的な美しさよりも、言葉を投げつける力を重視している。歌詞で「自分の声は最高ではない」と言っているように、この曲では完璧な歌唱よりも、声の質感そのものが意味を持つ。少し荒く、皮肉を含み、しかしどこか必死である。その声が、歌詞の自虐と開き直りを具体的に響かせている。
サビの魅力は、メロディの明快さにある。Shameは攻撃的なバンドとして紹介されることが多いが、「One Rizla」を聴くと、彼らがキャッチーなフックを書けるバンドであることがわかる。怒りや皮肉を、ただ叫ぶだけではなく、観客が歌える形にしている。ライブでこの曲が強く機能する理由もここにある。
歌詞とサウンドの関係で見ると、「One Rizla」は矛盾を抱えた曲である。歌詞は自信のなさを語るが、サウンドは非常に堂々としている。語り手は、自分の声も言葉も大したものではないと認めるが、バンドはその言葉を大きなサビに乗せる。つまり、曲は自己否定をしながら、同時に自己主張をしている。
この矛盾は、Shameの初期の魅力そのものでもある。彼らは「ロック・スター」という役割を疑いながら、ライブでは非常に強い存在感を放つ。自分たちを特別だとは言わないが、演奏は強烈である。「One Rizla」は、そのねじれを最も親しみやすい形で示した曲である。
アルバム『Songs of Praise』の中での位置づけも重要だ。1曲目「Dust on Trial」と2曲目「Concrete」は、より不穏で緊張感のある流れを作る。その直後に「One Rizla」が入ることで、アルバムは一気に聴き手を引き込む。重いポストパンクのアルバムでありながら、単調にならないのは、この曲のようなメロディの強い楽曲があるからである。
また、「One Rizla」はShameの後続作と比較しても興味深い。2021年の『Drunk Tank Pink』では、より複雑で神経質なリズムや内省が前面に出た。2023年の『Food for Worms』では友情や共同体への視点が強まった。それに対して「One Rizla」は、若いバンドが自分たちの未熟さを笑いながら走り出す瞬間を捉えている。粗さが欠点ではなく、曲の本質になっている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Concrete by Shame
『Songs of Praise』の2曲目であり、「One Rizla」直前に置かれた重要曲である。こちらはより緊張感が強く、反復されるフレーズが不安を高めていく。Shameのポストパンク的な硬さを知るには欠かせない曲である。
- Tasteless by Shame
同じく『Songs of Praise』収録曲で、鋭いギターと攻撃的なボーカルが目立つ。「One Rizla」のキャッチーさよりも、バンドの怒りと皮肉が前面に出ている。アルバム全体の荒々しさを理解するために聴きたい曲である。
- Gold Hole by Shame
Shameの初期の不穏さとサウスロンドン的な猥雑さが強く出た曲である。「One Rizla」のような明るいフックは少ないが、バンドが単なるギター・ポップではないことを示している。Charlie Steenの語りに近いボーカルも聴きどころである。
- Boys in the Better Land by Fontaines D.C.
同時期に注目されたアイルランドのポストパンク・バンドによる楽曲である。Shameと同じく、若い世代の苛立ちとギター・バンドの推進力を結びつけている。「One Rizla」の合唱感が好きな人には聴きやすい。
- The Overload by Yard Act
2020年代の英国ポストパンクの流れを知るうえで重要な曲である。Shameよりも語り口はドライで皮肉が強いが、社会への違和感と自意識を言葉で押し出す点に共通点がある。ロック・バンドの形式を自覚的に扱う姿勢も近い。
7. まとめ
「One Rizla」は、Shameのデビュー・アルバム『Songs of Praise』を代表する楽曲のひとつである。2017年にシングルとして発表され、2018年のアルバムでは序盤の流れを大きく開くキャッチーな曲として機能している。ポストパンクの硬さと、インディー・ロックとしての歌いやすさが共存した楽曲である。
歌詞は、自分の声や言葉に対する不信感を出発点にしている。語り手は、自分が特別な存在ではないことを理解している。それでも、嫌われる可能性を受け入れながら歌う。その開き直りが、Shameの若さと強さをよく表している。
サウンド面では、軽快なギター、硬いリズム隊、Charlie Steenの荒いボーカルが組み合わされている。攻撃的でありながら、サビは非常に覚えやすい。怒りをただ激しく鳴らすのではなく、自虐とユーモアを含んだアンセムに変えている点が重要である。
「One Rizla」は、Shameが単なる怒れる若者のバンドではなく、自分たちの立場や限界を意識しながら、それでもロック・バンドとして声を上げる存在であることを示した曲である。『Songs of Praise』の中でも、バンドの初期衝動とポップな才能が最もわかりやすく表れた一曲といえる。
参照元
- Shame – Songs of Praise / Dead Oceans
- shame – One Rizla Official Video / YouTube
- One Rizla Lyrics — Shame / Dork
- Shame: Songs of Praise Album Review / Pitchfork
- Shame – Songs Of Praise / ele-king
- Shame – Songs of Praise / Loud And Quiet
- Shame Announces Debut Album, Shares New Video / New Noise Magazine
- Songs of Praise – Shame album / Wikipedia
- One Rizla – song and lyrics by shame / Spotify

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