アルバムレビュー:Complete Third by Big Star

※本記事は生成AIを活用して作成されています。


発売年:2016年

ジャンル:パワー・ポップ、アート・ロックフォーク・ロック、バロック・ポップ、プロト・インディー、サッド・ポップ

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概要

Complete Thirdは、ビッグ・スターの実質的な3作目にあたる『Third』、あるいはしばしば『Sister Lovers』として知られる作品世界を、セッション、別テイク、ラフ・ミックス、断片を含めて包括的に提示したアーカイヴ作品である。したがって、これは通常の意味での“完成済みアルバム”ではない。むしろ、ロック史上もっとも神話化された未完/変形作品のひとつを、その生成過程ごと公開した巨大な記録と捉えるべきだろう。ビッグ・スターというバンドは、商業的には成功しなかったが、後年のオルタナティヴ・ロック、インディー・ポップ、ギター・ポップに計り知れない影響を残したグループである。その中でも『Third』は、前2作の瑞々しいパワー・ポップ的輝きから大きく逸脱し、崩壊、孤独、自己破壊、美意識の暴走、録音室という密室空間そのものを音にしてしまった特異作として長く語り継がれてきた。Complete Thirdは、その異様な魅力の全貌を、完成品の神秘性を損なうどころか、むしろいっそう深く照らし出す。

ビッグ・スターのキャリアを簡潔に振り返ると、1作目『#1 Record』と2作目『Radio City』は、アレックス・チルトンとクリス・ベル、のちにはジョディ・スティーヴンスらを中心に、ブリティッシュ・インヴェイジョン以降のメロディ感覚とアメリカ南部的な陰影を兼ね備えた、極めて洗練されたギター・ポップを提示していた。しかし商業的失敗、メンバーの脱退、流通不全などが重なり、バンドは急速に解体へ向かう。その果てに現れたのが『Third』のセッションである。ここではもはや“バンド”というより、アレックス・チルトンを核にした不安定な共同体が、録音室で断片的に音を積み上げていく。ストリングス、メロトロン、ピアノ、ブラス、ラウンジ風味、悪夢のようなカバー、ほとんど壊れかけた歌唱――そうした要素が入り混じり、前2作の爽やかなギター・バンド像は完全に解体されている。

この作品世界の重要性は、1970年代半ばのロックにおいて、内省や破綻がどのようにポップの形式と結びつきうるかを極端なかたちで示した点にある。『Third』はしばしば“悲痛な名盤”“崩壊の美学”として語られるが、その実体はもっと複雑だ。たしかにアレックス・チルトンの精神的揺らぎ、ドラッグやアルコールの影、対人関係の破綻は背景として無視できない。しかしこの作品が特別なのは、単に暗いからではない。ポップソングという形式を知り尽くしたソングライターが、なおポップの快楽を完全には捨てず、その快楽が崩れていく瞬間まで記録してしまったことにある。つまりここには、名曲を書ける人間が名曲の残骸まで美しくしてしまう、きわめて残酷な魅力がある。

音楽史的には、本作は後のR.E.M.、The Replacements、Teenage FanclubElliott SmithWilcoYo La Tengo、さらにはインディー・ポップ全般にまでつながる“壊れやすい歌”の原点のひとつである。前2作がパワー・ポップやジャングリー・ギター・ポップの源泉として参照される一方、『Third』は、ポップの内側から自己破壊が始まる感覚、親しみやすいメロディと深い不安が同居する感覚、完成しきらないこと自体が作品の真実になる感覚を後続に残した。Complete Thirdは、その影響の源泉を、単なる神話ではなく具体的な音の層として聴かせる。完成版だけでは見えにくかった選択の偶然性、アレンジの分岐、チルトンの気分の揺れ、録音のその場性が、生々しく露出するからだ。

また、この作品集は“アーカイヴ盤”の理想形のひとつでもある。しばしばアーカイヴ作品は、熱心なファン向けの資料集にとどまり、一般リスナーには冗長に映る。しかしComplete Thirdは、たしかに膨大でありながら、その膨大さ自体が『Third』という作品の本質に直結している。なぜならこのアルバムは、最初から明快な完成形へ向かった作品ではなく、漂流しながら形を変え続けたセッション群だからである。別テイクの存在は蛇足ではなく、同じ曲がどの程度“別の人生”を持ちえたかを示してくれる。つまり本作は、ビッグ・スターの伝説的3作目を“作品”としてではなく“出来事”として経験し直すための決定版なのだ。

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全曲レビュー

Complete Thirdは、単一の曲順を持つ通常のスタジオ・アルバムではなく、『Third』周辺の楽曲群を複数のヴァージョンで収めた大規模作品集である。そのため、ここでは『Third』の核となる主要曲を中心に、作品世界の構造が見えるように読み解いていく。重要なのは、個々の曲の完成度だけでなく、それぞれがこの異様なセッション群の中でどのような役割を担っているかである。

1. Kizza Me

この曲は、『Third』の世界の中では比較的短く、軽やかで、奇妙にポップである。だがその“軽さ”は前2作のような無垢なパワー・ポップとはまったく異なる。どこか投げやりで、性的で、コミカルで、少し不穏だ。タイトルの幼児語めいた響きと、音楽の持つ崩れた色気のギャップが印象的で、作品全体の倒錯したユーモアを早い段階で示している。アレックス・チルトンはここでまだ“ロックンロールの身振り”を保っているが、その身振りはすでに安定した自己表現ではなく、半ば演技、半ば自棄として鳴っている。この曲があることで、『Third』は単なる沈鬱なアルバムではなく、壊れかけた快楽のアルバムでもあることがわかる。

2. Thank You Friends

本作の代表曲のひとつであり、皮肉と感謝が表裏一体になった奇妙な名曲である。タイトルだけ見れば祝祭的でポジティヴな歌のようだが、実際には豪奢なアレンジ、コーラス、ブラスをまといながら、どこか空虚で、感謝の言葉が本心なのか自己演出なのか判然としない。ここに『Third』の核心がある。つまり、感情は直接表明されず、常にねじれ、役割を演じることでしか出てこない。音楽的には非常にキャッチーで、ビッグ・スター的メロディ感覚がはっきり残っている一方、その華やかさはカタルシスではなく、むしろ虚飾のように響く。ポップであること自体が悲しい、というこのアルバムの構造がもっともよく表れた曲である。

3. Big Black Car

アレックス・チルトンのソングライティングの中でも、もっとも静かで、もっとも死の気配を帯びた一曲のひとつだろう。テンポは遅く、伴奏は抑制され、歌はひどく近い距離で囁かれる。ここではドラマは起きない。むしろ何かがすでに終わってしまった後の静寂がある。“黒い車”というイメージは、アメリカン・ロックにおける移動や自由の象徴とは逆に、終末や収容、あるいは逃れられない運命の影として現れる。この曲が恐ろしいのは、大げさな絶望の演技を一切しないことだ。感情は平坦に近く、その平坦さがかえって深い断絶を感じさせる。後年のスロウコアやサッド・インディーの感覚にまで通じる、静かな決定打である。

4. Jesus Christ

クリスマス・ソングのようでもあり、祈りの歌のようでもあり、同時にアレックス・チルトン的皮肉が滲む異色曲である。ビッグ・スターはもともと南部的な宗教文化の空気と無縁ではないが、この曲は敬虔さと距離感が奇妙に混じる。メロディそのものは驚くほど美しく、温かみすらある。しかしその温かさが、作品全体の冷えた空気の中では逆に不安を呼ぶ。純粋な信仰告白なのか、アメリカ文化への複雑な視線なのか、個人的な慰めの希求なのか、意味は開かれたままだ。だからこそこの曲は、『Third』の中で数少ない“優しい”瞬間でありながら、その優しさが決して無垢ではない。

5. Femme Fatale

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド曲のカバーだが、この選曲自体が示唆的である。ルー・リード的な都会の退廃を、アレックス・チルトンは南部の荒んだ親密さへ引き寄せて歌う。原曲の突き放した冷たさに対し、こちらはもっと脆く、もっと疲れていて、もっと個人的な傷の匂いがする。カバーでありながら、曲の主題が『Third』全体の女性像や関係性の崩れと自然につながっている点も重要だ。ビッグ・スターはもともと英米ポップの継承者だったが、この時期になるとその継承は憧れではなく、自己崩壊のための鏡として機能している。

6. O Dana

本作の中でも特に簡素で、フォーク的な素朴さを残した曲である。しかしその素朴さは癒しではなく、むしろ作品全体の混乱の中にぽつんと置かれた個人的メモのように響く。アレックス・チルトンの歌は親密だが、相手に届こうとする強い意志があるというより、自分の内側で言葉を転がしているような感じが強い。『Third』には豪華なアレンジも多いが、こうした簡潔な曲があることで、アルバムの崩壊が単なる音響的実験ではなく、非常に個人的な心の揺れに根ざしていることが見えてくる。

7. Holocaust

『Third』を象徴する、そしてロック史の中でも特に痛ましい名演のひとつである。タイトルの重さもさることながら、本当に衝撃的なのはその歌唱だ。アレックス・チルトンはここで劇的に泣き崩れるわけでも怒鳴るわけでもない。ただ感情の芯が抜け落ちたような声で、淡々と、しかしどこまでも深く沈んでいく。この“感情の消失”こそが曲の本質であり、歌詞の内容以上に恐ろしい。演奏も極度に抑制され、余白が広い。そのため、言葉の一つひとつが寒気を伴って響く。後年この曲が数多くのアーティストにカバーされたのは理解できるが、原曲のこの生々しい虚無にはなかなか届かない。『Third』の中心核であり、アレックス・チルトン神話のもっとも暗い核心でもある。

8. Kangaroo

夢の中で鳴っているロックソングのような曲であり、本作の音響的・感情的特異性をもっとも端的に示す一曲である。ギターは霞み、リズムは頼りなく、歌は遠く、全体が現実から半歩ずれた場所で揺れている。歌詞は断片的で、意味はつかみきれないが、その断片性そのものが重要だ。ここではポップソングは物語を伝える装置ではなく、壊れた意識の断片をそのまま通す媒体になっている。ドリーム・ポップやスロウ・コア、ノイズを含んだインディー・ロックが後年この曲に惹かれた理由は明白で、この曖昧な輪郭と深い余韻は、1970年代の時点ではかなり先駆的だった。

9. Stroke It Noel

『Third』の中ではやや異色の、外向きのリズムを持った曲だが、ここでも陽性のエネルギーは完全な解放にはならない。むしろ、はしゃぎたいのにうまくはしゃげない、パーティーの残骸だけが回っているような不安定さがある。タイトルやノリの軽さに反して、どこかギクシャクしており、セクシャルで快楽的なロックンロールの形式がそのまま歪んでいるのが面白い。『Third』の曲群はしばしば極端に暗いものとして語られるが、実際にはこうした歪んだ高揚も重要であり、そのことで作品は単調な“鬱の記録”を超えている。

10. For You

この曲には、ビッグ・スターのソングライターとしての古典的な美点が比較的はっきり残っている。メロディは美しく、ラブソングとしても機能しうる形を保っている。しかし当然ながら、それは前2作のような素直な胸の高鳴りではない。『Third』という文脈に置かれることで、献身や優しさの言葉はどこか頼りなく、今にも崩れそうに聞こえる。この“名曲の形をしていながら安定しない”感じこそ、本作の醍醐味のひとつである。

11. Blue Moon

スタンダード曲のカバーであり、この作品のアメリカ音楽史との奇妙な接続点でもある。ロックンロール以前から続くポピュラー・ソングの古典を、『Third』の壊れた美学の中に置くことで、曲はノスタルジーの対象ではなく、過去の亡霊のように響き出す。アレックス・チルトンは昔ながらの歌を“美しく歌い継ぐ”のではなく、その美しさを保ったまま居心地悪くしてしまう。アメリカン・ポップへの愛着と、その世界にもう戻れないという感覚が同時に存在する点で、このカバーは非常に意味深い。

12. Nighttime

『Third』の終盤を象徴するような、時間の感覚が溶けた曲である。夜というモチーフはロックではありふれているが、ここでの夜はロマンティックなものでも都市的なものでもない。むしろ、活動が止まり、感情だけが妙に冴えてしまう時間だ。サウンドも夢うつつで、曲が始まったのか終わったのか判然としないような頼りなさがある。その頼りなさが、アルバム全体の余韻を決定づける。

13. Take Care

この曲が作品世界の出口のように扱われることは多いが、実際には癒やしでも救済でもない。タイトルの“Take Care”は気遣いの言葉であると同時に、別れの言葉にも聞こえる。メロディは驚くほど穏やかで、美しい。だからこそ、その穏やかさの裏にある断絶が痛い。『Third』は崩壊のアルバムでありながら、最後にこうした静かな優しさを残すことで、単なる自滅の記録ではなく、壊れた人間がなお歌を通じて誰かに触れようとした記録として終わる。この余韻の深さが、作品を神話にした最大の理由のひとつだろう。

14. 別テイク/デモ/アウトテイクの意義

Complete Thirdで特に重要なのは、主要曲の別ヴァージョンが、単なる資料的価値を超えて楽曲そのものの意味を変えてしまう点である。あるテイクではよりポップで、別のテイクではより荒れ、また別のミックスでは残響や演奏の配置によってまったく違う感情が立ち上がる。ここからわかるのは、『Third』がひとつの固定された“名盤”ではなく、多数の可能性の束だったということだ。完成版で神秘的に聞こえた要素が、別テイクでは偶然の産物に見えることもあるし、逆に何気なく流していた曲の背後にどれほど繊細な選択があったかが見えてくることもある。この開示こそがComplete Thirdの最大の価値である。

総評

Complete Thirdは、ビッグ・スターの伝説的3作目をめぐる決定版アーカイヴであると同時に、ロックにおける“未完成”や“崩壊”がどれほど豊かな表現たりうるかを示す、きわめて重要な作品集である。ここで聴けるのは、単なる失敗作の残骸でも、後年のファンがありがたがる神話的遺物でもない。むしろ、極度に脆く、不安定でありながら、ポップソングの美しさを捨てきれなかった人間たちの生々しい営みそのものだ。

音楽性の特徴は、パワー・ポップの残光、バロック・ポップ的装飾、フォーク的親密さ、壊れたロックンロール、そして夢とも悪夢ともつかない録音空間が同時に存在する点にある。前2作のような一枚岩の爽快さはない。代わりに、曲ごとに世界がゆがみ、感情の温度が変わり、完成と未完の境目が揺れ続ける。その不安定さこそが本作の主題であり、魅力であり、後続のインディー・ミュージシャンを強く惹きつけてきた理由でもある。

ビッグ・スター入門としては前2作のほうがわかりやすい。しかし、アレックス・チルトンというソングライターの底の深さ、ポップが壊れるときの美しさ、1970年代ロックの裏側に潜んでいた静かな狂気を知るには、この作品集ほど雄弁なものは少ない。Complete Thirdは資料でありながら、同時にひとつの巨大な感情体験でもある。神話を解体してもなお神話であり続ける稀有なアーカイヴだ。

おすすめアルバム

1. Third/Sister Lovers / Big Star

本作の中核となるオリジナル編集版群。まずはこの作品そのものの輪郭を知ることで、Complete Thirdにおける別テイクやセッションの意味がより明確になる。

2. Radio City / Big Star

前作にあたるセカンド・アルバム。よりギター・ポップ的な推進力がありながら、すでに陰影と不安定さが深まっており、『Third』への橋渡しとして重要である。

3. Roman Candle / Elliott Smith

囁くような歌唱、個人的な痛み、繊細なメロディ、録音の親密さという点で、『Third』の遺伝子を強く感じさせる。後続のシンガーソングライター作品として最良の比較対象のひとつ。

4. Tonight’s the Night / Neil Young

崩壊、喪失、酔い、バンドのゆらぎをそのまま作品化した名盤。完成度の意味を別の角度から問い直す作品として、Complete Thirdと並べて聴く価値が高い。

5. 13 / Teenage Fanclub

ビッグ・スター直系のメロディ感覚を1990年代的インディー・ロックへつなげた作品。『Third』ほど崩壊的ではないが、ビッグ・スターが後続に残したソングライティングの影響を確認するのに最適である。

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